第2話

レコーディングがない日はふらふらと二丁目に行って、特に惚れた振ったなどはせずにおとなしく一人で飲んでいたころの話だ。


そう、いつもそんな適当なことをしていたのに、その日は違った。

「ここでいい?」

連れがいたから、"そういった"店ではなくて、普通の居酒屋に入った。

ある程度饒舌になった時間帯に連れのギターSYUNが仲が良いと呼んで現れたアイツは、昔の俺の恋人だった。


―――何でここにいるんだ?

「夢、どうした?」

「いや、酔っただけ」

知らんぷりしていたが、内心嫌で嫌でたまらなかった。

気まずそうにする俺とは違って、アイツはニコニコとしていた。


そう、今日も、だ。

気まずそうにする俺とは違って、アイツはニコニコとしていた。

楽屋でのあいさつも、歌前の登壇でも。

話しかけてきたりはしない。

でも、隣にいる。


俺たちのグループの隣に座った新人大型グループの中の一人。

染めたことがないくらいにさらさらと綺麗な黒髪の男。

覚えている。忘れるわけがない。ずっと。


”新人”大型グループといっても、もうすでに各々が有名人で知らない人はいない。

グループのメンバーの中には、俳優として成功している者、モデルとして成功している者、

インフルエンサーとして成功している者、動画配信サービスで成功している者…。

いわゆる、この業界の寄せ集めでできたグループだ。


各所で成功した人材を寄せ集めて、歌って踊ってアイドルを作ったってわけだ。

歌も古くから有名な作曲家と作詞家、絶対に売れないわけがないマネジメント。

曲が出る前から話題でここ1年はずっとこのグループでにぎわっている。


「〇月×日にデビューしました。今日はどうぞよろしくお願いいたします」

「アイドル…」


持ち上げる頭からなびく髪がさらさらと鮮やかで、

なんとも、潔く丁寧に爽やかだった。

”透明感”その言葉が似あうくらいに色が白くすらりとした肢体。


「次、お願いしまーす」

「あ、はーい」


スパンコールを上品にあしらった白のスーツ。

動くたびにきらきらと揺れる光。


イントロが始まればがらりと変わる視線。

長い指先に触れてほしいと願う会場の女性もいるだろう。


動きも、曲も、すべて爽やかだった。

彼、そのものを表しているようだった。



ごてつく格好をした黒い衣装の自分を、恥ずかしく感じた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

夢や恋だけじゃヤダ。 暖鬼暖 @masaonmasamasa

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る