第47話 シークの本音

 テックとリリルが寝袋に入ろうとしたとき、リリルが突然立ち止まった。彼女の表情には不安と決意が混ざっていた。


「やっぱり、私も起きていようかな」リリルが言った。彼女の声には、わずかな震えが混じっていた。「二人だけじゃ心配で……もし何か起きたら、すぐに対応できるように」彼女は両手を胸の前で握りしめ、真剣な眼差しで俺たちを見つめた。


「リリル」ルカが優しく声をかけた。彼の声音には、仲間を安心させようとする温かみが溢れていた。「大丈夫だよ。俺たちを信じてくれ。ゆっくり休んで」ルカは微笑みながら、リリルの肩に軽く手を置いた。その仕草には、仲間への信頼と感謝が込められていた。


 リリルは躊躇いながらも、最終的に頷いた。彼女の表情には、まだ少しの不安が残っていたが、仲間を信じる気持ちが勝っているようだった。「わかったわ。でも、本当に何かあったらすぐに起こしてねルカキュン」彼女の言葉には、冗談めかした調子が混じっていた。それは、緊張した空気を和らげようとする彼女なりの努力だった。


 ルカは、呆れたような、でも少し照れくさそうな顔を見せながら「うん」と返事をした。彼の反応に、キャンプ全体が少し和んだ雰囲気に包まれた。


 テックも寝袋に入りかけたが、再び俺たちの方を向いた。彼の眉間にはわずかなしわが寄っていた。「考え直したんだが、やはり途中で交代しないか?長時間の警戒は予想以上に疲れるぞ」テックの声には、経験に基づいた忠告と、仲間を思いやる気持ちが込められていた。


「心配してくれてありがとう、テック」俺は真剣な表情で答えた。テックの言葉に、胸が温かくなるのを感じた。「でも、本当に大丈夫だ。約束通り、何かあればすぐに知らせる」俺の声には、自信と決意が滲んでいた。仲間の信頼に応えたいという強い思いが、その言葉の裏にあった。


 テックはしばらく俺たちを見つめた後、ため息をついた。その目には、複雑な感情が浮かんでいた。「わかった。お前たちを信じよう。だが、無理はするなよ」彼の言葉には、厳しさの中にも深い愛情が感じられた。


 最後の言葉を交わし、テックとリリルは寝袋に潜り込んだ。キャンプは静けさに包まれ、ルカと俺は互いに頷き合った。その瞬間、二人の間に言葉では表せない絆が流れた気がした。


「じゃあ、行くか」ルカが小声で言った。彼の声には、これから始まる任務への期待と緊張が混ざっていた。


 俺は頷き、二人でキャンプの周囲を歩き始めた。月明かりが森を銀色に染める中、俺たちの長い夜が始まった。その光景は神秘的で、まるで別世界に迷い込んだかのような感覚を覚えた。


 しばらくの間、俺たちは黙々と歩き続けた。夜の静けさの中、お互いの足音だけが響いていた。その静寂は、二人の間に流れる無言の会話のようでもあった。


「なぁ、ルカ」俺は突然口を開いた。その声は、夜の静けさを優しく破った。「ちょっと聞きたいことがあるんだけど」


 ルカは少し驚いたように俺を見た。月明かりに照らされた彼の表情には、好奇心と少しの緊張が浮かんでいた。「ん?何だ?」彼の声には、優しさと期待が混ざっていた。


「あのさ……」俺は言葉を選びながら続けた。心の中で、どう切り出すべきか迷っていた。「昨日、俺とリリルがお前らの後に見回りしてたよな」俺の声には、少しの躊躇いが混じっていた。


 ルカの表情が少し硬くなった。彼の目が、わずかに俺から逸れた。「ああ、そうだね。どうしたんだ?」


「その時、リリルと俺で話をしてたんだけど……」俺は躊躇いながらも言葉を続けた。「もしかして、聞いてたりしなかった?」俺は、ルカの反応を注意深く観察した。


 ルカの顔が一瞬赤くなり、慌てて否定した。彼の反応は、予想以上に激しかった。「え?い、いや、聞いてないよ!そんなことするわけないだろ」ルカの声は、普段よりも少し高くなっていた。


