第16話 ガウルボア戦!
ガウルボアの姿が見えた瞬間、パーティーメンバー全員が素早く動いた。リークとリーフが前衛に立ち、ブルームとゴルドはクロムの両側に位置取った。俺は指示通り、最前線に立ち、剣を構えた。
轟音に近いガウルボアの鳴き声が森全体に響き渡り、地面を揺るがすほどの衝撃とともに、高さ3mを超える巨大なガウルボア2匹が突進してきた。その牙は鋭く光り、赤い目が獲物を捕らえようと狂気に満ちていた。
クロムは杖を高く掲げ、空気が電気を帯びるのを感じながら「クレイジーサンダー!」と叫んだ。雷鳴とともに、青白い稲妻が杖から放たれ、突進してきたガウルボア1匹に直撃した。電撃を受けたガウルボアは悲鳴を上げ、全身が痙攣しながら動きを止めた。焦げた毛皮から煙が立ち上る。
リーフは「とどめは俺が!」と叫び、地面を蹴って電撃を受けたガウルボアに向かって猛然と突進した。ガウルボアは必死にしびれを振り払おうと全身を震わせ、近づいてくるリーフに血走った目を向けた。
リーフは両手剣を右手に持ち替え、左手のひらをガウルボアに向けた。「アースバインド!」と宣言すると、ガウルボアの足元の土が生き物のように蠢き始め、触手となって獣の足に絡みついていった。ガウルボアは激しく暴れるが、土の拘束から逃れることはできない。
リーフは両手に剣を構え直し、「もらった!」と叫びながら、威嚇して大きく口を開けたガウルボアに向かって跳躍した。、ガウルボアの顔から背中にかけて一閃のもとに斬り貫いた。鋭い刃が肉を裂く音と、ガウルボアの断末魔の叫びが響き渡った。
もう1匹のガウルボアに対し、リークは身をかがめて懐に飛び込んだ。獣の突進の勢いを利用し、左腕だけで右前足をつかみ上げ、腹に右の拳で一撃を叩き込んだ。衝撃波が走り、ガウルボアの内臓が押しつぶされる音が聞こえた。
突進中に右前足を上げられ、腹に強烈な一撃を受けたガウルボアは血の混じった唾を吐き出しながら体勢を崩し、左側から地面に崩れ落ちた。リークはそのすきを見逃さず、瞬時に両手斧を構えた。斧は空気を切り裂く音を立て、ガウルボアの胴体を斜めに二度斬り、クロスさせた。
傷口から大量の血を噴き出した2匹のガウルボアは、最後の息絶え間際の唸り声を上げ、そして動かなくなった。戦場は血の匂いと死の静寂に包まれた。
ブルームは「シーク!何をぼんやりしているの!あなたも戦いなさい!死ななければ怪我ぐらい治してあげるから」と鋭く叱咤した。その声は戦場の緊張感を更に高めた。
ブルームの叱咤に、俺は我に返った。確かに、自分も戦わなければならない。残りの3匹のガウルボアに向かって突進し、剣を構えながら「俺にもできる!」と叫んだ。その声には、恐怖と決意が混ざっていた。
リーフが「さすがに無茶じゃ!?」と焦った声を上げたが、俺は構わず突進を続けた。ガウルボアは威嚇するように鳴き声を上げ、その咆哮は地面を震わせた。
それを聞いて俺は、
ガウルボアの前の地面を勢いよく蹴り、土埃を巻き上げた。視界を失ったガウルボアがキョロキョロと周りをうかがっている間に、俺は風を切る音とともに素早く剣を振り下ろした。ガウルボアの首筋を狙い、一撃で残りの3匹とも仕留めた。剣が肉を裂く感触と、ガウルボアの断末魔の叫びが同時に響き渡った。
戦いが終わると、3匹のガウルボアが地面に崩れ落ち、血溜まりが広がっていった。俺は息を切らしながら、自分の行動の結果を見つめた。
戦闘が終わると、パーティーメンバーが集まってきた。
「みんな、大丈夫か?」リークが声をかけた。
「私は無事よ」ブルームが答えた。「でも、念のため全員チェックしましょう」
ゴルドが肩をすくめながら言う。「俺は大丈夫だ」
「俺も問題ない」リーフが報告する。「クロムは?」
クロムはうなずいて大丈夫であることを示した。俺は自分の体を確認しながら答えた。「えっと、大丈夫です。怪我はないみたいです」
ブルームが全員を見回し、安堵の表情を浮かべた。「よかった。みんな無事のようね」
リークが「ガウルボア程度の魔物に怪我してるようじゃレッドウルフなんて倒せるわけないだろ」と笑う。さらに続けて
「にしても、3匹を一瞬にして片づけるとは。強いとは思ってたがそこまでとはな」と俺に視線を向けた。
リーフが「いや、今のは安全性を度外視した危険行動だぞ」と指摘した。
ゴルドが肩をすくめながら言った。「まあ、結果オーライってことだろ。シークの行動は確かに危険だったが、あれだけの実力があれば問題ないさ」
リークは腕を組んで考え込むような表情を浮かべた。「そうだな。シーク、お前の実力は認めるが、これからはもう少し慎重に立ち回ってくれ。パーティーの一員として、みんなで協力して戦うことも大切だ」
俺は「すみません。軽率でした」と答えた。
一連の報告を終えると、リークはガウルボアをアイテムボックスの中にしまった。
「依頼には関係ない魔物だが、近年は畑にこいつが出てきて荒らされてるって噂だしな。最悪、解体でもして、レッドウルフを呼び寄せるための餌にでもなるだろ」
ゴルドが「それはそうだけど、ガウルボアってこんな森の浅いところに出たか?ここって普段はゼロウサギみたいなのんびりした生物が生息する地域じゃないのか」と疑問を投げかけた。
ブルームは肩をすくめながら、「まあ、大丈夫でしょ。ガウルボアが出てきた程度で大騒ぎするのも変だし」と軽く言った。
クロムが眉をひそめ、ブルームの袖を引っ張って「でも、森が変になってるかもしれないから、注意は必要だよ。お姉ちゃん」と小さい声で言った。
リークはみんなの言葉を聞き、「クロムの言う通り、森の様子がおかしい可能性は大いに考えるべきだ。レッドウルフの討伐以外にも森の調査も行っていこう」と決めた。
ゴルドはそれに対して、「まあでも、レッドウルフを討伐したら一旦ギルドに戻るべきだろうな。そこまで綿密な準備をしてるわけじゃない。大型の魔物なんて出てきたら逃げるしかできなくなるからな」と忠告した。
リークたちの会話を聞きながら、俺は不安を感じ始めていた。初めての依頼で、こんなにも早く予想外の事態に直面するとは思わなかった。森の異変の可能性、それがどのようにこの依頼に影響を及ぼすのかわからなかった。だが、そのすべてが新鮮で、同時に恐ろしくもあった。
しかし、不安と同時に、この冒険に対する期待も膨らんでいた。仲間たちと力を合わせて困難を乗り越えていく。そんな経験が、きっと自分を成長させてくれるはずだ。深呼吸をして気持ちを落ち着かせると、俺は決意を新たにした。
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