第13星家当主に嫁入りしました、期限付きで。

鈴木しぐれ

プロローグ

「汝、テオドールは、フェリシアを妻とし、共に歩むことを誓いますか」

「はい。誓います」


 目の前に立つ男性は、微笑みながらそう口にした。よくもまあ、出会ったばかりの人に対して誓えるものだと思ったが、誓いの文言が『愛することを』ではなく、『共に歩むことを』なのは少しほっとした。


 彼とは愛し合うために結婚するのではない。お互いの目的のため、条件を呑んだから。それならば、共に歩む、という誓いには反しはしないだろう。


「汝、フェリシアは、テオドールを夫とし、共に歩むことを誓いますか」


 神官は、フェリシアに対して、同じことを問いかけた。フェリシアは、これから夫になる男性、テオドールを見上げた。穏やかな笑みのテオドールに対して、フェリシアは凛とした表情を崩さない。


「はい。誓います」


 誓いの言葉の後は、誓いの口付け。


 この国での誓いの口付けは、二人は互いの手を取り、相手の手の甲に口付けをする。背が高いテオドールは、フェリシアが口付けをしやすいように、中腰になってくれた。背伸びをしようとしていたフェリシアは、何だか肩透かしのような気持ちになった。

 互いの左手の甲に口付けが落とされる。


「これからよろしくね、フェリシア」

「はい。よろしくお願いいたします。オフィーユ卿」

「夫婦になるのだから、君もフェリシア・オフィーユになる。俺のことはテオと呼んで」

「……承知しました、旦那様」

「うーん、頑なだね」


誓いの口付けを経て、左手の甲にある紋章が淡い光を放っている。第十三星家オフィーユ家の証である、蛇遣い座の紋章が。

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