第2話 吉皮に相談

 12時ごろ目が覚めた。外を見ると、相変わらず人間の姿は見えない。動物ばかりだ。母ブタの姿も見えない。パートか買い物にでも、行っているのだろう。

「そうだ!、吉皮よしかわに相談してみよう」

『相談したいことがある。至急会いたい』とメールをすると、しばらくして『神田古書店街の喫茶Mで3時』と簡潔明瞭な返答があった。


 大急ぎで食パンをかじり、バスと電車を乗り継ぎ、人ごみ?獣ごみをぬって喫茶店Mに着く。と、対面には眼鏡をかけた髭というのか下あごの毛というのかをしごく、オランウータンが居た。たぶん、吉皮だ。

吉皮とは大学で一緒で、彼はそのまま大学院に進み学者の道を目指している。

インテリだ。彼なら、この困難な状況を解明し指針を・・・・・と思ったのだが。

オランウータンは、コーヒーに洒落たステンレスの容器に入ったミルクをドバドバっと全部入れ、砂糖をガバガバいれ、砂糖をすくってはスプーンごと突き出した口に直接もって行きめている。

あれ・・・・・こんな奴だったかな、と疑問がわいた。何か胡散うさん臭い。

「で、何か」

ふむ、吉皮らしい簡潔な質問だ。

「実はね・・・・・」

僕は、今朝からのいきさつを余すことなく語った。

「ふむ」

オランウータンはサジをくわえながら、頬杖をついた。

「昨日、何かなかったかい」

「昨日の夜か~、そういえば頭を打ったような、昨日の記憶はない」

「たぶん、それだ」

オランウータンはナプキンを取り、長い毛むくじゃらの手でボールペンを棒をつかむように持ち、そのボールペンをベロリとめ『のう』と書いた。

「左脳と右脳、脳梁、小脳、海馬体、ここが前葉頭、新しい記憶、論理、創造、古い記憶はこの辺。

ここに目がある。その情報がこの前葉頭あたりで処理される。目、レンズだな、レンズが正常でも情報処理部分が異常だと、何も見えない。逆も同じ、情報処理部分が正常でも目、もしくは伝達部分に異常があれば、物は見えない。

問題は情報処理部分だな。情報処理部分には、補完機能が有ってな」

オランウータンはナプキンに二本の線を引いた。

「この二本の線は同じ長さだ。しかし、こうこちらに膨張線、こちらには収縮線を加えると膨張線の方が長く見えるだろ。それが補完機能。

人間の脳は経験則にのっとり、色を加えたり、大きくしたり小さくしたり、見えないものを見えるようにしたりといろいろと補完している。

脳はシナプスを介して、電気信号をやり取りしている。その回路がずれたのじゃないかな。

例えば、腫瘍とか血栓とかで・・・・・。これは、俺の単なる憶測だよ。本当のところは解からない。医者に診てもらったほうがいいよ。脳への障害は怖いからさ~」

解ったようで解らないようで、とにかく「うん」と言った。


 帰り道、『大藪おおやぶ医院』というのがあった。すごい名前だ。躊躇ためらうことなく『オオヤブ』と名乗るということは、正直な医者かもしれない。脳外科もある。

僕は、入ってみることにした。

受付には、白いウサギが居た。

「初めてでして、保険証忘れました」

「いいですよ。次回持って来て下さい。この書類に記入して下さい。症状は詳しく書いて下さいね」

次回、通院を前提に考えている。金をふんだくるつもりか。

待合室には羊が居た。迷える子羊か。乳牛も居た。チチの出が悪いのか、チチを下から揺さぶっている。山ネコみたいな奴も居る。暴れると凶暴そうなので、なるべく掛らわらない方がいいだろう。

備え置きの雑誌をしばらく見ていると、「佐藤さ~ん」と呼ばれた。

ドアを開けると、冗談のように白衣を着てメガネをかけた、イボイボの醜いガマガエルがイスにデンとうずくまって居た。それが、「ゲコゲコ」言っている。

僕はドン!とドアにぶつかり、「メエエェー」と鳴く子羊とぶつかり、「モオオォ~」と抗議する乳牛を突き飛ばし、「シャアァァ~」と威嚇する山ネコを避け大藪医院を脱出した。

ガマガエル何かに診てもらえるか~、余計悪くなりそうだ。


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