「本当に?」俺は少し疑わしげに尋ねた。ルカの反応が、かえって俺の疑念を深めた。


「ほんとだって!」ルカは強く言い返した。彼の声には少し焦りが混じっていた。その表情には、罪悪感と焦りが入り混じっているように見えた。「僕はそんな卑怯なことしないぞ」


 俺はルカの反応を見て、「そっか。ごめん、変なこと聞いて」俺の声には、聴いてたなこいつと思っていた。


「気にするな」ルカは肩をすくめた。彼の表情が、少しずつ元に戻っていく。「でも、なんでそんなこと聞いたの?」ルカの目には、まだ少しの好奇心が残っていた。


「いや、なんとなくさ」俺は曖昧に答えた。本当の理由を言うのは、まだ躊躇われた。「ただの思い付きだよ」俺は、話題を変えたい気持ちを抑えきれなかった。


 二人の間に再び沈黙が訪れた。夜の森の音だけが、その静寂を埋めていた。その沈黙は、二人の間に流れる言葉にならない思いで満ちていた。


 しばらくの間、二人は無言で歩き続けた。ルカは時折、横目で俺の様子を伺っているようだった。その視線には、何か言いたげな思いが込められていた。やがて、彼は静かに口を開いた。


「ねえ、シーク」ルカの声は柔らかく、少し躊躇いがあった。その声音には、深い思いやりと好奇心が混ざっていた。「聞いてもいいかな。こっちの世界に来て、何が一番大変だった?」ルカの目には、真摯な関心が浮かんでいた。


 その質問に、俺は足を止めた。月明かりに照らされた森の中で、俺は少し考え込んだ。答えを探す間、夜の静けさが二人を包み込んだ。その瞬間、時間が止まったかのような感覚に陥った。


「今かな」俺はゆっくりと答えた。その言葉には、複雑な感情が込められていた。過去の苦難を思い返しながらも、現在直面している課題の重さを実感していた。


 ルカは驚いた様子で俺を見つめた。彼の目には、驚きと深い関心が浮かんでいた。「今?どういうこと?」ルカの声には、俺の答えを理解しようとする真摯な態度が感じられた。


 俺は深呼吸をして、言葉を紡ぎ始めた。心の奥底にあった思いが、少しずつ形になっていく。「元々の世界とは、全く異なる常識や金銭感覚。それに……」俺は一瞬言葉を詰まらせた。言葉にするのが難しい感情と向き合っていた。「常に命のやり取りをしなければならない危険な状況。これらすべてが、今この瞬間も俺を悩ませているんだ」俺の声には、苦悩と戸惑いが滲んでいた。


 ルカは黙って聞いていた。彼の目には、理解と心配が混ざっていた。その眼差しには、俺の言葉一つ一つを大切に受け止めようとする姿勢が感じられた。


「特に、命のやり取りの部分は……」俺は続けた。声が少し震えていた。心の奥底にあった不安が、少しずつ表面化していくのを感じた。「今そして今後も俺に付きまとう問題だと思う。それに、元の世界に帰れるかどうかという不安も大きい。正直、これらのことで精神的にしんどくなるかもしれない」俺の言葉には、自分自身への不安と、仲間に対する申し訳なさが混ざっていた。


 言葉を終えると、俺は少し恥ずかしくなった。こんな弱音を吐くのは初めてだった。しかし、ルカの前だからこそ、正直に話せたのかもしれない。俺は、ルカの反応を恐る恐る待った。


 ルカは静かに俺の肩に手を置いた。その温かさが、夜の寒さを少し和らげてくれた。彼の手には、俺を支えようとする強い意志が感じられた。


「シーク、ありがとう。正直に話してくれて」ルカの声には深い理解が込められていた。その言葉は、俺の心に直接響いてきた。「確かに、この世界は厳しい。でも、一人じゃないってことを忘れないでくれ。僕たちがいる。一緒に乗り越えていこう」ルカの声には、強い決意と温かな励ましが溢れていた。


 俺はルカの言葉に、少し安心を覚えた。心の中に、小さな希望の光が灯ったような気がした。二人は再び歩き始めた。夜はまだ長く、多くの課題が待ち受けているが、仲間がいるという事実が、少しだけ俺の心を軽くしてくれた。その瞬間、俺は改めて、この世界で出会えた仲間たちの大切さを実感した。

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