第18話 戦闘終わりの温かな一服
戦闘が終わり、一瞬の安堵感に包まれていた俺たちだったが、リーフの鋭い指摘が緊張感を取り戻させた。「シーク、まだ安心するには早いぞ。アニキが言っていたレッドウルフの群れの数が少ないことを忘れるな」と彼が声をかけてきた。その言葉に、俺は背筋が凍るような感覚を覚えた。
俺とリーフのやり取りを聞いていたゴルドが、周囲を警戒しながら発言した。「心配するな。今この瞬間も、俺の
その時、クロムが静かに俺に近づき、優しく背中に手を置いた。「シーク、少し動かないで。回復魔法をかけるから」彼の手から温かな光が広がり、疲れた体に生命力が満ちていくのを感じた。魔法が終わると、俺は振り返ってクロムに深々と頭を下げた。「本当にありがとうございます」しかし、クロムは照れくさそうに顔を赤らめ、急いでブルームの後ろに隠れてしまった。この予想外の反応に、パーティーのメンバー全員が思わず笑みをこぼした。
笑いが収まると、リークが咳払いをして全員の注目を集めた。「よし、これで依頼は無事達成したな。だが、まだ森の異変の全容は掴めていない。この先も油断せず、慎重に調査を続けよう」彼の提案に全員が同意し、装備を点検しながら、次の行動に向けて心を引き締めた。森の奥深くへと進む準備を始める中、俺たちは未知の危険に立ち向かう決意を新たにしていた。
しかし、ブルームが突然手を挙げて言った。「みんな、ちょっと待って。依頼は達成したけど、みんな疲れてるわ。ここで一旦休憩して、ご飯を食べない?」
リーフは少し考え込んだ後、頷いた。「確かに、空腹じゃ戦えないし」
ゴルドも賛成の意を示し、「そうだな。休憩して体力を回復させるのも大事だ」と付け加えた。
クロムは少し恥ずかしそうに「実は僕もお腹が空いていたんです」と小声で言った。
リークも「そうだな、休憩しよう。みんなで食事をしながら、これからの作戦を立てるのもいいかもしれない」と提案した。
全員が同意し、近くの安全そうな場所を探して休憩の準備を始めた。ブルームは手際よく簡易的な調理器具を取り出し、携帯食料を使って温かい食事を作り始めた。その香りが森に広がり、みんなの疲れを癒していくようだった。
ブルームがご飯をつくっている間、俺らはレッドウルフの死体を回収する。死体を回収する作業は慎重に行われた。レッドウルフの巨大な体を扱うのは容易ではなく、全員で協力して作業を進めた。その過程で、俺たちは思わぬ発見をすることになった。
レッドウルフの体を調べていると、俺は不自然な点に目が留まった。獣の体に、見覚えのない矢が深々と刺さっていたのだ。その矢は俺たちの装備にはないもので、明らかに別の誰かが放ったものだった。
「おい、みんな。ちょっと来てくれ。この矢、俺たちのものじゃないぞ」と、俺は仲間たちに声をかけた。
ゴルドが素早く近づいてきて、矢を慎重に観察し始めた。彼の鋭い目が矢の特徴を細かく分析していく。「間違いない。これは確実に俺たちの装備にはないものだ。誰か他の者がこのレッドウルフと戦っていた可能性が高いな」
リークも加わり、眉をひそめながら矢を手に取った。「これは予想外の展開だ。この深い森の中に、他の冒険者がいるということか。矢じりをよく見てみろ。これは明らかに人間を表す紋章が刻まれている。単なる魔物の仕業ではないようだ」
ゴルドは腕を組んで考え込んだ後、新たな推測を口にした。「そういえば、レッドウルフの1匹が
その時、ふと風に乗って香ばしい匂いが漂ってきた。みんなの注意が一斉にその方向に向けられる。ブルームが調理を終えたようだ。
「みんな、お待たせしたわね。ご飯ができたわよ」とブルームが明るい声で呼びかけた。
ブルームが用意したのは、限られた材料で作られた簡素ながらも栄養バランスの取れた食事だった。主食は携帯食料の乾パンを湯で丁寧に戻し、ふっくらとした食感に仕上げたもの。それに添えて、保存食の干し肉を細かく刻んで加えた具だくさんの即席スープが用意されていた。野菜は乾燥野菜を巧みに戻し、キャベツやニンジン、タマネギなどが彩りよく入っていた。一見シンプルな料理だが、ブルームの工夫と技術が光る、野外での最高の一品に仕上がっていた。
「申し訳ないけど、こんな簡単なものしか作れなかったわ」とブルームが少し照れくさそうに言う。
しかし、野外での活動に慣れているパーティーのメンバーたちは感謝の言葉を述べてから、食事を受け取った。
俺も、感謝の言葉を述べて食事を受け取る
食事を口に運ぶと、予想以上の美味しさに驚いた。固いパンや味の薄い食事を想定していたが、全く違った。
乾パンは、お湯で戻したとは思えないほどふっくらと柔らかく、口の中でほろりと崩れる。その味わいは深く、ほのかな甘みと香ばしさが広がる。スープは、具材の旨味が凝縮され、一口飲むと体の芯まで温まる。野菜の甘みと肉の旨味が絶妙なバランスで調和し、まるで高級レストランの一品のような贅沢な味わいだ。
「ブルーム、これ本当に美味しいよ。簡単なものなんて言わないで」と思わず言葉が漏れる。
他のメンバーも同意するように頷き、美味しそうに食事を楽しんでいた。この瞬間、疲れも忘れ、心地よい満足感に包まれる。
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