第3話 運よく助かる
目が覚めると、見慣れない天井が目に入った。柔らかな布団の感触と、どこか懐かしい香りが鼻をくすぐる。「ここは……?」と呟きながら、ゆっくりと体を起こす。周囲を見回すと、どうやら小さな木造の家の中にいるようだった。
「お、起きたか。お前さんゴブリンの死体の近くで倒れてたんだぞ。体調大丈夫か?」
と野太い声のおじさんが話しかけてきた。
「えっと、だい……じょうぶです」
体の隅々まで確認してみる。ゴブリンとの戦闘でできた軽傷はあちこちにあるが、目立った外傷はない。
「って、あれ?背中の傷は?」とふと疑問が湧く。すると、おじさんは「あぁ、背中の刺し傷なら血液がめちゃくちゃ出てたんでな。村の神父に神聖魔法で直してもらったさ。後でお礼言いな、坊主」と答えた。
「そうだったのか……」と驚きながら言う。「ありがとうございます。神父様にもお礼を言わないと」
おじさんは優しく微笑んで、「そうだな。それより、お前さんはどうしてあんなところにいたんだ?この辺りは危険な場所なんだが……」
俺は少し考え込んでから答えた。「実は……」と、これまでのいきさつを語る。
おじさんは少し黙り込んだ後、「つまり、お前さんは元居た世界からここに転移されてきたんだな」と俺の話に理解を示してくれた。
「おっさん、信じてくれるのか!?」と俺が驚いた声を出すと、「あぁ信じるさ。別世界からの転移者なんてのは昔話にも出てくるしな。そら珍しいことではあるが、俺が知る限り300年はなかったはずだ。でもお前さんの言葉に嘘はねぇ。それはわかる」とおじさんは俺の目を見て言った。
「それってどういう……」と俺が尋ねると、
「なぁに、俺にはそういう力があるってだけさ。言うなれば真実の目だな。何も心配すんな。心を読めたりするわけじゃねぇ。嘘をついてるかどうか、それが分かるだけだ。俺は、この力でこのあたりの裁判官ってのをしてんだ」
「そうか、真実の目か。それは便利な力だな」と俺は感心しながら言った。おじさんは少し照れくさそうに笑い、「まあな。でも、この力があるからこそ、お前さんの話を信じられたんだ」と言った。
ふと気づいて、「そういえば、おじさんの名前は?」と尋ねると、おじさんは目を丸くして
「なんだ、まだ言ってなかったか。俺の名前はカルバー・イン・クライシスってんだ。よろしくな」
「カルバー・イン・クライス……か。なんだか強そうな名前だな」カルバーさんは軽く笑いながら「まあな、親父が付けた名前なんだが、意味は知らねえよ」と答えた。「俺の名前は…」と言いかけたところで、おじさんが俺の口を抑えて止めた。
「待て待て、お前さん今、元の世界の名前を言おうとしたろ」
「ああ、そうだけど。何か問題でもあるのか?」と俺は疑問を声に出した。カルバーさんは真剣な表情で続けた。「この世界では名前に力がある。元の世界の名前を口にすると、予期せぬ事態を引き起こす可能性があるんだ。ここでは新しい名前を使うことをお勧めするさ」
「なるほど、新しい名前か。難しいな」
カルバーさんは少し考え込んでから、「そうだな。新しい名前を考えるのは簡単じゃない。でも、お前さんの性格や特徴を反映させた名前がいいかもしれないぞ。例えば、勇敢さを表す"ブレイブ"とか、知恵を表す"ウィズダム"とか。どうだ?」と提案してくれた。俺は真剣に考え始めた。
「なら俺はシーク・グロウって今後名乗ることにする」
カルバーさんは少し驚いた様子で俺を見つめた。「シーク?なかなかいい名前だな。どういう意味があるんだ?」と尋ねてきた。俺は少し考えてから答えた。「新しい世界で真実を"探求"する、という意味を込めたんだ。この世界のことをもっと知りたいし、自分の居場所も見つけたいんだ。そして、その旅の中で周りを明るく照らしていきたい。人として成長していきたい。だからグロウ」
「お前さん、元の世界に戻るつもりはねぇのか?」
「もしかして、戻る方法があるのか?」
ないなら何で、言ったんだよ!と言いたい気持ちを抑えて疑問を投げかけた。
「いやねぇな、少なくとも俺は知らねぇ。というか、国にも残ってないと思うぜ。最後の転移者が300年前って言われてるしよ。その転移者も元の世界に戻らずこの世界に残り続けて死んだらしいからな」
「ならぴったりだな」と俺は、シーク・グロウとして生きていくことを心に決めた。その瞬間、青白い光が俺を包んだ。
「な、なんだこれ!?」と俺が大慌てしていると、「なぁに心配すんな、名づけの儀式みたいなもんよ」とおじさんが冷静に解説してくれる。
光が消えると、俺の体に何か変化が起きたような気がした。力が湧いてくるような、そんな感覚だ。「これが……名前の力なのか?」と呟くと、カルバーさんが頷いた。「そうだ。お前さんは今、この世界の一員として認められたんだ」
「それにお前さん、戦闘の仕方も強くなる方法もまだ知らねぇんだろ?」
「ああ、そうだな。まだまだ分からないことだらけだ」と俺は素直に認めた。カルバーさんは優しく微笑んで、「心配するな。これからゆっくり教えていくさ。まずは基本的な剣術から始めようか」と言った。俺は期待と不安が入り混じった気持ちで頷いた。
「まあ、その前にその軽傷だらけの体を治さなきゃな」とカルバーさんが俺の肩に手を置いた。
「それも、そうだな」と答えた俺は、ふと思いついたことを口にした。「そういえば、カルバーさんって剣術を教えられるのか?」
それに対して、カルバーさんは自信満々にこう答えた。「大丈夫、心配すんな。俺は、そこらの冒険者より断然強いぞ。なんたってな……」
カルバーさんは胸を張って続けた。「この村で最強の剣士だからな。剣術だけじゃなく、魔法や戦略まで幅広く教えられるんだ。お前さんを一人前の冒険者に育て上げてみせるさ」
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