黒い心と共に

筒木笹目

黒き心と共に

携帯のアラームが鳴り続ける

ポチッ

「もうこんな時間か」

11時23分

ベッドから立ち上がりカーテンを開ける

「うわっ眩しっ」

頂に昇りゆく陽に目が眩む

洗面台へ向かい

バシャッバシャッと顔を洗い

新聞を取りに玄関へ

「ん?めずらしっ俺宛に手紙だ」

湯を沸かしインスタントコーヒーを入れ

それを片手に人生で数回目の自分宛の手紙を読む


渡辺蓮様へ

うっとうしい梅雨の季節になりましたがいかがお過ごしでしょうか

僕は元気だよー!

こんな挨拶なんてどうでもいいよね!

あと10日だね!いやー早いね時経つの

てことで

6月24日21時23分

貴殿の宝を黒く深き水底に沈める


蟆乗�玲噤莠コ より


「なんだこれ…イタズラか?

あと10日…6月24日…なんかあったっけな?

それに俺の宝?なんもねえぞ宝なんか」

謎の手紙に向き合い40分が経過…

「んー考えても意味ねえな

取り敢えずほっとこ、てかっやばっ!バイト遅刻するっ!」

急いで家を出てバイト先へ向かう

手紙の事など忘れバイトをし上がりの時間に

「お疲れ様でーす」

「はあ…疲れたー晩飯どうすっかな」

帰りの支度をし帰路につく

数分歩くと前から見知った顔の女性が歩いてきた

「あっれー、れんれんじゃーん」

「その呼び方やめろっていったろ紗良

お前も仕事帰りか?」

「ごめんてー笑

そうだよー今日も頑張って働いたので褒めてくれてもいいんだぞー」

「うっせ、俺だって頑張りましたよっ

それよりさお前飯まだ?」

「え、何この私を誘おうってゆうのー?笑」

「うっせえよ、さっさと行くぞいつもんとこでいいよな?」

「はいはーい、

勿論奢ってくれますよねー?笑

こんな強引に誘って奢らないなんて…」

「はあ…いいよ奢りで」

「やったー!何頼もっかな〜」

「程々にしてくれよ?」

「はーい笑」

2人は行きつけの居酒屋 流天に入った

「すいませーん

えーと生2つとこれとこれお願いします」

ビールが届き2人はそれを勢いよく飲み干した

「ぷはっー生き返るー!やっぱこれのために生きてるわ私笑」

「はあ…」

「なになにー?笑なんでため息なんてつてるのさ笑」

「いやー多分イタズラとかなんだけどさ

家のポストにこんな手紙入っててさ」

なんとなくカバンに入れて持って来た手紙を取り出す

紗良は徐に手に取り手紙に一通り目を通した

「何これー笑こっわあ笑

れんれん、心あたりとかないの?笑6月24日」

「またその呼び方…まあないからちょっと気になんだよなぁ」

「6月24日本当になんか起きたりして笑

宝だから財布無くなったりすんじゃない?笑」

「まあそれだけだったら気をつければ済むからいいんだけど…」

「まあ笑命狙われたりしてるわけじゃないんだし、気にしない気にしない笑

ほら、飲も飲も笑」

いつの間にか紗良が頼んでいた2杯目のビールを飲む

「はあ…そうだな

とりあえず忘れよう」

「そうそう笑それでいいそれで」

紗良のハイペースに付き合わされ

ビール3、4杯を飲み干し

紗良と店で別れ帰宅しベットに横になり

気がつけばまたアラームが鳴り続けていた

ポチッ

12時31分

「あー頭いった…

じじみの味噌汁あったよな?」

ベットから立ち上がり湯を沸かし

インスタントの味噌汁を飲む

「今日もバイトか…」

いつもどうり仕事をこなし帰路につき帰宅し

倒れるように眠った

そんな日々が続き気がつけばあの日になった

6月24日8時12分

いつもどうりアラームが鳴り続ける

ポチッ

「おっまだ8時だ

今日は休みだしどっか行くかなぁ」

いつもどうり湯を沸かし

インスタントコーヒーを入れ

新聞を読もうとリビングへ向かうと

リビングのテーブルに置かれた

手紙が目に入り思い出す

「うわっ今日じゃん…

外でんの怖えな…」

手紙の事を思い出すと同時に

