第5話 女神さま

 僕はホウホウの体で、会社に帰って来た。

会社では、どういう加減か、僕は占い師みたいなポジションになっていて、「誰々は何」「私は」「俺は」とうるさいくらいまとわりつかれた。

そんなことしてる場合じゃない。社長から伝言を頼まれたのだ。

僕は直接、秘書室を訪ねた。


「アワー!」

僕は驚愕し、大声を上げてしまった。一昨日来、初めて人間らしい人間を見たのだ。

その人は、輝くばかりの美しさだ。後光が射している。

女神さまだ。

「どうか、しましたか」

麗果はいぶかった。

僕は、知らずに両手を合わせて拝んでいた。

「あら、あなた、今評判の佐藤さんね・・・・どうかなさいました」

僕は『ハッ!』と我に返った。

「女神さま、いや富山 麗果さま、富山社長から『今夜、一緒に飯を食おう』との伝言です」

「あら、パパから」

「メールで返事を、とのことでした」

「はい、ありがとうございます」

「お美しい」

「ん・・・・何を言うのですか。そう、私は何に見えるのですか」

「女神です。麗果さまが僕には女神に見えます」

「あら・・・・」

麗果さまが微笑んだ。一段と後光が輝いた。


「富山さん」

アルパカが、女神さまを呼んだ。

「OS会食、延長なら早めに知らせてくれないと、こちらのスケジュールがあるのだから~。

困るのよね~、こちらの都合を圧縮するか、場合によってはキャンセルも有り得るし」

「すみません」

「それから~」

ねちねちとアルパカは文句をたれている。

すると、麗果さんの後ろに、黒っぽい矢印みたいなものがゆらゆらと立ち上がってきた。

麗果さんを見ると、三角帽子を二つくっつけたような物を被っている。片方は、中ほどで折れていた。

「あれっ」と思って、麗果さんの身体の前で重ねられた手。手を見ると黒い。

黒い骨ばった手から、ギギギと鋭い大きなカギ爪が立ち上がってきた。

ひょいと、麗果さんが振り向いた。血走って吊り上がった目がランと光り、吊り上がった口辺からギザギザの牙が覗いていた。

「ひぃ~!」

僕は思わず悲鳴を上げ、あとずさった。麗果さん、悪魔に変身してる。

「どうしたの?」

『ハッ!』と見ると、麗果さんは、もとの女神さまだった。


 帰り支度したくをしていると、女神さまが寄ってきた。

「ね、付き合ってくれない」

「え~」

「パパと一緒に食事しても、つまんない。ね、いいでしょう」

「う~ん」

思いもしない、僥倖ぎょうこうだ。だが、あのライオン。肉食獣の前で、おちおち食事なんかできるのか。

「さ、行きましょう」

女神さま、かなり強引。逡巡しゅんじゅんする僕を引っ張った。


「あ~あ、先を越されちゃった~。佐藤さんと話、したかったのにぃ~」

「う~ん、残念」

「いいなあ~、富山 麗果さんと~、羨ましい」

「あ~、けるわ~」

「ね、残念会しない」

「う~ん、そ~ねえ、みんなで悪口大会、どう?」

「いいかも~」

『今宵は、異様な盛り上がりになるかも』と、荒川は予感した。

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