第9話

「リッシュ!? 無事だったのか! よかった。あのクソガキが原因か?」


「叔父様! クソガキ? ラスタのこと? 叔父様はラスタが怪しいと思っていたの?」


「あのガキ、人を殺すことをなんとも思ってなさそうな目をしてる。それに、ルカルドも警戒していたはずだ。だから、お前と引き離そうとしていた。その矢先にルカルドが死んだから、疑ってはいた。直感だけで、確証を得ようとしても何も掴めなかったがな」


 俺は、お前の父親のルカルドほど賢くないから、と、イカルドはぶっきらぼうに言い放つ。


「叔父様……」


「それに、お前を見るあの目は異常だった。お前もあのガキに依存してたから、言えなかったけどな。その魔法使いのおかげで気付いたのか?」


「ううん。ラスタが私を監禁したの。それをキュローは助けてくれたのよ」


「キュロー様。姪御のことを助けてくださり、ありがとうございます。兄の大切な忘形見なんです」


 大きな身体を押し曲げて、イカルドはキュローへ精一杯の礼をする。


「あのクソガキ、いつもいつもリッシュについてきやがって。こんな遠くまでついてくる必要なんてないだろ。そもそも、エスタリア領にもついて行ったのは想定外だったし……それに叔父さん叔父さんうるさいけど、俺はリッシュの叔父であって、お前の叔父じゃないんだ」


 ぶつぶつと文句を言うイカルドに、リッシュは問いかける。


「え、いつもこんな遠くまできやがってとか、叔父ってお前に呼ばれる筋合いはないって私に言っていたんじゃなかったの?」


「そんなわけあるか! あのガキに言ってたんだ。ここはお前のもう一つの家だ。それに、俺はお前の叔父だ」


「……ラスタが。叔父様はお父様のことが疎ましかったのと同様に、リッシュのことも……って……」


「あのクソガキ!!! ぶん殴ってやる!」


「落ち着いてください。今のままでは、リッシュの父君のようにやり返されてしまう。リッシュが言うには、彼は世界を崩壊させる力を持っているって……」


「そうなのか?」


「うん。ラスタが開発していたものの中には、それくらいの威力がある武器もあった気がする。前に何に使うの?って聞いたら、国に卸すんだよって言っていたけど……」


「そもそも、彼自身に不思議な力を感じる……って師匠が言っていたよ」


「それをルカルドは知ってしまったから殺されたのか」


「そうだ! 叔父様! 私のことなんだけど」


「監禁されてたって言ってたのに、まだラスタが何もしてこないってことは、その魔法使い様……いや、キュロー様がなんかして助けてくれたってことだろ? 慌てた様子で捜索しておくよ! 任せとけ!」




 イカルドと言葉を交わしたリッシュとキュローは、ルカルドの書斎へと向かう。



「お父様は、いったい何を知ってしまったのかしら……」







 ルカルドの書斎についた二人は、あちこち引き出しを探るが、何も出てこない。そんな中、何かを突然思い出したかのように、リッシュが机の下に潜り込む。


「この金庫……お母様にも内緒で私だけが知ってるって言ってた記憶が……何か……」


「大丈夫? リッシュ。無理しないで」


「確か。合言葉を入力するの。愛しい娘、愛しい妻。必ず守るって言ってたけど……数字よね?」


「……魔法を唱える時、発音の表記に数字を使うんだ。それを数字にすると……開いた」




「これ! お父様の日記だわ!……“とんでもないものを見てしまった。俺は消されるかもしれない。王宮の地下に隠されていたなんて。この国の創立は、悲惨なものだったんだろう”」


「王宮の地下……?」


「僕の魔法ならそこまで侵入はできると思うけど、リッシュお願いだから残っていてくれないか?」


「足手纏いにならないように、魔法を覚えるから、お願い。私も連れて行って。何も知らずに大切な人を失うのは、もう嫌なの」


「……わかった。じゃあ、1日でリッシュが転移魔法を使えるようになったら、ね。危ないと思った時。魔法研究所まで無事に転移してくれ」



 キュローの言う、魔法研究所までの転移は、魔法上級者にならないと習得できない魔法だ。そもそも、王都からエスタリア領への転移ですら習得に最短で3日はかかるだろう。




「……わかった。転移ってどうやるの?」



 リッシュが天才だったのか、キュローの教え方がよかったのか……もしくは、その両方であろう。リッシュは魔法研究所への往復もできるようになり、さらに攻撃魔法の習得も済んだのだった。



「ねぇ、キュロー。この魔法って、ここを省略した方が効率的じゃない?」


「それは僕も検討したことがあるが、ここを省略すると、」

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