第50話 安定

 朝日に包まれた森の中で、俺たちは軽く見回りをしながら休憩を取ることにした。戦いの疲れが少しずつ体から抜けていく感覚を味わいながら、周囲の様子を慎重に観察した。ルカは近くの太い木の幹に寄りかかり、目を閉じて深呼吸を繰り返している。その表情からは、激しい戦いの後の安堵感と、まだ残る緊張感が伺えた。一方、ライカンは相変わらず警戒心を緩めることなく、鋭い目つきで周囲を見渡していた。彼の姿勢からは、いつでも戦闘態勢に入れる準備ができていることが窺えた。


 しばらくすると、空がさらに明るくなり、完全に朝を迎えた。その頃、テックとリリルが目を覚ました。二人は眠気まなこで周りを見回している。まだ完全に目覚めていない様子で、状況を把握しようとしているのが分かった。


「おは……」と俺が挨拶しようとした瞬間、テックの表情が一変した。彼の目が俺の隣に落ち、そこで完全にひもで縛り上げられ、気絶している盗賊を見つけたのだ。テックの顔には、驚きと困惑、そして怒りの感情が次々と浮かんでは消えていった。


「これは一体どういうことだ?」テックは怒りを含んだ声で尋ねた。その目は縛られた盗賊と俺たちの間を行ったり来たりしている。彼の視線には疑念と不安が混ざっていた。


「説明しよう」俺は深呼吸をして、心を落ち着かせてから話し始めた。昨夜の出来事を順を追って、できるだけ詳細に説明した。戦いの緊迫感や、我々が直面した危険について、臨場感を持って伝えようと努めた。


「...ってことがあって」と説明を終えようとすると、テックの表情がさらに険しくなった。彼の眉間にはしわが寄り、目には怒りの炎が燃えていた。


「何があったら呼ぶんじゃなかったのか?」テックは不機嫌そうに言った。その声には怒りと心配が混ざっていた。「危険な状況だったんだろう?俺たちを起こすべきだったんじゃないのか?」彼の声は徐々に大きくなり、その中に含まれる感情の激しさが伝わってきた。


 ルカが一歩前に出て、落ち着いた声で答えた。「呼ぶための距離を取る隙すらなかったんだ、テック。敵は突然現れて、すぐに襲いかかってきた。もし声を上げていたら、お前たちも危険に巻き込まれていたかもしれない」ルカの声には、理解を求める調子が混ざっていた。彼は手振りを交えながら、当時の状況の緊迫感を伝えようとしていた。


 俺はルカの言葉にうんうんとうなずいていた。確かに、あの状況では仲間を呼ぶ余裕はなかった。しかし、テックの心配も理解できる。俺は二人の間で視線を行ったり来たりさせながら、この場の緊張を和らげる方法を考えていた。


 テックは一瞬黙り込んだ後、気絶している盗賊たちを指差した。彼の目には、まだ疑いの色が残っていた。「でもこいつらは倒されてるぞ。お前たち三人だけで、これだけの数を相手に勝てたのか?」彼の声には、驚きと不信が混ざっていた。


 その質問に、俺は咄嗟に嘘をついた。「ああ、実はライカンが一人で倒したんだよ」と言って、ライカンの方を見た。「俺とルカは、ほとんど何もしてない。ライカンの強さには本当に驚いたよ」俺は自然を装いながらも、心臓が早鐘を打つのを感じていた。


 嘘と言っても、実際ライカンだけで倒せたとは思う。彼の戦闘能力は群を抜いているからだ。それでも、この嘘が露見しないか心配だった。


 ライカンは俺の言葉を聞いて、一瞬驚いたような表情を見せたが、すぐに平静を取り戻した。彼は黙ってうなずくだけだった。その様子は、何か言いたいことがあるが、あえて口を閉ざしているように見えた。


 テックは半信半疑の表情で俺たちを見ていたが、それ以上の追及はしなかった。彼の目には、まだ疑いの色が残っていたが、同時に安堵の色も見えた。「まあ、無事で良かったよ」と彼は最後に言った。その言葉には、本心からの安堵と、まだ残る不安が混ざっていた。


 リリルは黙って状況を観察していたが、最後に口を開いた。彼女の声は静かだったが、その中に含まれる鋭さは場の空気を引き締めた。「これからどうするの?この盗賊たちをどうするつもり?」彼女の目は、縛られた盗賊たちと我々の間を行ったり来たりしていた。その眼差しには、次の行動を慎重に選ぼうとする意志が感じられた。


 俺はリリルの質問に対して、少し考えてから答えた。「それはあとで考えよう。今はみんなお腹が空いているんじゃないか?まずは食事をして体力を回復させるのが先決だと思う」


 この提案に、全員が賛同の意を示した。確かに、激しい戦いの後で全員が疲れ切っていた。食事を取ることで、心身ともにリフレッシュできるはずだ。


 近くの小さな空き地に移動し、簡易的な食事の準備を始めた。テックが持参していた干し肉と乾パンを取り出し、全員に分け与えた。リリルは小さな鍋を取り出し、近くの小川で水を汲んできて、簡単なスープを作り始めた。


 朝日が徐々に森を明るく照らし始め、周囲の空気が暖かくなってきた。鳥のさえずりが聞こえ、自然の中で食事を取る心地よさが全員を包み込んだ。


「ああ、美味しい」ルカが口いっぱいに頬張りながら言った。「こんな簡単な食事でも、空腹時は最高の御馳走だな」


 みんなが頷きながら、黙々と食事を続けた。昨夜の緊張感が徐々に和らいでいくのを感じた。食事を共にすることで、パーティの絆が深まっていくような気がした。


「さて、」しばらくして俺は話を切り出した。「食事も終わったところで、これからどうするか話し合おうか」

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