第4話 魔力の川

 あれから3日、体中の軽い怪我が完治して体が羽のように軽い。

 いや、比喩ではなく本当に羽のように軽いのだ。俺は平凡な身体能力の高校生のはずだ。

 決して50メートルを5秒で走れるような超人ではない。

 俺は、感じたことのない速さでそこらを走れるようになっていた。


「おう、怪我も治ったみたいだな」と森から猪を担いでカルバーさんが俺に声をかける。

「はい!でも妙に体が軽いんです。何というか、元いた世界のころよりも動けるような気がして」

 と俺は、目の前の博識おじさんに疑問を投げかける。この3日間、この人は俺の疑問にスラスラと即答してくれる。それもほとんど間を置かずにだ。


 カルバーさんはニヤっと笑いながら「そりゃ、お前さん名づけの儀式を行ったからだろうな」と俺が次の疑問を投げかける前に続ける。「この世界の一員になった恩恵ってやつさ。それにお前さんは世界を移動してきたんだろ?その時に移動に使われた魔力はお前さんの体の中に吸収されているんだ」


「へぇ、そうなのか。でも、魔力って何だ?」と俺は興味深そうに尋ねた。カルバーさんは猪を下ろしながら、「魔力は、この世界のエネルギーの源だ。魔法を使うのにも、強い力を出すのにも必要なものさ。お前さんの体にも今、その魔力が流れているんだよ」と説明してくれた。


「まぁお前さんは、その魔力を使えるようにするには少し工程が必要だがな。今、お前さんには3種類の魔力が流れているんだ」

「3種類?多分、元々の魔力と転移の時に吸収した魔力ってのはわかるけど、もう一つって何だ?」


 この世界に来てから、俺はずっと疑問を投げかけることしかしていないような気がしてきた。しかしそれに対して、カルバーさんは何の嫌な顔もせずに答えてくれる。

 心優しいこの人に感謝しなきゃな。


「最後の1種類はゴブリンの魔力さ。お前さん、ゴブリンを3匹殺してきたんだろ。この世界じゃ殺した生き物の魔力の一部は体に吸収されるんだ」


「ゴブリンの魔力?」と俺は驚きの声を上げた。「殺した生き物の魔力を吸収するなんて、なんだか怖いな……」

 カルバーさんは笑いながら答えた。「怖がることはないさ。これはこの世界の自然な摂理なんだ。むしろ、お前さんの成長にとっては良いことだよ」


「へぇ、そうか。でも、その魔力を使いこなすにはどうすればいいんだ?」と俺は興味深そうに尋ねた。カルバーさんは腕を組んで考え込むような仕草をした。「そうだな、まずは魔力を感じる必要があるな。シーク、ちょっとそこで座禅を組んでみな」

「でも、俺、座禅なんかしたことないけど」と俺が不安そうな声を出すと、カルバーさんは「問題ない、集中できる姿勢なら何でもいい」と言った。


 俺は深呼吸をして、できるだけリラックスした姿勢で地面に座った。目を閉じ、呼吸に集中する。

 カルバーさんは俺の後ろに回り、背中に手を当てる。何をするんだと声を出したいが、集中を乱してしまうのは良くないかと思い、黙って集中を再開する。


 するとカルバーさんの手から渦巻くような熱を感じる。その熱は、まるで体の中を流れる川のようだった。最初は小さな流れだったが、徐々に大きくなり、全身を包み込むようになる。これが魔力なのか、と思った瞬間、体の中で何かが目覚めたような感覚に襲われた。

「今、川を感じているな。お前さんはそれを三つ感じるはずだ。さらに集中しな」と後ろからカルバーさんが言う。

 さらに深く目を閉じる。最初に感じた大きな川の近くに、それを遥かに凌駕するような大きな川を感じ、さらにその向こうには信じられないほど小さい川を感じる。

「感じられた……みたいだな。じゃあゆっくりでいい。ゆっくりその川を一つにしてみな」と言い、カルバーさんは手を離す。


 俺は目を閉じたまま、カルバーさんの指示に従って三つの川を一つにしようと試みた。最初は難しく感じたが、徐々に三つの流れが近づいていくのを感じ取れた。ゆっくりと、でも確実に、それらの川は一つの大きな流れへと融合していった。


 完全に融合させるのには、かなりの集中力を要した。気づけば、近くにいたはずのカルバーさんもいなくなり、猪の解体音だけが部屋の中に響いていた。

 さらに集中し、魔力の川をより完全に一つにしていく。

 ぐぅ~

 腹の音がなった。


 どうやら、魔力を一つにするのに相当集中していたらしい。気がついたら、朝だった外はすでに夜になっていた。

「おうおう、腹が減ってるな。ちょうどシチュー持ってきたんだが、食べるか?」とカルバーさんが猪のシチューを見せてくれる。


「ありがとうございます、カルバーさん。本当に助かります」と俺は感謝の言葉を述べながら、シチューを受け取った。香ばしい匂いが鼻をくすぐり、空腹感が一気に強まる。スプーンを手に取り、熱々のシチューを一口すすると、濃厚な味が口の中に広がった。「うまい!これは本当に美味しいです」と思わず声を上げてしまう。


「食べ終わったらしっかり寝ておけよ」


 俺は頷きながらシチューを食べ続けた。

「明日は何をするんですか?」と尋ねると、カルバーさんは少し考え込んでから答えた。

「まあ、戦闘訓練だな。簡単なものだけどな」

 その言葉を聞いて、俺は食事を終え、寝室に向かった。ベッドに潜り込みながら、心の中でつぶやいた。

 明日が楽しみだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る