06. 八ツ橋美月(観音大学 大学院 修士課程1年)
機材の片付けを終えて、お手洗いをすませて、
眠っているわけではなさそうだった。苦しみをこらえているように見えた。
「大丈夫ですか?」
顔をバッと上げた女の子の表情には、不安と恐れが入り交じっていた。
小さな
「誰か呼んできますね!」
と、言ってみたはいいものの、保健センターのような施設の場所は分からないし、夏期休暇中に開室しているのかも疑わしい。
「待って下さい!」
「大丈夫ですから……少し休めばおさまるので」
「でも……」
「ほんとうに、大丈夫です。ですから、気にしないでください……」
消え入るような声。だけど、放っておくことなんてできない。このまま体調が悪化したら手遅れになるかもしれないから。周りにひとの姿は見えないし。
ぼくは、彼女から少し離れたところに腰を下ろした。
彼女はリュックサックを抱えこんだまま、ぼくの視線から逃れるようにそこに顔をうずめていた。
窓から夕陽が差して、彼女の腰までありそうな長い黒髪をきらきらと輝かせている。
* * *
その髪はあえて切っていないというより、切るタイミングを失ったのだと、彼女は言った。
ぼくは、会話のネタに困ったあまり、言ってはならないことを言ってしまった。初対面の相手に、容姿のことに言及するのは、よくないだろう。
急いで「ごめんなさい」と謝ると、「お気になさらず」と彼女は笑って済ませてくれた。
彼女は、ボアティング先生の講義を聴くために
むかしから、こうしたイレギュラーな事態が起こると、パニックになってしまうとのことだ。
そんなときは
それならばと、ボアティング先生のはからいで、彼女もぼくと一緒に、最寄り駅まで車で送ってもらえることになった。そしてなんと、その最寄り駅は、ぼくと同じだったのだ。ようするに、ぼくたちは、そう遠くないところに住んでいるということだ。
そして、彼女が
「ほんとうにごめんなさい。家まで送ってもらっちゃって」
「これまでの経緯を説明しないといけないでしょうし、今日はとくに予定もないので」
「ひとり暮らしなんですよね?」
「そうですね。こっちに来てからずっと」
「夜ごはん、まだですよね。よかったら、うちで食べていきませんか……?」
「そんなわけにはいかないですよ。いきなり、ぼくの分を作ってもらうなんて申し訳ないですし」
「だったら、もしわたしの家族が了承してくれれば大丈夫……ということでいいですか?」
一食でも食費をうかすことができるのならば
だれもいない夜の公園のフェンスの方に身体を向けて、家族に電話をかけている彼女の後ろ姿を見ていると、申し訳ない気持ちが、ますます
「喜んでとのことなので、もし
(2024/12/06 加筆修正)
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