第5話

「リッシュ。どうかしたの?」


「いえ……ううん、なんでもないよ? キュローは今日は忙しかった? あのね、前に話してた幼馴染に会わせてあげたいと思ったんだけど、断られちゃって……」


 自分ではなぜか取れないブレスレットを触りながら、リッシュは支離滅裂に話を続ける。


「リッシュ? 本当に大丈夫? そのブレスレット……嫌なの?」


「嫌じゃない、嫌じゃないとずっと思っていたんだけど、キュローと話していると、嫌だったのかもしれないと思い始めて……」


「何があったの?」


 リッシュはラスタの話を誰か伏せてキュローに話した。


「……リッシュ。君が身を守れるように、この指輪を贈るよ」


「これは何?」


「今、魔力を込めて作ったの。本当はこの国では魔法を使っちゃいけないから内緒だよ? リッシュ以外には見えないようにしてあるからね。外したくなったら外して。ただ、そのブレスレットの効果を薄めたりできるようにしてある。リッシュの気持ちに反応してね? リッシュが嫌だと思うことから身を護る魔法をかけてあるよ」


「……ありがとう」


「気持ち悪かったら捨ててね? あと、僕とお揃いのピアス。これなら耳元だから隠れるし、いざってときは助けに行けるようにしてあるから。たくさんアクセサリーつけてたら、そのブレスレットをつけていても、気が紛れるかな?と思って」


「……ありがとう」


「実はそろそろ国にいられないんだ。魔法のないこの国に入れたことも奇跡だしね。そのイヤリングの魔法ならいつでもリッシュを守りに行けるから……。あと、僕は届く魔法のペンだよ。手紙書いてよ。僕も書くから」


「キュローに会えなくなるなんて……」


「大丈夫だよ。リッシュが強く願えばいつでも来るから。実は僕、最強の魔法使いだから、国境も手続きせずに入れるんだ。本気出せばね?」


 笑いながら話すキュローに、リッシュは励まされる。


「ありがとう。絶対絶対手紙書くからね。キュローも忙しくてもお返事ちょうだいね?」


「もちろん。リッシュとの話が楽しすぎて、毎日の楽しみだったよ……リッシュ。この国の根幹は危険な気がするから、出来る限り近づかないで」


「……根幹? 王族とか? そんな知り合い、いないから安心して!」








ーーーー

「ねぇ。僕のリッシュ。リッシュは僕と離れたら寂しいから、何よりも嫌なんだよね?」


「う、うん」


 小さな頃、リッシュがそう言って泣いた話をラスタは繰り返す。まるで洗脳みたい、とリッシュは思ってしまった。


「リッシュのために、僕、頑張るよ」


「……何を?」


「まぁ見てて。きっと驚くし、喜ぶよ」




 リッシュとラスタがそんな会話をしている。ここは、エスタリア領の子供達がよく遊んでいる場所だ。

 今日はまだサラサは来ていないため、リッシュとラスタは二人で話をしている。






「ねぇ、ラスタ! あ、リッシュも! 聞いて、王様の周囲で不審な死が続いているんだって!……そういえば最近、ラスタに暗殺者、来てないね? 諦めたのかな?」


 不安な単語を放ちながら、サラサが二人に駆け寄ってきた。


「王様の周囲で不審な死…?」


 不穏なワードに首を傾げるリッシュに対し、ラスタは会話を変えようとする。



「そんなことより、リッシュはあの魔法使いともう会わないよね?」


「あの魔法使い!? 男!? 王都で何があったの!?」


 サラサが興味津々に会話に混ざってくる。




「手紙のやり取りはしてるよ! 魔法使い様はとっても優しくて素敵な方なんだ」



 嬉しそうに話すリッシュと、悔しそうに話を聞くラスタの姿を交互に見て、サラサはリッシュに駆け寄った。


「え! リッシュが恋に落ちたの!? 詳しく聞かせてー!」




 リッシュとサラサが盛り上がる中、暗い目をしたラスタは足元の蟻を潰し続けていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る