第12話 生存する為の装備
僕とミレーヌとシグレさんが最初に向かうのは野外活動用品店。
キャンプ道具を取り扱う店と思えばいいのだろう。
「初心者が陥りやすいのは武具に金をかけすぎて準備を怠る事だ。確かに武具は重要だが冒険の殆どは歩き食べる事にある。これを疎かにしてはいざというときに実力を発揮できない」
そう言ってまず僕とミレーヌに野外活動道具を背負うのに手頃なリュックを見繕ってくれる。
今回は森を抜けるし砂漠はかなり先に行かないと無いので網がついた緑色のリュックだった。
「この網はなんですか?」
「木の葉を取り付ける為のものだ。ゴブリンや狼は体温や匂いで我々を判別するからあまり効果はないが、敵はモンスターばかりではないからな」
なるほど用心に越した事はないって事ですね。
敵は山賊とか人間も含みますし。
「それとこれが付いているかで生存率が劇的に変わる」
そう言って着脱式の魔法具。
一瞬でリュックが背中から外れる魔法具だ。
「リュックを背負って戦闘は出来ないだろう?戦闘時は邪魔だからリュックは離せるようにしたほうがいい」
確かにリュックを背負って戦闘は難しいだろう。
重いだけじゃなく手足の動きを阻害される。
これはシグレさんに教わるまで気が付かなかった。
「テントは一人が代表して持つが軽いに越した事は無い」
そう言って取り出したのは簡易テントセット。
強風時にも耐えられるのに軽いという夢の装備だったりする。
前世の軍隊なら即採用レベルの強靭な作りでしかも手軽に組み立てられる折り畳み式。
上手く梱包すれば2ℓペットボトルに収まる大きさになる。
床に敷き被る毛皮。
外側は羊毛で濡れに強く、内部は毛皮が裏打ちされていて地面と上からの冷気から身体を守ってくれる。
前世だとシュラフという便利なものがあるが敵襲に備えて毛布はすぐ動ける一枚ものが良い。
食事キット。
ナイフとスプーンと飯盒がある。
また水筒も重要だ。
適切な水分補給がすぐ出来るように取り出しやすいものを勧められる。
折りたためる防水加工の革袋。
これは水の補給が困難な時用に水を貯めておくもの。
持ち運びも出来るように折りたためるようになっている。
食料。
燻製したソーセージなど油の多い物や塩辛い干し肉。
あと砂糖漬けの果物。
塩では無く砂糖も保存に仕えるらしい。
塩と油と砂糖は短時間で補給できる高カロリーで糖分が高いから行軍には必須だ。。
手斧、ナイフ、鉈。
あると便利。
薪を割ったり草を掃ったり地面に穴を掘るのにも使える。
消毒すれば簡易手術も出来るし最後の武器にもなる。
医薬品。
乾燥した薬草や消毒薬や解熱剤などのセット。
トイレ用品。
自然に戻るトイレットペーパー。
匂いの遮断もしてくれるので敵に気づかれにくい。
「まあこんなものだろう」
「随分とあるんですね」
「ト、トイレは……その」
トイレ用品でミレーヌが口ごもる。
……まあそうだろうね。
男は簡単だけど女の子にはきつい。
「心配するなすぐ慣れる」
「……はい」
そう言って笑うシグレさんと顔を伏せて恥ずかしがるミレーヌ。
女性冒険者が少ない理由の一つだろう。
「それではメインの武器と防具だな」
そういってシグレさんと一緒に来たのはシグレさんの馴染みである武具屋さん。
鍛冶屋と併設らしく金槌の音が響いてくる。
煙突からはもうもうと煙が出ていて石炭や薪を燃やしてるようだ。
「いらっしゃいませ~ガルム武具店へようこそ」
そう言って赤毛で頬にそばかすが付いた、エプロンをつけた小さな人間の女の子が店先で挨拶してくる。
女の子はまだ発育途上で色気は無いが元気そうな可愛い子だ。
将来は美人になると思う。
武具屋と言えばドワーフなので、てっきりドワーフの店員だと思った。
「やあレティシア。今日はこの子達用の武具を見繕って貰いたい」
「わかりました。どうぞどうぞ中に入ってください」
そう言ってレティシアちゃんに案内されて店内に入る。
