第8話

「私が抜け出したの、バレないかな?」


「大丈夫だよ。おいで」


 魔法研究所へ転移したリッシュとキュローは、作戦を立てるために話し合うことにした。



「……ラスタは、お母様も殺してしまうのかしら? 叔父様も……領民たちも……サラサも」


「それを防ぐために、師匠から」


「やっだー! あなたがリッシュちゃん!? 会いたかったー!」


「キュローのお師匠様……?背が大変お高いんですね?」


「よく言われるー! で、防衛魔法展開するの?」


「……ラスタは、本気を出したら世界を滅ぼすことができると思うから、それくらい備えておいた方がいいと思うんです」


「なるほどねー。リッシュちゃんの心配の先は、領民たちと家族でオッケー?」


「……あとは、ウェズケットの国王陛下たちも何か関わりがあるような気がします」


「国王陛下と? なんでそう思うんだ?」


「……国王陛下の話をすると、ラスタの様子が変わるから。流石に考えすぎだと思うけど、最近国王陛下の周りで起こっている不審死の話をした時、ラスタは私に聞かせないように必死だった気がする」


「……ウェズケットを調べてみるか」


「あー……ウェズケットね。魔法使いにはなかなか厳しいし、潜入も難しいけど……」


「大丈夫。こないだ行った時の伝手があるから」


 笑みを浮かべるキュローに、師匠は呆れ返る。


「あんた、またファンクラブ作ってきたの? いつか刺されるよ……リッシュちゃんを危ない目に合わせたら許さないよ?」


「僕が作ったんじゃなくて、僕はいいよって言っただけだよ。リッシュのいるウェズケットの情報は、少しでも多い方がいいからね」





ー翌日



「思ったよりやばい国だった。リッシュ。お父上の書斎はそのまま残してあるか? もしかしたら、そこにこの国の秘密が残っているかもしれない」


「お父様の……?」




 ラスタにバレないように、二人は王都にあるエスタリア邸に向かうのだった。


「あ、ついでにエスタリア領にあるリッシュの家にも防衛魔法の装置置いて行こう。メインはそちらにして、サブ装置をエスタリア邸に置かせてもらおう」


 キュローが荷物を手早くまとめると、リッシュと一緒に転移した。エスタリア邸への訪問はリッシュが必要だったが、エスタリア領にリッシュを近づけたがらないキュローと、自分のことだからと譲らなかったリッシュの戦いは、リッシュに軍牌が上がった結果だ。









「リッシュ!!!!」


「お母様。ご無事でよかったです」


「リッシュ!!! 帰ってこないから心配したのよ! 領民たちにも捜索を依頼して、イカルドにも連絡しちゃったじゃない! すぐに取り消すわ!」


「いえ、それはお待ちください」


「貴方は?」


「はじめまして。魔法使いのキュロー・フェアルートリスと申します」


「私の命の恩人で、お父様の仇を討ってくれる仲間なの」


「……ルカルドの? リッシュ。ルカルドの願いよ。貴方を危険な目に合わせず、守ってくれって」


「どういうこと?」


「ルカルドは、殺される可能性があることをわかっていたのよ」


「……ラスタに?」


「ラスタ!? ラスタに殺されたっていうの? 大男のルカルドが? ラスタはあの時5歳よ」



 信じられないという顔をしたヴィーに、リッシュとキュローは、証拠を見せた。



「これは……あの人があの日着ていた服だわ……。愛用の刀も。でも、とてもじゃないけどラスタでは……あの人が殺された時にラスタもその場にいたことはわかるけど……ラスタはきっと王族よ。彼が何度も暗殺されかけているのは、それが理由だ思うわ。だから、リッシュにもラスタに近づいてほしくなかったの。あの人が殺された理由もおそらく王家に関係があるから……ただ、詳しいことは知らないわ。絶対にあの人は話さなかったし、私もリッシュを守るために知ろうとしなかったから」


「おそらく、この国の根幹を脅かすような秘密を使っています。ルカルド様が殺された理由となった秘密です」


「私とキュローでそれを調べてくるの」


「お願い、リッシュ。危ないことはやめて。あの人の遺言でもあるし、私の願いでもあるわ」


「……お母様。このままだと私たちは、ラスタに殺されるか、私がラスタの前で死ぬかしかラスタから解放される方法はないの。でも、キュローは最高の魔法使いよ」


「リッシュと母君にこちらを贈ろう」


「これは……?」


「魔法使いの使う、頭飾りです」


「でも、私たちもウェズケットの国民だわ。魔法の使えない」


「リッシュだけでなく、母君からも魔力を感じますよ。それに、この国では魔法が使えないわけじゃない」


 そう言って、キュローはリッシュの家に防衛魔法を展開する。


「領民を守る必要があるとき、母君も魔力を使おうとしてみてください。膜を張るようなイメージで使うといいですよ。あとはこちら」


 キュローの差し出したものは、金色に輝く飴だった。


「飴……?」


「回復薬です。魔力が枯渇してもすぐに動けるようになります。一度だけですが、逃げる時に使ってください」


「……あなたたちの決意は固いのね。わかった。私もエスタリアの前領主の妻。領民を守ります」




 リッシュとキュローはそう言って、王都のエスタリア邸へと転移した。

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