第8話 帰社
港には、漁協関係者総出の迎えがあった。
その中で、頭はくしゃくしゃ、スーツにネクタイ、よれよれの、ブラシを背にした異彩の男として、皆の注目を集めてしまった。
「佐藤さん、大丈夫かね」
「えっ、大丈夫ですよ。平気です。それより、漁労長に提案があるのですが」
「急ぐのかね」
「ええ、今すぐ」
「それじゃ、あそこの食堂で」
僕は、採る漁業から育てる漁業への転換を提案した。
つまり、漁獲量の不安定さ、年々減る漁獲量から育てる漁業、養殖業へ、一大消費地への近さの有利などなど。
「うん、そうだね~」
「漁労長は、組合員への説得、市長、知事、国会議員への根回し、農水予算獲得へ動いていただきたい。僕は、課長、部長、社長ラインの
「うん、賛成だ。よろしく頼みます」
「はい」
僕はその場で、課長、部長、社長のラインに電話を入れた。
「海野は乗り気です。今日、社長が来るそうです」
「ほう、動きが早い。ワシもうかうかできんな。忙しくなる。で、佐藤さんは」
「僕は、いったん帰ります。これでは、ね」
僕はスーツの袖を引っ張って見せた。
「うん」
僕は駅への道を歩いた。
見ると、コインランドリーがある。誰もいない。
『上着とズボンを洗おうかな』僕は上着、ズボンを脱いだ。『ついでだ、シャツとパンツも洗っちゃおう』僕がパンツを脱ぐと、キキッと車の止まる音がした。
バタンとドアを閉める音がして、洗濯籠を抱えたワラビーが入って来た。
「・・・・キャー!ヘンタイー」
ワラビーは洗濯籠を放り投げ、逃げ出した。
「まずい」僕は取あえずパンツだけを穿くと、衣類などを抱えて逃げ出した。
歩道を疾走すると、向こうからゲートボールのスティックを持ったヒツジの集団が歩いて来た。
『丁度いい。駅の方角を聞こう』
「駅はどっちですか」
「兄ちゃん、元気がいいねえ。メエエェー」
「ストリーキングかあ」
「間男だったりして」
「この寒空に、元気だメエ~」
僕はズボンを穿き、ワイシャツを着、ネクタイを首に引っ掛け、上着を着、ブラシを背負い、カバンを持った。
「で、駅は!」
僕は、怒声を発した。
ヒツジの集団は「メエエェ~」と反対方向を指した。
僕は電車を乗り継ぎ、乗り継ぎ、ようやく会社にたどり着いた。
その間、突き刺さるような視線を常に感じていたが、全て無視した。
まったく、何処の誰が通報するのか乗り換えの度に駅員が走ってくる。その度に先手、先手で乗り換える。基本、何も悪いことしてないが、いろいろ聞かれるのは面倒だ。
会社の最寄り駅からは、走った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます