第24話 巨大電気蜘蛛!絶体絶命

 蜘蛛は巨体全体を動かすことなく、足払いのような攻撃のみで戦っている。そのため、攻撃の速度は一定を保っているように見える。しかし、その一撃一撃には想像を絶する破壊力が秘められている。わずか一度でも直撃を受ければ、致命的な傷を負うことは疑いの余地がない。その攻撃は、まるで巨大な鉄槌が振り下ろされるかのような威力を持っている。


 しかし、この一見安定しているかに見えた戦いの均衡も、突如として崩れ去ってしまう。エレクトロビックスパイダーの体が突然、青白い電光に包まれ始めたのだ。その姿は、まるで巨大な雷球が地上に降り立ったかのような圧倒的な威圧感を放っている。周囲の空気が静電気で震えるのを感じ取れるほどだ。


「これは、まずい事態だ!」とゴルドが声を張り上げる。その声には、切迫した危機感と仲間たちへの警告が込められている。彼の目は、迫り来る危険を見据えながら、すでに次の一手を模索しているかのようだ。


 その瞬間、エレクトロビックスパイダーの体から、ルカに向けて強烈な電撃が放たれる。恐らく、ルカの体に帯電していた電気に反応したのだろう。ルカの体が青白く輝き、まるで稲妻を直接受け止めているかのようだ。彼の顔には激しい痛みと、それに打ち勝とうとする強い決意が交錯している。


 青白い光が戦場全体を包み込む。その光景は、まるで夜空に巨大な稲妻が走ったかのようだ。ルカは必死に電流を吸収しようと努めるが、その量があまりにも膨大で、彼の表情は苦痛で歪んでいく。彼の体が青白く光り輝き、まるで生きた避雷針と化したかのようだ。

 危機的状況の中、ルカは咄嗟に機転を利かせる。彼は自身の持っていた剣を地面に深々と突き刺し、電流を体の外に逃がそうとする。


 エレクトロビックスパイダーの猛烈な電撃攻撃が収まると、ルカは帯電した状態で膝から崩れ落ちる。彼の体からは白い煙が立ち上り、衣服の一部が焦げて黒く変色している。その姿は、まるで雷に打たれた木のようだ。

「くっ、これ以上は体が持たない。また体が焼け付いてしまう」ルカは苦悶の表情を浮かべながら呟く。その声には激しい痛みと疲労が滲み出ているが、それでもなお、彼の目には戦い抜こうとする不屈の意志の火が灯っている。その眼差しは、まるで嵐の中で揺らぐことなく燃え続ける炎のようだ。


 エレクトロビックスパイダーは、ルカの苦境を見逃すことはない。その巨大な体を低く構え、再び青白い電光を纏いながら、一気に突進を開始する。その姿は、まるで巨大な雷の塊が地を這うかのようだ。蜘蛛の八本の足が地面を蹴る度に、青白い火花が散り、空気が震える。


「ルカ、避けろ!」リークの必死の叫び声が戦場に響き渡る。しかし、ルカの体はすでに限界を超えている。体の一部は焦げ付いており、突進をよけられるような状態ではない。彼の目に恐怖の色が浮かぶ。その瞳には、迫り来る巨大な蜘蛛の姿が映り込んでいる。


 突進してくるエレクトロビックスパイダーの姿に、戦場全体が緊張感に包まれる。空気が凍りつくかのようだ。この一撃を受ければ、致命傷になることは誰の目にも明らかだ。パーティーメンバーたちの顔には焦りと恐怖の色が浮かぶ。彼らの目は、ルカと蜘蛛の間を行ったり来たりし、何か打開策はないかと必死に探っている。


 その瞬間、俺は反射的に体を動かしていた。「ルカさん!」と叫びながら、全力でルカに向かって走り出す。足が地面を蹴る度に、心臓が激しく鼓動を打つ。

「俺がこの蜘蛛を何とか止める!その間に逃げてくれ!」

 エレクトロビックスパイダーの進行方向の前に立ちはだかる。恐怖で震える両手を前に突き出し、巨大な蜘蛛を止めようとする。


 ブルームが「ちょ!?」と驚きの声を上げる。その声には、俺の突然の行動に対する戸惑いと心配が混ざっている。しかし、俺はそれを気に留める余裕もなく、全身の力を振り絞って蜘蛛に立ち向かう。


 俺の両腕にエレクトロビックスパイダーの巨体が衝突する。その瞬間、強烈な衝撃が両腕から全身に伝わり、まるで体中の骨が砕けるかのような痛みが走る。同時に、強烈な電流が体中を駆け巡る。その感覚は、まるで全身に無数の針が刺さるかのようだ。


 しかし、俺は必死に踏ん張る。魔力を両腕から体全体に巡らせ、そして持っている剣へと流れるようにコントロールする。それによって電流の通り道を作り、致命的な感電を避けようとする。剣を通じて地面に流れ込む電流は、青白い光の筋となって地面に吸収されていく。


 エレクトロビックスパイダーの巨体を一人で受け止めるのは、想像を絶する困難さだ。全身の筋肉が悲鳴を上げ、骨が軋むような音が聞こえる。苦痛で顔が歪み、歯を食いしばって耐える。

「くっ……」

 俺の口から苦痛の呻きが漏れる。その声には、限界に挑戦する者の苦悶と決意が込められている。


 足が少しずつ後ろに押され始める。地面に刻まれていく足跡が、俺の苦闘の軌跡を示している。視界が徐々にぼやけ始め、意識が遠のいていく。体力の限界が近づいているのを感じる。

「ダメだ……これ以上は……」

 俺の心の中で諦めの声が響く。


 腕の力が抜け始め、エレクトロビックスパイダーがさらに押し寄せてくる。その巨体の重みと電気の威力に、俺の体は悲鳴を上げている。

 エレクトロビックスパイダーの動線上には、クロムと負傷した女性冒険者がいる。


 後ろに目を向けると、女性冒険者の回復にはまだ時間がかかりそうだ。クロムは全神経を集中して回復魔法を続けており、この危機的状況にも動じる様子はない。その姿に、俺は勇気づけられる。


 俺の必死の表情に気づいたのか、クロムが珍しく大声で叫ぶ。「死ななければ回復させられる。自信を持って戦ってよ」

 その言葉が、俺の心に火を点ける。恐怖で震える自分を奮い立たせるために、唇を強く噛んでから「わかった」と力強く答える。


 エレクトロビックスパイダーの圧倒的な圧力に耐えながら、俺は歯を食いしばる。全身の筋肉が悲鳴を上げ、限界を訴えている。しかし、ここで諦めるわけにはいかない。仲間たちを守るため、そして自分自身の限界を超えるため、俺は最後の力を振り絞る。その瞬間、体の奥底から新たな力が湧き上がってくるのを感じた。

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