第5話 訓練
前言撤回。全然楽しくない!!
俺は心の中でそう叫んでいた。というのも、朝7時ごろからカルバーさんにボコボコにされていたからだ。
「もう、勘弁してください……」と俺は息を切らしながら言った。カルバーさんは笑いながら答える。「まだまだこれからだ」そう言って、彼は再び攻撃の構えを取った。
「ていうか、なんで俺たち素手で戦ってるんすか……」と聞くと、カルバーさんは呆れた顔で答えた。「なんでって、お前。剣士が戦場で常に剣を握れるわけじゃねぇ。それに冒険の最初の方なんか、ロクな剣を持てないんだから、拳で戦った方が幾分かマシだぞ」
そう言いながら、カルバーさんは俺の顔を狙って拳を振り下ろした。俺は咄嗟に身を捻って避けようとしたが、その動きを読まれていたようで、カルバーさんの膝が俺の腹に突き刺さった。「うっ…!」と思わず声が漏れる。「見ろ、こうして近距離での戦いに慣れておけば、いざという時に役立つんだ」とカルバーさんは説明を続けた。
「説明しながら……ゴッファ」俺が文句を言おうとした時、膝蹴りで下がっていた頭を側面から殴られた。「おいおい、口開けるなよ。舌切って死ぬぞ」
「そんなこと言われても……」と俺は弱々しく抗議しようとしたが、カルバーさんの次の攻撃を予測して身構えた。カルバーさんは大ジャンプを繰り出し、飛び蹴りをしようとしてくる。
「さすがにそこまでの大振り、避けられますよ」と。飛び蹴りを交わしてハイキックをしようとするが、その足を難なく掴まれる。「オラっ、よっと」と野太い声を出しながら、カルバーさんは俺を木の方向に投げ飛ばした。
木にぶつかりそうになる前に、手で幹を掴んで木を一周し、反動をつけた飛び蹴りをお見舞いしようとした。しかし、カルバーさんは軽々とそれを避け、逆に俺の足を掴んで地面に叩きつけた。「甘いな、まだまだだ」とカルバーさんは笑う。俺は痛みをこらえながら立ち上がり、次の攻撃に備えた。
「お前は、まだ魔力を使ってねぇ」とカルバーさんが言うと、目にも止まらぬスピードで背後を突かれる。「はっや!?」と後ろを振り向く暇もなく、腰に膝蹴りを食らうと体が宙に浮き上げられた。
トンッとカルバーさんが地面を蹴る音が聞こえたかと思うと、背中に強烈な蹴りを食らった。
「まだまだっ!」と気合十分な声が聞こえたかと思うと、カルバーさんは打ち上げられた俺を超える速度で上昇し、空中を蹴った。
俺は目の前の光景を信じられず、放心状態になったが、踵を振り下ろそうとしているカルバーさんが視界に入り、咄嗟に腕で防御した。
強烈な衝撃が腕を通じて全身に走り、地面に叩きつけられる。
痛みで意識が朦朧とする中、俺は地面に横たわったまま、カルバーさんの姿を探した。彼は数メートル先に立ち、腕を組んで俺を見下ろしていた。「まだ立てるか?」と彼が問いかけると、俺は歯を食いしばって何とか体を起こそうとした。しかし、全身の筋肉が悲鳴を上げ、再び地面に崩れ落ちた。
「おうおう、限界そうだな。神父呼んでくるからちょっと待っとけ」
カルバーさんは村の中へ走っていった。しかし、世界に転移したての子供をこんなにボコボコにするのか、普通。俺は指一本動かせないほどに限界に達していた。それと同時に自分の弱さを痛感し、もっと強くならなければいけないという思いが湧き上がってきた。「次は、もっと長く持ちこたえてみせます」と心の中で誓いながら、神父さんの到着を待った。
数分後、神父さんが到着した。彼は優しい笑顔を浮かべながら、俺の傍らに膝をつき、手を差し伸べた。「大丈夫かい?」と神父さんが尋ねると、俺は弱々しく頷いた。神父さんの手から温かな光が放たれ、俺の体を包み込んでいく。
「ありがとうございます」と俺が小さくお礼を言うと、「いやいいんだよ、うちの村では神父なんてやることもないしね」とまっすぐな笑顔でそう答えてくれた。
神父さんの癒しの魔法によって、体の痛みが和らいでいくのを感じた。しかし、まだ完全には回復していない。「少し休んだ方がいいでしょう」と神父さんが言うと、カルバーさんが笑いながら近づいてきた。「明日からはもっと厳しくなるぞ。覚悟しておけよ」
これ以上何があるのか、と心に思っていたら、「まぁ外に出ても簡単に死なないための基礎って奴だと」答えが返ってきた。「あれ?口に出てました?」と聞くと、「なんとなくだ」と返ってきた。
神父さんとカルバーさんは、俺の状態を確認しながら、しばらく話し合っていた。その間、俺は自分の体の回復を感じながら、これからの訓練のことを考えていた。確かに厳しいかもしれないが、この世界で生き抜くためには必要なことだと理解し始めていた。
「シーク、少し話し込んでくる。お前は座禅でも組んで魔力の扱いに慣れておけ、いいな」
「はい、わかりました」と俺は答え、座禅を組む姿勢を取った。目を閉じ、呼吸を整えながら、体内の魔力を感じ取ろうと集中した。まだ慣れない感覚だったが、少しずつ魔力の流れを感じ取れるようになってきた気がした。
体感数分してからカルバーさんが話しかけてきた。「そろそろ、魔力を感じるだけの訓練を終えるか」
俺は目を開け、カルバーさんの方を向いた。「はい、少し感覚がつかめてきた気がします」と答えると、カルバーさんは満足そうに頷いた。「よし、じゃあまず魔力を体の中を巡回させるんだ。川の流れを体全身に流れさせるイメージを持ってやってみろ」
川の流れをイメージし、それを心臓に流すイメージを持ち、そこから血液のように体の隅々まで行き渡るように魔力を流していく。
そしてその魔力の出力を上げていく。すると体が淡く発光し始めた。
魔力が体中を巡る感覚に、俺は驚きと共に興奮を覚えた。体が軽くなり、力が湧いてくるような気がする。「いいじゃねぇか、シーク。上手くできてる」
そう言われると、俺は素直に従うことにした。今日の激しい訓練で体はくたくただったが、同時に不思議な充実感も感じていた。「ありがとうございました。では、食事に行ってきます」とカルバーさんに告げ、宿舎へと向かった。
今日の経験を振り返ると、ふと思い出した。「そういえば、お前は魔力を使ってねぇ」とか言われたっけ。使い方を教わってなかったのに。そんな不満を抱きながらも、不貞腐れる気持ちを押し殺し、明日からの訓練に向けて心を引き締めた。
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