第6話

「断食の儀の季節だね」


「リッシュはそういうこと、好きだよね」


「ラスタはやっぱり今年もやらないの?」


「うん。非効率的で無駄だから。元々、冬の前に食糧消費量を減らすために、行っていたんでしょ? 今、僕が開発したシステム使ってるから、冬場に食料が枯渇することなんてなくない?」


「うーん、そうなんだけど……その時自然に合わせた行動をしてみたいというか……」


「リッシュがやる分には自由だよ? ただ、僕のリッシュが地上から少しでも減ってしまうと思うと悲しいけど」


「ラスタはいつも大袈裟だよね」




 冬に入る前、エスタリア領では断食祭を行う。断食といっても、絶飲食ではなく、ある程度の食事量を減らす行動だ。



「これが終わったら、リッシュもしばらく家に籠るの?」


「どうしようかな? 今年は魔法使い様とお手紙のやり取りもできるし、籠もろうかな?」



「ふーん……」




「じゃあ、また今度ね! 私、魔法使い様にお返事書いちゃうから!」



 るんるんと走って行くリッシュの後ろ姿をラスタは見つめていた。その後ろからサラサが見つめていることに気づかずに。







「最近はどう? 困っていることはない? また、リッシュと二人でいろいろ話したいな。ウェズケットへの入国は難しいけど、また行こうかな?」


「私もキュローに早く会いたいな。私が出国する方が難しいもんね。また、ウェズケットにきてくれるのを心待ちにしているね」



 リッシュとキュローは手紙を交換し続けていた。キュローに贈られたアクセサリーをリッシュは肌身離さずつけていたのだ。



「……リッシュのブレスレット、位置情報共有効果が薄まっている気がするんだけど……一度メンテナンスするか」


 リッシュが独力では離せない、ラスタから贈られたブレスレット。その位置情報を妨害する効果のあるキュローの指輪。

 ラスタがリッシュのブレスレットに違和感を覚えたのは、その頃だった。









「ねぇ、久しぶりだね。リッシュ。ブレスレットを見せて?」


 リッシュの手を強引に奪い取り、ブレスレットを触ろうとしたラスタは、リッシュの手に違和感を覚えた。



「……リッシュ。見えない何かをつけてる? ……あの魔法使い?」



 ラスタは、するりとリッシュの指からキュローの贈った指輪を抜き取る。


「やめて! 返して!」


「ふーん……そんな魔法使いの指輪が大切なの? これ外したら、ブレスレットの発信する位置情報正確になったし、あいつが僕らの仲を邪魔したんだね?」


「いた、やめて! 返してってば!」


「そんな悪いリッシュには、少し反省してもらおうかな?」



 痛がるリッシュを無視して、ラスタはリッシュの腕を引き、自分の屋敷に連れ帰ったのだった。





「反省室だよ? 暗いのが苦手なリッシュには、地下は辛いかもしれないけど……僕の心はもっと辛いんだからね?」



 真っ暗な地下室にリッシュを閉じ込めたのだった。



「……ひっ! なにこれ!?」



「あ、ごめんごめん。リッシュのお父上を殺した時に使った道具、そこに隠してたんだった。犯人はイカルドって噂を流したけど……。僕の情報を信じないで、イカルドを逮捕しないなんて……警察は無能だよね」


「ラスタがお父様を……? なんで! どうしてよ!」


「うーん。僕をリッシュから引き離そうとしたからかな? いろいろ調べてて……あの人にとっても邪魔だったしね。リッシュは少し悲しむかもしれないけど、僕と一緒にいられないことの方が悲しいんだから、いいよね? かわいいリッシュ。僕の下から逃げ出そうとしたら、許さないよ?」


「そんな……」

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