第41話 男と女何も起きないはずがなく……
リルは懐中時計を取り出し、チラリと見た後で言った。「まだまだ時間があるね」
「そうだな」と俺は頷いた。少し間を置いてから、好奇心に駆られて尋ねた。「ねえ、ルカとの出会いを教えてくれよ」
リリルは少し悩むような表情を見せたが、すぐにいたずらっぽい笑みを浮かべた。「いいよ。でも、その代わりにテックとの関係も教えてね」
「ルカキュンとの出会い?」リリルは懐かしそうな表情を浮かべた。「そうね、私がこの世界に来たばかりの頃のことよ」
「川の近くに転移したんだけど、その時はすごく混乱していて。そこへ魚を捕りに来ていたルカキュンが私を見つけてくれたの」リリルは微笑みながら続けた。
「なるほど」俺は頷いた。「それで、ルカはどんな反応だったんだ?」
「ルカは驚いていたよ」リリルは懐かしそうに語った。「私が倒れているのを見つけて、すぐに駆け寄ってきたの。彼の住む田舎の近くだったから、見知らぬ顔の私がそこにいるのは明らかに異常だったみたい」
「そうか」俺は興味深そうに聞いていた。
「ええ。装備も持たずに、ただ倒れていた私を見て、ルカはすぐに何か変だと感じたみたい。彼は優しく声をかけてくれて、大丈夫かどうか確認してくれたわ」リリルは微笑んだ。
リリルは突然、ルカの顔立ちについて語り始めた。「ねえ、ルカキュンって本当に顔立ちがいいのよ」と彼女は熱心に言った。
確かに、俺も思い返してみれば、ルカの青白い髪の毛が全く違和感なく見えるほど整った顔立ちをしていることに気づいた。
しかし、俺の頭の中では「それがどうした」という思いが浮かんでいた。顔立ちが良いことに何の意味があるのだろうか。
そんな俺の疑問を察したかのように、リリルは続けた。「正直、私、あの顔に惹かれちゃったのよね。だから、ついていっちゃった」と彼女は少し恥ずかしそうに告白した。
俺は少し頭を抱えた。「女の子なのに、無警戒すぎないか!?」
リリルは子供のような口調で言い返した。「だってだってだって、都合のいい夢だと思っていたんだもん」
しかし、すぐに彼女の表情が真剣になった。「ちょっと違うかな。つい最近まで夢だと思ってた。蜘蛛に知り合った友達を殺されちゃって、しんどくなって気絶して、シークに助けられて……そのシークもこっちの世界に転移してきた人で。夢だと思うのはやめようと思ったの」
リリルの言葉に、俺は複雑な思いを抱いた。彼女の経験した恐怖と現実の重みが伝わってきて、胸が締め付けられる思いだった。
「ちがうよ。別に私はそれで考え方を変えただけで、暗い気持ちだったりするわけじゃないの。確かに、友達は私が弱いから死なせてしまった。だから次はないと思う。それに、私にとってはルカキュンが大事だから」リリルはそう言った。
俺は茶化すつもりで、「恋愛的に好きなのか?」と聞いた。
すると彼女は恥ずかしそうに「だって、夢だと思った理由が始めてあった人が私のすごいタイプだったんだよ!?」と手をバタバタとさせながら言った。
「楽しそうで、何よりだよ」と俺が笑うと、
「ルカキュンには絶対に言わないでね!!」とリリルは念押ししてきた。
俺が「言わないよ」と笑っていると、「もー信用ならないな。シークくんは意地悪するような人だとは思ってないけどさ」と彼女は言った。
俺は真剣な表情で「本当に言わないよ」と言った。リリルは少し安心したような表情を見せ、「信用するからね」と微笑んだ。
そうやって俺たちが和やかに話していると、突然、近くの草むらから不穏な音が聞こえてきた。
俺は即座に警戒態勢に入り、反射的に剣の柄に手をかけた。しかし、剣に触れた瞬間、静電気でビリっと指先が痺れた。
「痛っ」と俺が思わず声を上げた。
「どうしたの!?」とリリルが素早く反応し、心配そうな表情で俺を見つめた。
「大丈夫だ。静電気だよ」と俺は彼女を安心させるように答えた。リリルの顔に少し安堵の色が浮かんだ。
草むらに視線を向けると、突然4匹のゴブリンが飛び出してきた。緑色の肌と鋭い牙、赤く光る目が月明かりに照らし出される。
「リリル、下がって!」俺は即座に叫び、剣を抜いた。今度は静電気に邪魔されることなく、スムーズに剣を構えることができた。
最初のゴブリンが木の棍棒を振り上げて襲いかかってきた。俺は素早く身を翻し、その攻撃をかわすと同時に、剣を横薙ぎに振った。鋭い刃がゴブリンの胴を貫き、緑色の血が飛び散る。
2匹目が背後から襲いかかってきたが、俺はその気配を察知し、瞬時に後ろに回り込んだ。ゴブリンが態勢を崩したその隙を突いて、剣を振り下ろす。頭部に命中し、ゴブリンは悲鳴を上げることもなく倒れた。
残りの2匹は少し躊躇したが、すぐに怒りに任せて同時に攻撃してきた。俺は冷静さを保ちながら、1匹の攻撃を剣で受け止め、もう1匹の攻撃を身をひねってかわした。
一瞬の隙を見逃さず、俺は剣を大きく振り回した。鋭い刃が空気を切り裂き、2匹のゴブリンの胸を一度に貫く。緑色の血しぶきが夜空に舞い、2体の無残な姿が地面に崩れ落ちた。
戦いは一瞬で終わった。俺は深呼吸をして、周囲に他の敵がいないか確認した。
「大丈夫か、リリル?」俺は彼女の方を振り返った。
リリルは少し離れたところで、目を丸くして立っていた。「す、すごい……シークくん、本当に強いのね」
俺は剣の血を払い、鞘に収めた。「まあな。でも油断は禁物だ。他にも敵がいるかもしれない」
俺たちは警戒しながら、その場を後にした。夜の森の中、月明かりだけを頼りに歩を進めながら、さっきの戦いの緊張感がまだ体に残っているのを感じた。
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