第51話 話し合い
俺の言葉を受けて、全員が真剣な表情になった。食事の温もりが残る中、これからの行動について話し合いが始まった。
「俺は、捕まえた盗賊たちを殺すべきだと思う」ライカンが冷静な声で切り出した。その言葉に、場の空気が一瞬凍りついた。
「何を言っているんだ、ライカン!」俺は思わず声を荒げた。「殺人なんて、そんなことできるわけがない」
リリルも同意するように頷いた。「そうよ。私たちは冒険者であって、殺人者じゃない。彼らをギルドに引き渡すべきよ」
ルカは両者の意見を聞いて、慎重に言葉を選んだ。「ライカンの言い分も分かる。彼らを生かしておけば、また襲われる可能性があるからな。でも、殺すのは...」
「俺はライカンに賛成だ」テックが突然口を開いた。「あとでまた追われるのはごめんだぜ。ここで確実に片付けておくべきだ」
意見が真っ二つに分かれ、話し合いは難航を極めた。それぞれが自分の主張を譲らず、緊張感が高まっていった。
しかし、議論が膠着状態に陥ったとき、ライカンが突然態度を軟化させた。「わかった。殺すのは極端すぎた。別の方法を考えよう」
その言葉に、全員がほっとした表情を浮かべた。ライカンは続けて説明した。「実は、俺には盗賊たちを一時的に無力化できる魔法がある。約2週間ほどだが、動けなくすることができる」
「それはいい案だね」俺は安堵の声を上げた。「2週間あれば、俺たちも安全にライカン護衛任務を終えられるし」
全員がこの提案に同意し、ライカンは捕まえていた盗賊たちに魔法をかけ始めた。彼の手から淡い光が放たれ、盗賊たちの体を包み込んだ。
この決定で、パーティの緊張感は一気に和らいだ。殺人という極端な選択肢を避け、かつ自分たちの安全も確保できる方法を見つけたことで、全員が安堵の表情を浮かべていた。
荷物をまとめ終えると、俺たちは再び森の中へと歩を進めた。ライカンを先頭に、慎重に道を選びながら進んでいく。
頭上では木々の葉が風に揺れ、柔らかな木漏れ日が地面に斑模様を描いていた。朝の森は生命力に溢れ、鳥のさえずりや小動物の気配が至る所で感じられた。
時折、足元の落ち葉が乾いた音を立て、その音が静かな森の中に響き渡る。湿った土の香りと、新鮮な空気が肺いっぱいに広がっていく。深い緑に囲まれた道は気持ちがよかった。
その後の旅は、予想以上に平穏なものだった。盗賊たちの襲撃を心配していたが、ライカンの魔法のおかげで、そうした心配は杞憂に終わった。道中では時折野生動物と遭遇したものの、深刻な危険に遭遇することはなかった。
7日目の昼過ぎ、遠くに街の輪郭が見え始めた。パルクだ。狼牙族の街は、周囲を分厚い石壁で囲まれ、その上には鋭い木の杭が並んでいた。街の入り口には巨大な木製の門があり、両側には背の高い見張り塔が立っていた。
「あれがパルクか」ルカが感慨深げに呟いた。「噂には聞いていたが、実際に見るとかなり印象的だな」
確かに、パルクは一般的な人間の街とは全く異なる雰囲気を醸し出していた。建物は全て木と石で作られ、装飾的な要素は最小限に抑えられていた。実用性を重視した作りは、狼牙族の実直な性格を表しているようだった。
街に近づくにつれ、狼牙族の衛兵たちが我々の一行に注目し始めた。彼らの鋭い目は、特にライカンに釘付けになっていた。ライカンは堂々とした態度を崩さず、むしろ誇らしげな表情を浮かべていた。
「ようやく故郷に戻ってきたな」ライカンが深いため息をつきながら言った。「長かったが、この街を出て正解だったと思う。お前たちと出会えたからな」
この7日間の旅で、俺たちの絆は確実に深まっていた。初めは単なる仕事仲間だった関係が、今では互いを信頼できる仲間へと変わっていた。
「さあ、まずは街の中心部にある長老の館まで案内しよう」ライカンが言った。「俺の帰還報告と、お前たちへの報酬の支払いを済ませないとな」
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