第48話 奇襲

 俺たちは、暗い夜の中を見渡しながら会話を続けていた。ルカに心情を打ち明けた後、しばらくの間、静寂が私たちを包み込んだ。その静けさは、言葉以上に多くのことを語っているようだった。


 しかし、その沈黙を破るように、俺は新たな質問を投げかけた。「ルカさ、なんで冒険を始めたって話をした時、能力アビリティが戦闘に向いてたからって言ってたじゃん?」


 ルカは少し驚いたような表情を見せたが、すぐに優しい笑顔を浮かべて答えた。「うん、そうだね。能力アビリティが強かったから、色んな人を助けていきたいと思ったんだ。それが僕の冒険の始まりだったよ」


 俺は少し考え込んだ後、もう一つの疑問を口にした。「なんで、リリルを連れてきたんだ?」実際のところ、リリルが無理やりついてきたのだろうと予想はしていたが、それでも確認したい気持ちがあった。


 ルカは少し困ったような表情を見せた後、ゆっくりと説明を始めた。「実は、リリルが無理やりついてきたんだ。何日も勝手についてきてね。最初は困ったんだけど...」彼は少し言葉を詰まらせた。


「それで?」俺は促すように尋ねた。


 ルカは深呼吸をして続けた。「リリルは異世界人で、この世界の地形を全く知らないんだ。それに、僕が冒険を始めたのは能力アビリティで人を救うためだったから……リリルを無視するのは、その目的と違うような気がしたんだ」


 俺はルカの言葉を聞きながら、彼の優しさと責任感を改めて感じた。「つまり、リリルを守ることも、お前の使命だと思ったってことか」


 ルカは少し照れくさそうに頷いた。「そうだね。でも、それだけじゃないんだ。リリルは異世界人で特別な能力があって、それが僕たちの冒険に役立つかもしれないと思ったんだ。それに……」彼は少し言葉を選びながら続けた。「一人で異世界にいるリリルの気持ちを考えると、見捨てられなかったんだ」


 俺はルカの言葉に深く頷いた。彼の決断の背後にある思いやりと正義感が、はっきりと伝わってきた。「お前らしいな」俺は小さく呟いた。


 夜の森の中、二人の会話は続いた。ルカの言葉一つ一つが、この世界での彼の在り方と、仲間たちへの思いを物語っていた。俺は改めて、ルカという人物の深さと、彼との絆の大切さを実感した。


 夜が深まるにつれ、俺とルカの会話は続いていた。しかし、長時間の緊張と疲労が蓄積し、次第に眠気が襲ってきた。俺は思わず大きな欠伸をしながら、ポケットに手を入れた。


「そろそろ眠いな」俺は言った。「ライカンからもらった24時間起きるって言ってた薬を飲もうか」


 ルカは少し考えてから頷いた。「そうだね。二人同時に薬を飲もうか」


 俺たちは小さな薬瓶を取り出し、互いに目を合わせてから一気に飲み干した。薬の効果が現れるまでの間、俺たちは再び会話を続けた。しかし、その静けさを破るように、突然木々の方から人の話し声が聞こえてきた。


 俺とルカは瞬時に身を固くし、息を殺した。二人で目配せをし、そっと耳を澄ませる。声の主たちの会話が、夜の闇に紛れながらも少しずつ聞こえてきた。


「……狼牙族がいるって。それに、顔のいい女もいるらしいぜ」


「へぇ、そりゃ興味深いな。で、何人くらいだ?」


「パーティーのメンバーは狼牙族を含めて5人だってさ」


 俺とルカは顔を見合わせた。その瞬間、二人の頭に同じ考えが浮かんだ。この会話の内容は、間違いなく俺たちのことを指している。俺は冷や汗を感じながら、ルカに目配せをした。


 ルカは俺の意図を理解し、静かに頷いた。二人は息を殺したまま、そっとライカンのテントに向かって這うように移動し始めた。地面の小枝や落ち葉を踏まないよう細心の注意を払いながら、ゆっくりとテントに近づいていく。


 テントに到着すると、俺たちは互いに確認し合ってから、そっとテントの入り口を開けた。中では、ライカンが静かな寝息を立てて眠っていた。俺はライカンの肩に手を置き、優しく揺すった。


「ライカン、起きてくれ」俺は囁くように言った。「重要なことがある」


 ライカンは少しうめき声を上げながら、ゆっくりと目を開けた。最初は混乱した表情を浮かべていたが、俺とルカの真剣な顔を見て、すぐに状況の重大さを察したようだった。


「何があった?」ライカンは小声で尋ねた。彼の目は完全に覚醒し、警戒心に満ちていた。


 俺は深呼吸をして、できるだけ落ち着いた声で説明を始めた。「俺たちのことを知っている奴らがいる。今、近くで話をしていた。狼牙族のこと、そして俺たちのパーティーの人数まで知っているみたいだ」


 ライカンの表情が一瞬で引き締まった。彼は素早く身を起こし、武器を手に取った。


「よし、俺たち3人で奴らを倒すぞ」ライカンは低い声で言った。彼の目には決意の光が宿っていた。


 俺とルカは無言で頷いた。3人は素早く、しかし静かに準備を整えた。武器を確認し、互いの背中を軽く叩いて励まし合う。


 準備が整うと、ライカンが先頭に立ち、声のする方向へと慎重に進み始めた。月明かりを頼りに、木々の間を縫うように進む。枯れ葉を踏む音さえ立てないよう、細心の注意を払った。


 やがて、声の主たちの姿が見えてきた。5人ほどの男たちが、小さな焚き火を囲んで座っていた。彼らは油断しきっており、周囲への警戒を怠っているようだった。


 ライカンは俺とルカに目配せし、静かに合図を送った。その瞬間、3人は一斉に飛び出した。


「うおおっ!」ライカンの雄叫びが夜の静けさを破った。

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