第17話 レッドウルフ戦

 俺たちは森の奥へと進んでいった。木々の間から漏れる陽光が、地面に斑模様を描いている。時折、小動物の気配を感じるが、それ以外は静寂に包まれていた。この静けさが何か不吉なものを予感させ、背筋が少し寒くなり、思わず下唇を噛む。


 その様子を見てか、パーティリーダーのリークが声をかける。「シーク、大丈夫だ。森の様子がおかしいと言っても、元々この森にそんな強い化け物はいない。気にするな」と、俺の背中を叩いて鼓舞してくれる。


 リークの言葉に少し安心しながらも、俺は周囲を警戒し続けた。森の奥へと進むにつれ、木々の間隔が広くなる。

 突然、前方から枝の折れる音が聞こえ、全員が足を止めた。


 ゴルドが「確認する」と言うと、彼の両目が緑色に発光し始める。


 ゴルドの目が発光している間、パーティーメンバー全員が息を潜めて待った。数秒後、ゴルドが目を瞬かせ、発光が収まる。「レッドウルフの群れだ」と彼が告げると、全員が緊張した面持ちで互いを見つめ合った。

 リークが小声で指示を出す。「全員、武器を準備しろ。シーク、お前は後ろに下がれ。戦闘が始まったら、時機を見て参加してくれ」俺は言われた通りに後方へ下がり、パーティーの動きを観察することにした。


 再度ゴルドの目が淡く緑に発光する。「レッドウルフの群れがこっちに気づいて近づいてきてるぞ」


 その瞬間、木々の間から赤い目が光り、低い唸り声が聞こえ始めた。リークが静かに手を上げ、全員に待機の合図を送る。俺は息を殺し、心臓の鼓動が耳に響くのを感じながら、レッドウルフたちの姿が現れるのを待った。


 リーフが「レッドウルフ6匹か。群れにしては少ないな。分かれて襲いに来てるかもしれん。後ろも警戒を怠るな!」と皆に指示を出す。


 突然、木々の間から6匹のレッドウルフが轟音と共に飛び出してきた。その赤い毛並みは血に飢えたように輝き、鋭い牙が日の光に照らされて不気味な閃きを放つ。パーティーメンバーは一瞬の躊躇もなく、鋭い眼光で互いに合図を交わし、瞬時に戦闘態勢に入る。


 5匹のレッドウルフが獰猛な唸り声と共に一斉に襲いかかってくる。リークは雷のような素早さで両手に斧を構え、最初の1匹に向かって渦を巻くように斧を振るう。しかし、レッドウルフの俊敏な動きにより、斧は僅かに空を切る。その隙を突いて、1匹目の影に潜んでいた2匹目のレッドウルフがリークの腕に牙を立てようと跳躍する。だが、リークの反応は更に速かった。彼は瞬時に体勢を変え、レッドウルフの首筋を掴む。その瞬間、リーフの剣が閃光のように走り、レッドウルフの胴体を真っ二つに切り裂く。血飛沫が舞い、断末魔の悲鳴が響き渡る。


 その間、ブルームとゴルドは残りの3匹と激烈な戦いを繰り広げていた。ゴルドの大剣が風を切る音と、レッドウルフの爪が鎧を引っ掻く金属音が交錯する。ゴルドは巧みな剣さばきで2匹のレッドウルフを翻弄し、その隙を突いてブルームの魔法が炸裂する。青白い光が閃き、雷鳴のような轟音と共に魔法の矢が飛び交う。クロムは後方から緑色に輝く回復魔法を次々と放ち、仲間たちの傷を癒しながら戦況を見守る。


 残る1匹は俺が相手することになった。レッドウルフは俺の左腕に武器がないことを察知し、その隙を狙って俺の左側に噛みつこうと跳躍してくる。俺は「身体強化ブースト」を叫びながら発動させ、レッドウルフの牙を僅かにかわす。しかし、反撃の隙は無く、レッドウルフとの距離が開いてしまう。


 次の瞬間、目の前のレッドウルフの体が眩い光に包まれ、背中から巨大な翼が生え出る。「なんだ!?」俺の驚愕の声に、前線で戦うリークが叫ぶ。「くそっ、レッドウルフが能力アビリティに目覚めやがった。恐らく飛行能力だ!気をつけろ!」


