第52話 報酬

 パルクの街を歩きながら、俺たちはギルドを目指していた。街並みは独特な雰囲気を醸し出していて、目を引くものばかりだった。


「和風建築が多いね」リリルが周りを見回しながら言った。「日本の古い町並みみたいだわ」


 確かにその通りだった。木造の建物が立ち並び、瓦屋根には反りがあり、軒先には提灯が下がっている。道端には石灯籠が並び、小さな庭園には苔むした石や枯山水が配されていた。


「でも、あれを見て」俺は指差した。建物の壁には大きなホログラムディスプレイが設置され、最新のニュースや情報が流れていた。通りを行き交う人々の中には、空中タブレットを操作している者も多い。


「不思議な組み合わせよね」リリルが微笑んだ。「伝統と最新技術が混在してる。私たちの世界の日本みたいだわ」


 通りの両側には露店が並び、香ばしい食べ物の匂いが漂ってきた。焼き鳥のような串焼きを売る店の前では、ホログラムメニューが空中に浮かび、価格や材料を表示している。


「懐かしいな」俺は思わず呟いた。「東京の下町を歩いてるみたいだ」


 通りを進むにつれ、建物はより大きく、より現代的になっていった。しかし、どの建物も和風の要素を残しており、不思議な調和を保っていた。街角には巨大な桜の木が植えられ、その枝に取り付けられた無数の小型ドローンが、葉の手入れを自動で行っていた。


「ギルドはもうすぐだ」ライカンが前方を指差した。「あそこの大きな建物だ」


 視線の先には、五層楼の形をした巨大な建物が見えた。その屋根には金属製の装飾が施され、夕陽を受けて輝いていた。入り口には、伝統的な鳥居とセキュリティゲートが共存していた。


 巨大な建物の威圧感に、俺は思わず足を止めていた。日本の伝統的な城のような外観は、どこか懐かしさを感じさせる。その独特な建築様式に、心が奪われるのを感じた。


「懐かしく感じるだろう」ライカンが俺とリリルを見て言った。「特にお前たち二人にはな」


「ここを設計したのは、先祖の異世界人だからか」俺は呟いた。突然、この建物に感じていた親近感の理由が腑に落ちた。


「その通りだ。彼らの影響は、今でもパルクの至る所に残っている」


 ギルドの入り口をくぐると、内部は最新のテクノロジーと伝統的な和の要素が見事に調和していた。床は光沢のある木材で作られ、壁には精巧な襖絵が描かれている。しかし、その合間には最新のホログラムディスプレイが設置され、様々な情報を表示していた。


「受付はこちらだ」ライカンは俺たちを案内しながら言った。


 カウンターには、着物を着た受付係が立っていた。彼女の前には、透明なホログラムスクリーンが浮かんでいる。


「お帰りなさい、ライカン様」受付係が丁寧に頭を下げた。「長老様からの依頼の件でしょうか?」


「ああ、報告と報酬の精算をお願いしたい」


 受付係は素早くホログラムスクリーンを操作し、必要な手続きを進めていった。その手際の良さに、現代的な効率性を感じる。


「ライカン様の護衛依頼の冒険者様方ですね」受付係は俺たちの方を向き、にこやかに微笑んだ。「報酬の準備が整っております」


 彼女はカウンターの下から、古風な木箱を取り出した。箱の表面には、繊細な彫刻が施されている。それを開くと、中には整然と並べられた金貨が光を反射して輝いていた。


「こちらが報酬になります。銀貨50枚です」受付係は丁寧に金貨を数え、それぞれの分を小さな袋に分けていった。「パルクの伝統として、重要な報酬は必ず現金でお渡ししております」


「ご協力ありがとうございました」受付係は再び深々と頭を下げた。「また機会がございましたら、パルクの依頼をお受けください」

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いまだかつてない非現実が俺に ペンネペン太郎 @skrm0903

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