第44話 後ろ
戦いの余韻が残る中、ライカンは突然周囲を警戒するような目つきになった。彼は仲間たちに向かって声を上げた。
「休憩を取らずに進むぞ」
その提案に、皆が驚いた表情を浮かべる。俺が疑問を投げかけた。
「なぜだ? みんな疲れているはずだが」
ライカンは真剣な表情で答えた。「後ろからつけてきている団体がいるんだ。それに……」
彼は一瞬言葉を切り、周囲の荒廃した森を見渡した。
「先ほどの技は自然にエネルギーに変換される特性がある。つまり、この森はすぐに復活し始める。今すぐ進めば、急に生えてくる森で追っ手から逃げ切れるかもしれない」
その説明を聞いて、一同は状況の緊迫さを理解した。疲労を押し殺し、すぐに移動の準備を始める。
ライカンの圧倒的な強さを目の当たりにした俺は、一瞬、追手を倒せばいいのではないかと考えた。しかし、彼の真剣な表情を見て、その疑問を口にすることはできなかった。
なぜ彼は逃げることを選んだのか。その理由は明らかではなかったが、ライカンの判断を信じるしかなかった。彼には我々には見えない何かがあるのかもしれない。
その疑問を胸に秘めたまま、俺たちは急ぎ足で前進を続けた。追手の正体も、ライカンの真意も分からないまま、ただ前へ、前へと進んでいく。
一行は急ぎ足で森の奥深くへと進んでいった。彼らの背後では、既に新芽が地面から顔を出し始めていた。
しばらく急ぎ足で進んでいると、リリルが息を切らしながら声を上げた。
「ちょっと、早すぎるわ! このペースじゃ、すぐに力尽きちゃうわよ」
リリルの言葉に、ライカンは立ち止まり、周囲を警戒しながらも一同を見渡した。
「...そうだな。流石に休憩するか」
ライカンの言葉に、みんなホッとした表情を浮かべる。その時、俺は雰囲気が悪くならないように提案した。
「少し早めだけど、昼ご飯を食べようか。みんな、エネルギー補給が必要だろう」
その提案に、全員が賛同の意を示した。リリルは安堵の表情を浮かべ、テックは早速バッグから食料を取り出し始めた。
休憩場所を探しながら、俺はライカンに近づいた。
「なぜ、追手はお前一人で倒さないんだ?」と俺は率直に尋ねた。
ライカンは冷静な表情で答えた。「倒すことはできる。だが、足手まといたちを死なせないようにするのは無理だからだ」
その言葉に、俺たちが足手まといであるとばっさり切り捨てられたことを感じた。しかし、俺は笑顔を浮かべて「だよな」と返した。
心の中では「強くなりたい」という強い願いが芽生えていた。ライカンのような力を持ち、仲間を守れる存在になりたいという思いが、胸の奥で燃え始めていた。
その後、俺たちは仲間が用意した昼ご飯を食べ始めた。簡素な食事だったが、疲れた体には染み渡るようだった。
簡単な食事を取った後、俺たちは前に進み続けた。ライカンが先頭に立って歩を進める中、徐々に森が深くなっていくのに疑問を覚えた俺は、聞いてみることにした。
「俺たち、街に向かっているんだよな?森が深すぎないか?」
その質問に対して、ライカンは立ち止まることなく答えた。
「狼牙族の街は森の奥だ。普通の人族と接触をできるだけ断って生きている。本来ならもう少し奥に行けば狼牙族だけなら一日でつくが……」
ライカンは言葉を途中で切り、俺の後ろのテックやルカに視点を合わせた後、俺の顔みて
「お前たちのような、足手まといを連れてしかも、追っ手がいるからな」
とそこでライカンは言葉を切り、視点を前にして言葉を再開させた。
「途中で接敵して倒す必要があるだろうな。」
「だがまぁ、それは最終手段だ。」とライカンが言うと、彼は再び森の中をかなりのスピードで進み始めた。
俺たちにとって、ライカンのペースについていくのは至難の業だった。息を切らし、汗を滝のように流しながら、必死に前を行く彼の背中を追った。
森はどんどん深くなっていき、周囲の景色が刻々と変化していった。太陽の光が木々の間から漏れ落ちる様子も、徐々に薄暗くなっていく。うっそうとした木々の間を縫うように進むにつれ、空気はより湿り気を帯び、苔むした岩や倒木が目立つようになった。
時折、見慣れない植物や、奇妙な形をした木の実が目に入る。これらは普通の森では見られないものばかりだ。鳥や小動物の鳴き声も、徐々に聞き慣れないものに変わっていった。
足元は柔らかい腐葉土に覆われ、時折見える小川の水は澄んで美しく、森の奥深さを物語っていた。しかし、その美しさを楽しむ余裕はなかった。ライカンの背中を必死に追いかけるので精一杯だった。
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