第6話 会食


 タクシーで着いたのは、普通の?食事処。メニューに値段も表示されてあり、この値段なら時々は来店できそうな店。

イタリア料理とかフランス料理、和食でも超高級店だったらイヤだなあと思ったが、社長と麗果さん、意外と庶民的で良かった。

座敷席が用意されていた。

「パパ~お待たせ~」

「ガウ~、あれ、君は・・・・」

「はあ~」

「無理やり連れて来ちゃった。佐藤さん、今、会社で評判なの~」

女神さまはライオンの隣に座ると、かなり早口でぺらぺらおしゃべりを始めた。

秘書で、控えめで、おしとやかなイメージとはかなり違う。

ライオンは「ゴロゴロゴロ」と頷き、「ガウガウ」と機嫌が良さそう。巨大なネコのような感じ。『パッ!』とお絞りなんか投げたら『ガウー』と飛びつきそう。


「君、佐藤くん、その奇病はいつから」

「一昨日以来、からです」

「ふんふん、ゴゴゴ、で、課長が馬・・・・ゴゴ、麗果は何に見えるのかな」

「女神、僕には、女神さまに見えます」

「ガオォ~!」

「まあ、恥ずかしいわ~」

「ふんふん、で、ワシは何に見えるのかな」

「はあ、社長はライオンに見えます」

「ガオォ~!」

ライオンは、再び吠えた。

「そうか、解った。なぜ君が怯えていたのか解った。そうだったのか。ガウガウ」

「そうなの~、ライオンに見えるの。道理で、私の誘い躊躇ためらっていたのね。

うふ、でも大丈夫よ。猛獣使いが居るから」

女神さまは自分の鼻を指さし、片目をつぶった。


 それから2日後、突然、海野商事の方の社長から呼び出しが掛かった。

「佐藤です」

「入りたまえ」

社長は「キュゥルゥ~」と機嫌が良さそうだ。

権藤ごんどう 海人かいと社長、人のよさそうな感じのイルカ顔だ。正に海の申し子みたいだ。

「まあ、掛けなさい」

「はい」

女神さまが、お茶を運んで来た。ウインクして退出。

「君に辞令」

佐藤 晴彦を第二営業部、課長補佐に任ずる。と、あった。

「え~!」

主任から、いきなり課長補佐。嬉しいやら、恐ろしいやら。


 この会社は、権藤派と山狩やまがり派の派閥争いがある。

権藤派は権藤社長、山狩派は山狩 業平なりひら専務。確か、馬面うまづら、井筒第二課長は、山狩派だったような、その上の部長も山狩派。「う~ん」やっかいな立場になってしまった。


 さっそく、課長補佐のポジションと共に、厄介な問題も一緒に付いてきた。

大分前からこじれていた、茨木大那珂沿岸漁業協同組合連合会の担当責任者となったのだ。

漁協の大部分の取引が海野商事だったのだが、取引がライバル会社に奪われ、シェアを落とし続けている。漁協の問題は、海野商事の喫緊きっきんの課題であった。

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