第37話 盗賊
ギルドを出てから、一行は深い森へと足を踏み入れた。ライカンは群を抜いて先頭を行き、その姿勢は護衛など眼中にないかのようだった。彼の傲慢な態度に、パーティーメンバーは胸の内で不満を募らせていた。
しかし、森の奥へと進むにつれ、状況は劇的に変化した。次々と襲い来る魔物たちに対し、ライカンは驚異的な戦闘能力を発揮し始めた。彼の動きは流水のように滑らかで、まるで死の舞踏を見ているかのようだった。その姿は、まさに伝説の戦士そのものだった。
「あいつ、本当にすごいな……」テックが小声で呟いた。その言葉には、驚嘆の念と共に、僅かながらも羨望の色が混じっていた。
俺たちは、文句を言いたい気持ちを抑えきれずにいたが、ライカンの圧倒的な戦闘力の前では、何も言葉が出なかった。彼の存在感は、まるで巨大な山のようで、我々の存在を霞ませていた。パーティーメンバーは、自分たちの役割とは一体何なのか、深い疑問に包まれ始めていた。
「まあ、あいつが前衛をやってくれてる分、僕たちは体力を温存できるってことかな」ルカが苦笑いしながら言った。その言葉には、複雑な感情が込められていた。
俺は黙ってうなずいた。確かにライカンの力は凄まじく、まるで人間離れしているようだったが、それでも油断はできない。彼らの任務は護衛であり、どんな状況でも警戒を怠るわけにはいかなかった。森の中には、予期せぬ危険が潜んでいるかもしれないのだ。
突然、静寂を破るようにテックの声が響いた。「シーク!後ろだ!」その叫び声には、切迫した緊張感が滲んでいた。
俺は反射的に振り返った。そこには、5人の盗賊が忍び寄ってくる姿があった。彼らの目つきは鋭く、その手には殺意を秘めた武器が握られていた。瞬時に剣を抜き、戦闘態勢に入る。ルカとリリルも素早く反応し、それぞれの武器を構えた。空気が一瞬で緊張感に満ちた。
「ライカン様、危険です!」俺は叫んだが、ライカンは冷ややかな表情を浮かべ、腕を組んだまま動く気配がない。その態度には、まるで自分は無敵だと言わんばかりの自信が滲んでいた。
「奴らは俺を狙っているんだ。お前たちの実力を見せてもらおうじゃないか」ライカンは高みの見物といった態度で言い放った。その声音には、わずかながらも挑発的な響きが含まれていた。
俺たちは困惑しつつも、決意を固めて盗賊たちと向き合った。この予期せぬ戦いが、彼らの真価を問う試練となることを、皆が直感的に理解していた。
盗賊たちが一斉に襲いかかってくる。その動きは、まるで飢えた狼の群れのようだった。俺たちのパーティは、ライカンを後ろに配置し、守りつつ、この予期せぬ戦いに挑む準備を整えた。それぞれの顔には、緊張と共に、仲間を守り抜くという強い決意が浮かんでいた。
リリルは素早くライカンの隣に立ち、弓を構えた。その目は鋭く、周囲を警戒している。まるで獲物を狙う鷹のような眼差しだ。俺とルカは前衛として盗賊たちに向き合い、剣を握りしめている。テックは中衛に位置し、長い槍を両手で構えた。その姿勢からは、いつでも魔法を繰り出せる準備が整っていることが窺えた。
「みんな、気をつけろ!」俺は仲間たちに声をかけた。その声には、リーダーとしての威厳と、仲間を信頼する気持ちが込められていた。
盗賊の一人が口を開いた。その声は、粗野で荒々しかった。「女もいるし、狼牙族もいるじゃねぇか。さっさと雑魚を片付けて連れてくぞ」その言葉には、卑劣な意図が込められていた。
その言葉を聞いたリリルの顔に嫌悪感が浮かんだ。その表情は、これまでに見たことがないほど険しいものだった。「きもちわるい」と呟きながら、彼女は素早く金属矢を弓にセットした。その動作には、怒りと決意が込められていた。
その瞬間、ルカの体が電気を帯び始めた。リリルが放った金属矢がルカの体を掠めると、矢は強力な電力を纏った。
電気を帯びた矢が盗賊に向かって飛んでいく。その軌道は、まるで意思を持っているかのように精確だった。盗賊は素早く身をかわし、矢をはじこうとした。しかし、その瞬間、矢の中から電気の塊が現れ、ルカの姿となって現れたのだ。その姿は、まるで雷から生まれた戦士のようだった。
「なっ!?」盗賊が驚きの声を上げる間もなく、ルカは電撃を放った。青白い光が盗賊の体を包み、彼は痛みに悶える。その光景は、まるで神話に描かれた天罰のようだった。
「僕らは元々Dランクパーティーだよ」ルカは冷静な声で言った。その言葉とは裏腹に、彼の目は鋭く光っていた。その眼差しには、戦いへの覚悟と、仲間を守る決意が宿っていた。電撃を受けてよろめく盗賊の背後に回り込むと、ルカは素早く剣を振るった。十字を描くように、盗賊の背中に深い傷をつける。その動きは、まるで舞踏家のように優美で、同時に致命的だった。
盗賊は悲鳴を上げ、地面に崩れ落ちた。ルカの予想外の攻撃に、残りの盗賊たちの表情が一瞬凍りついた。その目には、恐怖と後悔の色が浮かんでいた。
その隙を俺たちは見逃さない。まるで息の合った機械のように、パーティー全員が一斉に動き出した。
テックは、得意のファイアボールで盗賊の視界を防いだ。オレンジ色の炎が空中で爆発し、盗賊たちの目を眩ませる。
俺は、
「新しい剣の試し相手になってもらうぞ」俺は、そう言いながら盗賊の一人に距離を詰めた。手には、ガッツから受け取ったばかりの新しい剣が握られている。その剣は、まるで主の意志を感じ取るかのように、淡く輝いていた。
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