 翼を広げたレッドウルフが轟音と共に空中に舞い上がり、俺たちを見下ろす。その赤い目が月明かりに反射して、不気味な輝きを放っている。俺は咄嗟に身を屈め、周囲の状況を素早く確認する。リークとリーフが前線にいた残りの1匹のレッドウルフを華麗な連携で倒し、ブルーム、ゴルド、クロムの三人も見事な魔法と剣技の共演で2匹のレッドウルフを同時に仕留める。戦場に残るのは、目の前で能力アビリティに目覚め、翼を得たレッドウルフだけとなった。


 空中のレッドウルフは獲物を狙う鷹のように俺めがけて急降下してくる。その速度に驚愕しながらも、俺は冷静さを保とうと必死に努める。「身体強化ブースト」を再度発動させ、体中に力みなぎるのを感じながら、レッドウルフの攻撃を避けつつ、反撃の機会を窺う。パーティーメンバーたちも、この予想外の事態に対応しようと素早く陣形を変える。


 空中から襲いかかるレッドウルフに対し、俺は地上からの反撃を試みる。「身体強化ブースト」を最大限に活用し、木々を踏み台にして信じられないほどの高さまで跳躍する。空中で一瞬のタイミングを捉え、右手に持った剣を月光の下で輝かせながら振り下ろす。しかし、レッドウルフの翼に僅かに届かず、逆に翼で殴打され、地面に激しく叩きつけられる。衝撃で息が詰まり、一瞬意識が遠のく。


「シーク、無理するな。ありゃ翼をどうにかするしかねぇな」とリークが後ろから声をかける。その声で意識を取り戻し、俺は咳き込みながら立ち上がる。


 リークの言葉を聞いて、俺は一瞬考えを巡らせる。確かに、空中戦は圧倒的に不利だ。「了解」と返事をし、地上での戦略を練り直す。ブルームに目配せし、「魔法で翼を狙えないか?」と提案する。ブルームが頷き、呪文を唱え始める。その瞬間、空気が張り詰め、魔力が渦巻くのを感じる。


「ストーンバレット!」ブルームの声が響き渡る。彼女の手から人の頭程度のサイズの石が現れ、轟音と共にレッドウルフの翼を目掛けて勢いよく飛んでいく。


 ストーンバレットは空中のレッドウルフに向かって猛烈な速さで飛んでいく。しかし、レッドウルフは翼を小さくたたみながら体をよじり、石弾を華麗にかわす。その瞬間、ブルームが「転移」と叫ぶ。突如、飛ばされた石とブルームの位置が入れ替わる。予測不可能な魔法に、レッドウルフは一瞬の隙を見せる。ブルームは空中で素早く槍を構え、レッドウルフの翼を正確に狙う。一瞬の隙を突いて、ブルームの槍が閃光と共にレッドウルフの翼を貫く。鋭い悲鳴が夜空に響き渡り、レッドウルフは空中での均衡を失い、地面へと落下し始める。


 地面に落下してくるレッドウルフを目掛けて、ゴルドとリークが一斉に走り出す。二人の足音が地面を震わせ、決意に満ちた表情が月明かりに照らし出される。


 ゴルドとリークは息の合った連携で、落下してくるレッドウルフに向かって一気に接近する。ゴルドが大剣を月光の下で輝かせながら振り上げ、レッドウルフの注意を引きつける。その隙を突いて、リークが斧を横に振り、レッドウルフの胴体を狙う。空気を切り裂く音が響き渡る。


 その瞬間、俺も「身体強化ブースト」を使って跳躍し、空中で剣を構える。日の光に照らされた剣が不気味な輝きを放つ。ゴルドとリークの攻撃に反応しようとするレッドウルフの背後から、俺の剣が稲妻のように閃く。


 三者の攻撃が見事にクロスし、レッドウルフの体を貫く。鋭い金属音と獣の断末魔が森の静寂を引き裂き、レッドウルフの体が三つに分かれて地面に落ちる。血飛沫が太陽光に照らされ、一瞬、赤い雨が降るかのような錯覚を覚える。俺は剣を下ろし、深く息を吐く。激しい戦いの余韻が体中を駆け巡る中、これで戦闘は終わったことを実感する。

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