第7話 茨木の漁協
僕はさっそく、部下となった
漁協では、漁協長の琴野
方々を案内して貰い、昼食をごちそうして貰った。
さすが漁協、新鮮で豊かな魚介類だ。
午後、漁協長と事務所を訪ねた。僕の希望だ。
事務長の
「仕入帳と貸借対照表を、見せてもらえませんか」
「え~」
「ダメですか」
「これは、漁協の秘密事項ですから」
「うちの数字が間違っているかもしれないのです」
「監査を通ったものです。監査役の承認も得ないと・・・・」
小々椰は
「いいじゃないか、公開してる資料だ」
「は・・・・い」
小々椰は汗が噴き出した。挙動不審だ。
「仕入帳を出して」
小々椰がパソコンを操作した。僕はブラシを逆さに持ち、コツコツコツと床を叩いた。
「次・・・・」コツコツコツ。
「止めて」コツコツコツ。
「次・・・・」コツコツコツ。
何回か繰り返すと、突然、小々椰がガラッとイスを投げ出し、額を床にこすり付け土下座をした。
「申し訳ありません」
「・・・・何事だ」
「たぶん不正経理ですよ」
「何~」
「申し訳ありません」
小々椰は、土下座したままだ。
事務所は騒然となった。
僕らは忘れられた存在となった。お客さまどころの騒ぎじゃなくなったらしい。
僕と明野は、漁協近くの食堂でコーヒーを飲んでいた。
漁労長から電話があって、食堂に居ると言ったら飛んで来た。
「いや、お見苦しいところを見せてしまって」
「よくある事です。いや、よくあってはマズイですね」
「いや、お恥ずかしい限りです」
「ところで、刺し網漁っていつありますか」
「巻き網なら、明日ありますが」
「それに、乗せてもらえませんか」
「え~」
漁労長は、『なにを言い出すのか』といった非難めいた反応だった。
「漁業の体験は」
「無いです」
「釣り船の経験は」
「無いです」
「え~」
「何か資格が必要ですか」
「そんなものは要らんが・・・・」
『まあ、素人が見学すると言っても、すぐ音を上げるだろう』と思っているらしかった。
「朝、と言っても真夜中だけど、早いよ」
「はい」
「それでも良けりゃ船長に話すけど、決めるのは船長だよ」
「はい、ありがとうございます」
話しは決まった。
外は真っ暗で何も見えない。ゴゴゴゴォとエンジン音とザザザザーと、波をかき分ける音がしている。
キャビン内は起きているのは僕一人。操舵室に一人。あとは各人ごろ寝をしている。
僕は気分が悪く、寝るどころではない。
夜が明けるころ皆が起き出してきた。
「
タコ船長が聞いてきた。
「それが・・・・どうも」
「始めは皆そうさ」
「どこまで行くのですか」
「どこまでって、遥かかなたの海までかな。魚影が見つかるまでってとこかな」
漁船、豊栄丸はのんびりムードが漂っていた。僕は誰彼から話しを聞き、スマホで写真を撮り動いていた。貴重な体験だ。漁協の現場の実態と、意見を聞くことができる。
皆気さくで、カラっとした竹を割ったような性格ばかりだ。
ただ、少し粗暴だ。
出港してから2日目の朝、緊張がはしった。
魚影を発見、友船との位置確認、漁網投下、全速前進ete・・・・。
ピリピリとした緊張感のもと、乗組員はキビキビと動く。
成果が出た。大漁だ。
僕は「遠くで見ていろ」と言われたにもかかわらず、知らぬ内に水揚げ網に近づき過ぎていた。ザザザザーと、水しぶきをまともに被ってしまった。
皆、雨具を使用している。船長が、ずぶ濡れの僕に気付いた。
「大漁ですね」
「あははは、サバ大漁だ。あははは」
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