紗良の言葉も思い出す

『気にしない気にしない笑』

「まあ…大丈夫か…

うん、そうだな映画でも見に行くか」

出掛ける支度をし気がつくと

もう昼を過ぎていた

12時16分

「映画、13時40分からだしどっかで飯食ってから行くか」

近くのファミレスで飯を食べ映画館に着くともう

上映開始時間ギリギリだった

13時34分

「ぶねえ…ハアハア…間に合った…」

気になっていたアメコミの映画を観て近くのゲームセンターで遊んでいると夕方になった

18時06分

「もうこんな時間か…飯でも食って帰るか」

帰宅途中目に入った

ラーメン屋に寄りラーメンを食べ帰宅した

20時17分

「ただいまー

疲れたー久しぶりに全力で遊んだなぁ

シャワー浴びっか」

シャワーを浴び風呂場から出て体を拭き髪を乾かしているとあの時間が迫っていた

21時13分

お風呂場からリビングに向かうとあの手紙が目にはいる

「23分だっけ…まあ大丈夫だろ…」

少しの不安を抱えたままその時を迎える

21時23分

「なんも起きねえな

はあ…よかったー」

安心したのも束の間よく知っている番号から着信が

21時26分

「誰だよ…こんな時間に

って母さんかよ

はいはい出ますよ…もしもし」

「あっもしもし蓮?

大変なの!…あの…あのね」

「なに、どしたの?」

「あのね急で受け止められないかもしれないけど

ゆきちゃんが…」

「悠綺がどうかしたの?」

「ゆきちゃんがね…川で溺れて…死んじゃったの」

「は?

何言ってんの母さん」

「お母さんもねさっき警察から電話かかって来て

何が何だかわかってないの…

今確認しに病院に向かってる途中なの…

蓮もなるべく早く来てちょうだい…」

「何が何だかわかんねえけど…とりあえず

病院行けばいいのね?」

「うん…阿多賴病院ね…気をつけてね」

「わかった…急ぐわ」

突然の訃報に脳の処理が追いつかないまま

病院へと急ぎ向かう

22時08分

阿多賴病院へ着きすぐに悠綺の元へと向かう

両親のいるところに着くとそこには息をせず冷たく横になっている妹の姿があった

「は?

なんでだよ、なんでお前…

なんでこんな時間に川の近くなんかに…」

「塾の帰りなの…いつも塾の帰り道に河川敷を通るの…

でも…川に入ったりして遊んだりする子じゃなかったのに…なんでよ…」

そこに警察の刑事がやってきた

「この度はお悔やみ申し上げます

早速なのですが

悠綺さんのご家族の皆さん、お話を伺いたいのでお時間よろしいでしょうか」

「なんで俺たち家族が警察に話さなきゃいけない事があんだよ!」

「すみません、説明不足でした

今回の事件の捜査の一環としてお話を

伺いたいのです」

「事件?悠綺は誰かに殺されたのか?」

「はい、現場に犯人と思しき人物がいたので確保し今署で留置しています」

「誰なんだよそいつ…」

「被疑者の名前は小栗紗良というのですが

ご存じですか?」

「は?紗良?なんで?」

小栗とゆう苗字を聞き頭のすみに

僅かに残った黒い記憶が引き出される

「あ」

10年前

2013年6月24日

『この日は家族で少し遠くに住んでいる親戚の家に遊びに来ていた

そこは自然豊かな場所で近くに川もあり

とても涼しげな場所だった

俺たち家族はその近くの川でBBQをしたり

子供たちは川で遊んだりしていた

この日この川には俺たちの他に子連れの家族が2、3組来ていた

みんなで楽しい時間を過ごし最後に花火でもしようとゆう事になった線香花火で誰が1番

長く火がついてるかとゆうよくある勝負を

しているとぽつぽつと腕に

水滴が降ってきた

次第にそれは強くなりすぐに大雨となった

大人たちは流石に危ないという事で

すぐに片付けを始め

子供たちに川から離れるよう言った

他の子連れの家族も同じようにした

だが遅かった

俺たちより上流の方にいた家族から悲鳴が

聞こえた

「きゃあああ!

あきと!」

4、5歳の男の子が上流の方から流されてくるのが見える

俺は手が届く距離にいたから

男の子の手を掴んだ

だが予想以上に川の流れが強くこのまま手を掴んでいると俺まで流されてしまうと咄嗟に脳が理解した

その瞬間俺は手を離していた

そこからはずっと心ここにあらずとゆう感じで何があったかはほとんど覚えていないが

その男の子は下流で流れ着いたところで病院に搬送されたらしい、がその後は知らなかった

いや知りたくなかった忘れたかった

手を離した瞬間の

男の子の絶望と憎悪に満ちた目が

事故から2、3ヶ月は脳裏から離れなかった

だが子供の記憶力は残酷でそれはどんどんと楽しい思い出が増えていくうちに

その黒い思い出はすみに追いやられていった

そして何事もなく高校、大学と成長していき

今に至る』

現在

6月24日22時12分

『そっか…俺のせいか』

そう心の中で呟くと同時に

刑事に向かい話しかける

「刑事さん…紗良と話せますか?」

「はい、可能です

その後に少し署の方でお話を伺いたいのですがよろしいですか?」

「はい、お願いします…」

そして刑事さんと共に阿多賴署へ向かった

「色々と手続きのほうありますので

あちらでお願いします」

「わかりました…」

手続きをすまし紗良に会う

「れんれん…思い出してくれた?」

『なんで、こんな事したんだ!』と

叫びたかったがあれを思い出した今

そんなことは言えない

「うん…思い出したでも

紗良の家族だとは知らなかった」

「そうだね、わたし一回もあの話れんれんに話してないもんね

わたしにはあの時はっきりと見えたんだ大雨の中だったけどれんれんが暁人の手を離すのが

その時に決めたのあいつは絶対許さないって

でも学校とかも知らなかったしどこに住んでるかもわかんなかったから何も出来なかったんだけど

高校に入って入学式でれんれんを見つけて

神様ってやっぱ見てくれてるんだなぁって

思ったの

でもれんれんに気付かれちゃいけないから

始めは普通に接しようと思ったの

でもある程度高校で生活していくうちに自分の中で何かが壊れて行くような気がしたの

だかられんれんと友達になっていつでも

復讐?仇取り?できる場所にいようって

決めたの

それで色々準備してるうちに

時間が過ぎてってその中でゆきちゃんとも

仲良くする振りをしたの

そして10年目の今日実行する事にした

ゆきちゃんが塾の帰り河川敷通るの知ってたからゆきちゃんが来る方向と逆から歩いて

行って偶然あったふりをして私はちょっと川で遊ぼって川に入って転んだふりをして

ゆきちゃんに助けを求めて助けに来たところを手を引っ張って川に沈めたの

自然とすんなり出来ちゃったの

すごいよね

壊れてる人間ってなんでもできちゃうの」

「ごめん…」

蓮の口からはもうそれしか出てこないくらい

あの時手を離した暁人への気持ちと

自分のせいで殺された妹と1人の人間を壊してしまった事への気持ちが

心の中でぐっちゃぐちゃになっている

この先この色々な色が混ざり合った黒い心を抱え生きていくそれを考えると

さらに胸が締め付けられた

「わたしはちゃんと罪を償う…だから

れんれんも暁人の事忘れずに生きてね」

もう何も言い返せないほど心は憔悴しきっている

蓮は最後まで何も言わず紗良の前から去った

刑事さんと話し終わった両親の元へ戻ると

まだ泣いている病院の時からずっと

両親に

「またなんかあったら連絡して」

そう言い遺し

その場から去った

帰り道バイクで崖のカーブ道を走りながら

考えたあの時手を離さず一緒に流されていればよかったと

こんな辛い事無かったのにと逆さの星空を見ながら考えた

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黒い心と共に 筒木笹目 @Yukime213

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