第6話 剣の訓練

「本当に嫌だ!」


 心の中でそう叫びながら、カルバーさんの拳が信じられないスピードで襲いかかってくる。昨日の訓練で魔力を体内に循環させ、身体機能を強化したというのに、カルバーさんはそんなことはお構いなしに、俺をボコボコにしている。


「くそっ!」思わず声が漏れる。必死に防御しようとするが、カルバーさんの攻撃は予想を遥かに超えている。体中が痛みで悲鳴を上げる中、なんとか踏ん張る。「もっと集中しろ!」カルバーさんの声が耳に響く。

 さらにカルバーさんは俺に連打を浴びせてくる。反撃は全くできていないものの、成長の証なのか、重い一撃を受けることは少なくなった。


 突然、カルバーさんの動きが止まった。「よし、ここまでだ」と彼は言った。「お前、昨日よりずいぶん上達したな」とカルバーさんが続けた。

「次は剣の演習だ。これには3日かける。拳で戦えるようになったとはいえ、剣士の命は剣だ。それを手放すことのないよう、実力を上げるのが一番だからな」


 カルバーさんの言葉に、俺は緊張と期待が入り混じった感情を覚えた。剣の演習か。これまでの格闘訓練とは全く異なる技術が必要になるだろう。「はい、わかりました」と答えながら、心の中で決意を固める。この3日間で、どれだけ成長できるだろうか。

 結果は3日間ボコボコにされただけだった。

 理解不能だ。この人、鬼のように強い。


 この三日間、俺はカルバーさんに一度も手傷を負わせることができなかった。


「まさか、こんなに強いとは……」と呟きながら、俺は息を切らせた。カルバーさんの剣さばきは、まるで風のように速く、水のように流れるようだった。それでも、この三日間で少しずつだが、剣を扱う感覚が身についてきたような気がする。

「こんなもんだろう」とカルバーさんは息をつく。「最後に、お前はまだ能力アビリティの覚醒ができていない」


能力アビリティの覚醒?」と俺は驚いて聞き返した。カルバーさんは頷き、「そうだ。お前にも特別な力が眠っているはずだ。それを引き出すのが次の課題だ」と説明した。

「俺だけの力…」と俺が言うと、間髪入れずにカルバーさんが言う。「おいおい、勘違いするなよ。この世界の知性を持つ生物全てに備わっている力だ」

「え?」俺は呆気にとられた声を出す。


 カルバーさんの言葉に、俺は混乱を隠せなかった。「じゃあ、その力って一体何なんですか?」と尋ねると、カルバーさんは少し考え込むような表情を見せた。「それぞれ違うんだ。例えば……」とカルバーさんは淡々と俺に説明してくれた。

 どうやらこの世界の知性のある生物は皆、何かしらの覚悟を決めた時に能力アビリティの覚醒が起きるらしい。しかし、俺がゴブリンを殺そうとした時、それは起きなかった。それはなぜか。


 あの時の俺はまだこの世界の生物ではなかったからだ。名付けの儀式を経て、この世界の生物として世界に認知される。

 そして、その後何かしらの覚悟を決めた時、能力アビリティが発現する。

 その能力もそれぞれ個人によって違うらしい。戦闘の補助をするような力になることも、全く関係ない能力になることもあるという。


 カルバーさんは一度冒険に出た時、覚悟を決めた際に「真実の目」を発現したと言っていた。


「そうだな……例えば、シーク、お前が殺したと言っていたゴブリンだが、直接確認したわけじゃねぇからなんとも言えないが、1匹目は超スピードだろう。普通のゴブリンは岩に刺さるような速度は出ないからな。

 多分だが、超スピードに耐えうる骨格にもなっていたんだと思う。岩に刺さるような速度でゴブリンを叩きつけたら、普通は死んでしまうだろうからな。

 次に、腕ゴブリンだったか。おそらく剛腕だろうな。片腕だけ異様に発達しているということは、片腕だけに発現したんだろう。可哀想なこった。

 そして槍を持っていたゴブリンか。おそらく頑強だろうな。普通のゴブリンより固かったって言っていたもんな。

 珍しいもんだな、出会ったゴブリンが皆、戦闘関連の能力アビリティを持っているのも」


 俺は最後の言葉に驚きを隠せなかった。「じゃあ、俺の能力も戦闘と関係ないかもしれないんですね」カルバーさんは頷いた。「そうだ。だからこそ、基本的な戦闘技術をしっかり身につけることが重要だ」

 なるほど。カルバーさんのさっきの言葉が身に沁みる。


「まぁ、基礎の剣技もこの世界の説明もある程度終わったな」とカルバーさんが俺に言うと、「明日、ここを旅立て」と急な指示を出す。


「えっ?」と驚きの声を上げる。「そんな急に……」

 カルバーさんは真剣な表情で続けた。「お前の成長は目覚ましい。だが、真の力を引き出すには、実際の冒険が必要だ。明日から、お前自身の道を歩み始めるんだ」

 その言葉に、期待と不安が入り混じった感情が胸に広がった。

「そして、何より元の世界に戻るんだろ?善は急げだ。それに何より、お前はもう簡単に死ぬような弱さじゃねぇよ」


 カルバーさんの言葉に、俺は深く考え込んだ。確かに、この世界での経験は俺を強くしてくれた。でも、元の世界に戻るという目標も忘れてはいけない。「わかりました。明日から自分の道を歩んでみます」と決意を込めて答えた。カルバーさんは満足そうに頷いた。


「最後に助言だ。モンスターを狩ったらできるだけ早く魔力を一体化しろよ。時間が経てば経つほど流れが同一化しづらくなって、もったいないからな」


「わかりました。師匠!」と答えると、カルバーさんは満足そうな表情を浮かべた。明日からの旅に向けて、心の準備を整える必要があった。

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