母さんはブタ

森 三治郎

第1話 朝起きたら


 階下でブタみたいな音声が「ブーブー」鳴っていた。

 僕は、何事かと下に降りた。

「ブ、ブタ!」

 衝撃的光景だ。ブタが居る。激しく驚いた。ブタが何か「ブーブー」言っていた。

「ブー、言う事に事欠いて、ブタとは何よ。親にむかって、ブヒー」

 ブタが口をきいた。ヒズメの割れたチョキみたいな、ハサミみたいな豚足を僕にむけて、激しく怒っている。親と言っている。親豚?。

 頭がおかしくなったのか、これは悪い夢だ。もう一度寝て、醒めれば・・・・・。

 僕は、階段を上がりかけた。

「会社、遅刻するでしょう。ブー」

 豚足の手で、引き留められた。醒めない夢だ。取り敢えず、会社に行かなきゃ。

 僕は大急ぎで身支度をして、家を飛び出した。後ろで母ブタが「ブーブー」喚いていた。


 家を飛び出すと、イノシシとぶつかりそうになった。イノシシが「ブヒー!」と驚く。

 僕も驚いた。家の外も動物だらけだ。どうしちゃったんだろう。歩道を歩く人間はいない。

 みんな、ネズミ、ペンギン、羊、牛などの動物や鳥やカエルなどの爬虫類もいる。

 向こうから、ガチョウが集団で「ガーガー」騒ぎながらやって来た。

 僕を認めると「ガーガー」と大騒ぎを始めた。あからさまに僕を羽さして騒いでいる。

 失礼な事、極りない。僕が「うるせー!」と威嚇するとパッと蜘蛛くもの子を散らすように逃げた。


 バス停に着き、待つ間も周りの動物たちはガーガーと騒々しい。

 ようやく、バスが着き扉が開いた。

 運転席には猿が居た。僕を見て「キキー」と歯をむき出しにした。乗客というか乗獣たちも僕との距離をとり、遠巻きに騒いでいる。

「早く出せ、エテ侯」

 僕が怒鳴ると、エテ候は「キキー」と鳴いてバスを走らせた。

 しばらく走って「猿の運転で、大丈夫なのかなあ」なんて言ってたら、突然パトカーが赤色灯を回転させバスの進路を塞いだ。誰かが通報したらしい。

 バスの外ではパトカーを降りた犬のお巡りが「ワンワン、キャンキャン」騒いでいる。

 エテ候が扉を開いた。

 外には、黒のラブラドールレトリーバーと黄色っぽい柴犬が居た。

「君、降りてください。ウワァン」と丁寧ていねいだが、ドスの効いた声が。ラブラドールだ。

 仕方なく僕は降りた。降りると、エテ候は扉を閉め走り去ってしまった。


「何事ですか」

 僕は一応、丁寧に聞いた。

「不審者の通報があったんだよ。ワン」

「不審者って僕ですか」

「ワン」

 不審はお前たちだ。母さんブタ、犬のお巡り、イノシシ、ガチョウ・・・・・。

「ヴゥワン、ところで、あなたズボンはどうされました」

「えっ、わわー!」

 何ということだ。僕は、背広にガラパン、スニーカーにカバンを持っていた。母さんがブタになって、激しく動揺してたらしい。どうりで、足あたりがスースーすると思った。

「今日は、会社で重要なプレゼンがあるのに寝坊しちゃって、急いで家を飛び出したらズボンをはき忘れちゃったみたい」

 人間が動物に見えることは、せといた。そんな事言ったら、即、病院送りだ。

 柴犬はそっぽを向いて「キャキャーン!」と吠えた。シッポを千切れるほど、激しく振っている。ラブラドールはすました顔をしてるが、太いシッポをブルンブルン激しく振っている。

「何か、ズボンをはき忘れると、法律違反ですか」

「いや、そんなことはないワン。パトカーで家まで送りましょう」


 家に着くと、パトカーに驚いた母ブタが慌ただしく出て来た。

 ブタと犬が「ブヒッ、ブヒッ」「ワン、ワン」「キャン、キャン」話している。

 とても聞く気がしないので、即、家に入った。


「晴ちゃん、どうしちゃったのよう。ブヒッ」

 犬のお巡りは帰ったらしい。

「俺、会社休むわ~」

「そ~、熱でもあるの」

 とっさによけてしまった。豚足で、額を突かれると思ったからだ。

「ま~この子は、そんなに母さんが嫌いなの、ブヒッ」

「いや、悪い。ごめんなさい。とっさに危険を感じて。条件反射だよ。母さんを嫌いなわけないじゃないか」

 僕はスマホを取り出した。

「あっ、おはようございます。僕、佐藤 晴彦です。何か風邪をひいたみたいで、熱が出て頭が割れそうに痛いんです。休ませて下さい」

 電話の向こうから、パカッ、パカッ「そうか、ヒヒヒーン」と音がした。顔が長い課長が、多分、馬に変身してるのだろう。

「母さん、課長だ。何か言ってくれ」

「ま~課長さま、晴彦がお世話になります、ブヒッ。・・・・・おはようございます。・・・・・もう、40度の高熱を出してブー、妄言を吐いて、たいへん何ざます・・・・はい、ありがとうございます」

 母ブタは、話しを盛っている。

「課長が『お大事に』って、ブヒッ」

「母さん、玉子酒作ってくれないか」

「ブヒッ!」

 玉子酒を飲んで、風邪薬を2日分ぐらい飲んで寝よう。目が覚めたら、正気に戻っていますように。

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