第43話 ライカンの本気の一部
ライカンは、またもやパーティーの一番先頭に立った。その姿を見て、俺たちはもはや呆れることもなく、諦めたような表情でそれに続いた。森の中を進んでいくうちに、周囲の空気が少し変わったように感じた。
突然、ライカンが「まて」と低い声で言い、冷静に手で止まれとジェスチャーした。全員が即座に動きを止め、警戒の目を光らせた。
ライカンの目の前には、電線のような細い糸が蜘蛛の巣状に張り巡らされていた。それは通常の蜘蛛の巣とは明らかに違い、不自然な規則性を持って配置されていた。その光景を目にした瞬間、俺とリリル、ルカは身構えた。三人の頭の中には同じ考えが浮かんでいたはずだ。
「また"あいつ"か」俺は小声で呟いた。リリルとルカも頷き、警戒を強めた。
ライカンは慎重に周囲を観察し始めた。彼の鋭い感覚が、何か異常を感じ取っているようだった。「これは罠だ」彼は低い声で言った。「通常の蜘蛛の巣じゃない。魔力を感じる」
「どうする?」ルカが尋ねた。彼の手は既に武器の柄に置かれていた。
ライカンは一瞬考え込んだ後、決断を下した。「迂回するか、お前らを守って戦えるとは思えん」と失礼なことを俺たちに言うと迂回するためにライカンは蜘蛛の巣から目線を外す。その瞬間。
突然、上空から不気味な影が現れた。それは、俺たちが以前遭遇したあの恐ろしい生き物だった。瞬時に状況を把握し、俺は咄嗟に叫んだ。
「エレクトロビックスパイダー!!!」
その叫び声と同時に、巨大な蜘蛛型の魔物が俺たちめがけて降下してきた。その姿は以前見たものと同じく、金属質の外殻に覆われ、背中には電気を帯びた触手のようなものが伸びていた。
ライカンは素早く身構え、低い唸り声を上げた。「くそっ、油断した」
リリルとルカは既に武器を構え、背中合わせで周囲を警戒していた。
「みんな、気をつけろ!」俺は叫びながら、武器を構えた。「奴の電撃攻撃は強力だ。距離を取って戦うんだ!」
エレクトロビックスパイダーは俺たちの上空で旋回し、その赤い複眼で獲物を見定めているようだった。空気が張り詰め、戦いの緊張感が全員を包み込んだ。
次の瞬間、魔物が俺たちめがけて急降下してきた。戦いの火蓋が切って落とされた。
エレクトロビックスパイダーの急降下と同時に、ライカンが前に飛び出した。その動きは、まるで風を切り裂くかのように鋭く、素早かった。魔物の巨大な脚が地面を打つ前に、ライカンはすでにその攻撃範囲から外れていた。
「こいつ、思ったより機敏だな」ライカンは冷静に状況を分析しながら呟いた。彼の目は一瞬も魔物から離れることはなかった。
エレクトロビックスパイダーは怒りの唸り声を上げ、その背中の触手から青白い電撃を放った。しかし、ライカンはその攻撃を予測していたかのように、軽々と避けた。電撃は地面を焦がし、草木を焼き尽くした。
「俺が奴の注意を引きつける!お前たちは隙を見て攻撃しろ!」ライカンの声が響く中、俺は剣を構えた。
「了解!」俺は短く返事をし、魔物に向かって突進した。エレクトロビックスパイダーは再び電撃を放ったが、今度はその攻撃が俺の剣に直撃した。しかし、予想に反して俺は傷つかなかった。
「何!?」驚きの声が仲間たちから上がる。
「説明は後だ!」俺は叫びながら、剣に吸収された電気を魔力を体に吸収する。
電撃攻撃でできた隙を逃さず、ルカとリリルが動いた。ルカは俊敏な動きで魔物の脚元に迫り、鋭い剣撃を繰り出した。一方、リリルは安全な距離を保ちながら、正確な弓矢を魔物の弱点と思われる箇所に向けて放った。
「くそっ、何もできねぇ」テックは焦りの表情を浮かべながら、その場に立ち尽くしていた。彼の手には槍が握られていたが、激しい戦いの中でそれを使う機会を見出せずにいた。
戦いは激しさを増していった。ライカンは驚くべき身のこなしで魔物の攻撃をかわし続け、時折鋭い反撃を加えた。その姿は、まるで風のように軽やかで、同時に雷のように鋭かった。
突然、ライカンの表情が変わった。「もうめんどくせぇ」と低い声で呟くと、彼の体に変化が現れ始めた。犬耳が鋭く立ち上がり、尻尾の毛が逆立った。その姿は、人間の形をした戦士から、より獣に近い姿へと変貌していった。
ライカンの体は一回り大きくなり、筋肉が盛り上がった。彼の目は野性的な輝きを増し、爪と牙が鋭く伸びた。その姿は、まさに獣人そのものだった。
変貌を遂げたライカンは、驚くべき速度でエレクトロビックスパイダーに向かって突進した。その動きは、もはや人間のものではなく、純粋な野生の力そのものだった。
エレクトロビックスパイダーが電撃を放つ前に、ライカンはその巨体に体当たりを仕掛けた。衝撃で魔物が一瞬よろめいた隙を逃さず、ライカンは鋭い爪で魔物の外殻を引き裂いた。
「すげぇ...」テックが思わず声を漏らした。他のメンバーも、ライカンの圧倒的な力に驚きの表情を浮かべていた。
ライカンの攻撃は止まらなかった。彼は魔物の周りを高速で動き回り、次々と鋭い攻撃を繰り出した。エレクトロビックスパイダーは、その猛攻に対して効果的な反撃を行うことができずにいた。
ライカンの攻撃はさらに激しさを増した。彼は驚異的なスピードと力強さで、エレクトロビックスパイダーの足を次々と引きちぎっていった。魔物は徐々にバランスを崩し、動きが鈍くなっていく。
全ての足を引きちぎった後、ライカンは一瞬立ち止まった。彼の目に野性的な輝きが宿る。突然、ライカンは両手を口元に持っていき、まるでワニが獲物を食べるような動作を取り始めた。
その奇妙な動作から、驚くべきことが起こった。ライカンの腕に、目に見えるほどの強大なエネルギーが集まり始めたのだ。そのエネルギーは、まるで生き物のように蠢き、ライカンの腕を包み込んでいく。
「
次の瞬間、ライカンは猛烈な勢いでエレクトロビックスパイダーに向かって飛び込んだ。その一撃は、まさに獣王の怒りそのものだった。エネルギーに包まれた拳が魔物に命中した瞬間、轟音と共に眩い光が辺りを包み込んだ。
光が収まると、そこにはもはやエレクトロビックスパイダーの姿はなかった。魔物は文字通り粉々になり、跡形もなく消え去っていた。戦場には、勝利したライカンの姿だけが残されていた。
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