第36話 狼牙族のライカン

 ギルドの扉を開けると、すでにテック、ルカ、リリルが集まっていた。三人の視線が一斉に俺に向けられ、その目は俺の腰に下げられた新しい剣に釘付けになった。


「おはよう」俺は軽く手を上げて挨拶した。その瞬間、仲間たちの表情が一斉に明るくなった。


「シーク!その剣、新しく作ってもらったってやつか?」テックが目を輝かせながら近づいてきた。彼の声には興奮が滲んでいた。その眼差しは、まるで子供が新しいおもちゃを見つけたかのようだった。


「ああ、ガッツさんに作ってもらったんだ」俺は答え、ゆっくりと剣を鞘から抜いた。朝日を受けて輝く刃に、仲間たちは息を呑んだ。その瞬間、部屋の空気が一変したかのようだった。


「すごい……」リリルが小さく呟いた。彼女の目は剣の繊細な模様を追っていた。「まるで芸術品みたいね。それぞれの模様が何かを物語っているみたい」


 ルカは黙って剣を見つめていたが、その目には強い興味が浮かんでいた。彼は慎重に手を伸ばし、「触ってもいいか?」と尋ねた。その声には、普段の冷静さとは違う、わくわくするような期待が混じっていた。


 俺は頷き、剣をルカに手渡した。ルカは剣を受け取ると、その重さに驚いた様子で目を見開いた。彼の表情には、驚きと共に、何か新しいものを発見したような喜びが浮かんでいた。


「重いな……でも、すごくバランスがいい」ルカは剣を軽く振ってみた。その動きは、まるで剣と一体化したかのようだった。「これ、なにか特別な能力があるの?」


 俺は頷き、ガッツさんから聞いた剣の特性について説明し始めた。電気を魔力に変換する能力や、ルカの能力との相性の良さについて話すと、仲間たちの目が更に輝きを増した。その瞬間、仲間たちが期待と可能性で満ちているように感じられた。


「それって……シークとルカの連携に補助が入るってことか?」テックが興奮気味に言った。彼の声には、新しい冒険への期待が溢れていた。


「そうだな。俺たちは新生パーティーだからなこうやって補助できるのはありがたいよな」俺はルカを見て微笑んだ。その笑顔には、これから始まる新しい冒険への期待が込められていた。


 ルカは剣を俺に返しながら、真剣な表情で言った。「よし、早速試してみよう。今回の依頼で、この剣の力を確かめてみたい」彼の目には、挑戦への意欲が燃えていた。


 俺は仲間たちの期待に満ちた表情を見渡し、新しい剣と共に、これからの冒険がより充実したものになることを確信した。その瞬間、パーティー全体が一つになったような感覚を覚えた。


 そうこうしているうちに、ギルドの入り口が開き、一人の男が入ってきた。その姿を見て、パーティーのメンバー全員が息を呑んだ。空気が一瞬で凍りついたかのようだった。


 狼のような耳と尻尾を持つ男性が入ってきた。今回の護衛対象である狼牙族のライカンだ。彼は威圧的な目つきで周囲を見回し、俺たちのパーティーに近づいてきた。その歩み方には、野生動物のような危険な雰囲気が漂っていた。


「ほう、お前たちが俺の護衛か?」ライカンは低い声で言った。その口調には明らかな軽蔑の色が混じっていた。彼の言葉一つ一つが、まるで鋭い刃物のように空気を切り裂いていった。


 俺たちが答える前に、ライカンは俺たちの装備を上から下まで舐めるように見た。特に、俺の新しい剣に目が留まった。その目には、興味と共に、何か計算するような冷たさが浮かんでいた。


「ふん、新しい武器一本で、随分とはしゃいでいるようだな」ライカンは鼻で笑った。その笑い声には、皮肉と軽蔑が混ざっていた。「所詮、ざこどもか。こんな弱そうな奴らに俺の身を守れるとでも?」


 その言葉に、テックが反論しようとしたが、俺が手で制した。ライカンはそれを見て、さらに高慢な態度を取った。その姿は、まるで獲物を前にした狼のようだった。


「まあ、依頼内容通りのよわいらだ。」ライカンは腕を組み、挑発するような目つきで俺たちを見下ろした。その目には、まるで自分が絶対的な存在であるかのような自信が宿っていた。「お前たちに俺の力の片鱗でも見せてやろうか?」


 俺は冷静に対応しようとしたが、ルカの目に怒りの炎が宿るのを感じた。リリルは困惑した表情を浮かべ、テックは明らかに苛立っていた。パーティー全体が、緊張と怒りの入り混じった空気に包まれていった。


「我々は依頼を受けた以上、最後まで責任を果たします」俺は静かに、しかし強い意志を込めて答えた。その声には、揺るぎない決意が込められていた。「あなたの安全を確保することが我々の使命です」


 ライカンは俺の言葉を聞いて、わずかに驚いたような表情を見せたが、すぐに元の高慢な態度に戻った。その目には、一瞬だけ、興味の色が浮かんだようにも見えた。


「ほう、言葉だけは立派だな。まあ、お前たちにどこまでできるか、楽しみにしているよ」ライカンは挑発的な笑みを浮かべた。その笑みには、何か危険な予感が込められていた。「さあ、出発するぞ。この退屈な街から早く抜け出したいからな」


 俺たちは互いに視線を交わし、決意を固めた。この難しい依頼を成功させるためには、チームワークと忍耐が必要になるだろう。彼らは静かにライカンの後に続き、ギルドを後にした。その背中には、これから始まる未知の冒険への期待と不安が交錯していた。

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