第4話

「とってもお似合いです! リッシュお嬢様!」


 超特急で仕立ててもらった服を着て、国王陛下を迎える準備をしている。リッシュの姿にウェスティは大絶賛だ。


「とてもかわいいわ。リッシュ。イカルドもそう思うわよね?」


「あ、あぁ。似合うと思う。輝く宝石と言われたヴィー義姉さんの美しさを引き継いでいるな……ルカルド兄さんと並ぶと美女と野獣だったからな」


「懐かしいわね……」



 みんなでルカルドの話を思い出していると、国王陛下の到着が知らされる。




「久しいな、イカルド。ルカルドに会わせてもらおう」


「こちらです、陛下……そちらのお方は?」


「世界一と名高い魔法使いだ。今この国に研究のためにきていただいている。魔法が使えないこの国の技術を見てもらい、世界に広めてもらおうと思ってな」



 どってりしたおじさんである、国王陛下の後ろから顔を覗かせた魔法使いは、リッシュが昨日買い物に行ったときに意気投合した魔法使いだ。


「あ、魔法使い様」


「エスタリアのお嬢様。またお会いしましたね」


「ん? リッシュ? 知り合いなのか?」


 訝しげにリッシュとキュローの間に立つイカルドは、リッシュに問いかける。そんなイカルドに、ウェスティがそっと耳打ちする。


「そうか……魔法使い様。昨日は姪が迷惑をかけたようで、申し訳ございません」


 最上級の礼をするイカルドの姿に驚きつつも、リッシュも共に頭を下げる。


「はっはっは。イカルドはなかなか頭を下げんが、可愛い姪のためなら頭を下げる、か。いいことを学んだ」


 国王陛下が笑いながら、頭を掻く。薄くなった毛髪は黒髪だ。黒髪はこの国では珍しくない。むしろ、リッシュやヴィーのような輝く金髪、キュローのようなオーロラのように輝く7色の白髪の方が珍しい。



「いえいえ、またお会いできて嬉しいです。あとで姪御様とお話しさせていただいてもよろしいでしょうか?」



「魔法使い殿は、エスタリアの娘を気に入られたか? はっはっは。面白いのぅ」


「リッシュ……断りたかったら断るぞ?」


 誰にも聞こえないように小声でイカルドがリッシュに問いかける。そんなイカルドに微笑みを返し、リッシュは答えるのだった。


「ぜひ、農業についてお話しいたしましょう。魔法使い様」


「ふぁっふぁっ。魔法使い殿は、エスタリアの娘に振られのかのぅ。まぁ、農地開発について議論してもらうのは、国としても大変ありがたい」




 そう言いながら、国王陛下はルカルドの遺影の前に立ち、哀悼の意を示したのだった。










「本当にリッシュ様はお詳しいですね」


「いえ、キュロー様の方がお詳しいです。ただ、魔法が使えるお方が農業なんてされるんですね?」


「土は全ての祖ですから、学ばせてもらうことが多いですよ」


「私も魔法が使えたらなぁ……まぁ、ウェズケットに生まれた時点で難しい願いですよね」


「……もしかしたら、リッシュ様だったら魔法が使える素質はあるかもしれませんよ。誰にも内緒にしてくださるなら、お調べしますよ?」


「いいんですか!?」



 そう答えたリッシュの手をそっと取り、魔力を探るように手を擦る。

 異性との触れ合いなんてしてこなかったリッシュは真っ赤になってしまった。


「リッシュ様も、私と同じ全属性の魔法が使えそうな気がしますね。7色の魔力があると思いますよ……ちなみに、魔法の使える国では、同じ属性数の人間が運命の相手と言われるんですよ」


 淡々とそう告げるキュローの言葉に、リッシュの顔はさらに真っ赤に染まる。


「た、たくさんいらっしゃるのですね、運命の人が」


「7色の属性は少ないですが、他の属性は確かに多いですね。まぁ運命の相手はその中の一人ということでしょうか? 7色だと私の師匠もそうですし」


「お師匠様……男性ですか?」


「いや、師匠は女性ですよ。僕の15歳上かな?」


「15歳上……キュロー様はおいくつなんですか?」


「僕ですか? 僕は17歳です。ただ、僕の年齢言ったら師匠の年齢も話したことになっちゃうんで、内緒ですよ?」


 ニコリと小首を傾げながら愛らしく微笑むキュローに、リッシュは思わず爆笑した。


「ふふ、必ず内緒にしますね」


「ありがとうございます」


「私は15歳ですし、世界最強の魔法使い様なのですから、私への敬語は不要ですよ?」


「じゃあ、リッシュも敬語はなしね?」


「え?……わかった。二人きりの時だけだよ?」











ーーーー

「魔法使い様がね、すっごく美しい顔をしていらっしゃるんだけどね」


「……ふーん。僕よりも?」


「どうなんだろう? 人によるかな? 好み次第だ思うよ」


「リッシュはどう思うの?」


 ラスタの闇を感じさせる笑顔にリッシュは、言葉を選ぶ。


「うーん。ラスタの方が美人というか可愛い感じするよね!」


「……まぁいいか。で、そいつは? もう会わないよね?」


「え? 王都にいる間はたまに会うことになってるよ? 技術開発に興味がありそうだったから、ラスタも会う? 魔法使い様も喜ばれるよ!」


「……いい。でも、リッシュのこと見張りたいから、手を出して」


「こう?」


 リッシュが差し出した手にブレスレットをはめる。


「なにこれ?」


「リッシュがどこに行ってもわかるの。会話を聞く機能まで搭載できなかったけど、今開発してるから新しいのできたらつけてね?」


「え?……う、うん。わかった」

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