金属鎧はオリーブ油で磨かれていてピカピカだし皮鎧も質がよさそうだ。
剣や斧も新品から中古品までそろっているが全て修復済みで刃こぼれ一つない。
店内の掃除も行き届いているので床には埃一つ無かった。
僕達は土の上を歩いてきたので入店するのは申し訳ないと思うくらい清潔な店だった。
「僕はユキナ。主に剣を使うけど斧やナイフも使えるよ」
「ボクはミレーヌ。ボクはエストックやショートソードね♪」
僕とミレーヌが自己紹介するとレティシアもにぱって口を開け歯を見せて笑顔になる。
うん、とても可愛い。
「レティシアですっ。この店で働いています」
レティシアちゃんが笑顔になってまず鎧のコーナーに僕達を案内する。
武器が先だと思った。
「冒険者の格言で持っているお金の中で買える最高の鎧をっていうのがあるんです。ですから当店では先に防具をおススメします」
そう言ってずらりと並んだ防具を見せてくれる。
どれも綺麗に手入れされてあって見た目もカッコいい。
値段を見ると結構な値段がするものと安いのに分かれていた。
「僕はプレートメイルが欲しいんだけど」
「わかりました。ご予算に余裕があれば魔法付与された品がおススメです」
そう言って魔法付与された防具のコーナーに案内される。
魔法付与された防具は軽くて丈夫である程度の魔法防御力がある。
でも高い。
僕がこの間貰った報酬で買えるのはブレストプレートメイルが限度だろう。
ブレストプレートメイルは下にチェインメイルという鎖帷子を着て胸と腹を鉄板の鎧で防御するもの。
比較的軽くて人気があるが手足の防御に不安がある。
更に防御力があるプレートメイルは全身を鉄製の鎧で覆い、下にチェインメイルを着て着用し剣はほぼ防げる。
下がチェインメイルなので剣は容易く防げるが槍に可動部を狙われると弱い。
プレートアーマーは全身鎧と呼ばれるもので可動部も金属で覆われているので槍にも強いが重いし自由が利かない。
プレートメイルとプレートアーマーの違いは下にチェインメイルを着ているかだけで思想的にはほぼ同じ。
勿論プレートアーマーが理想的だが兎に角重いので、僕が着用したら歩くのも辛いだろう。
対してブレストプレートは主に上半身を覆うもので歩いて着用するにはぴったりの品だ。
「ユキナ。君はまだ体力がないから可能な限り軽くて丈夫なブレストプレートメイルがいいと思う」
シグレさんの助言は正しくてまだ旅慣れていなく成長期の僕にはプレートメイルは重すぎる。
その点チェインメイルは鉄の鎖で作られているから軽いしブレストプレートメイルも上から付けるので胸や腹に対する防御も高い。
でも防御力を考えると悩むなあ。
「これなど良いのではないか?」
そう言ってシグレさんが指さしたのは銀色のかなり高いブレストプレートメイルでちょっと手が出ない。
「防具は自分の命と同じだからな。良い物を買わないとあっさり死ぬぞ」
それはわかるけどお金がね。
シグレさんみたいにお金がある人なら悩まないのだけど。
「その様子なら金が足りないようだな。今回の依頼から差し引きでよければ私が貸そうか?」
「でもそれは申し訳ないですし」
「4人で生き残れば夜の見張りも楽だし荷物も軽く済む。つまり私たち全員が生き残る可能性が高くなる。これは私の為でもあるから遠慮するな」
なるほど。
4人なら見張りの時間も4等分だけど3人になると一気にきつくなる。
そう言われれば納得するのでありがたくお借りする事にした。
「それではこちらは如何でしょう。軽くて丈夫で魔法抵抗も高い逸品ですよ」
そう言ってレティシアちゃんが勧めてくれたのは宝石みたいな青と銀色をしたブレストプレートメイルだ。
値段は通常のブレストプレートメイルの4倍だがこれならかなり安心だと思う。
「それではこれを下さい。あと盾も」
「かしこまりました。後で採寸をしてお渡ししますね」
「盾も小さいほうが扱いやすいな。これなどどうだ?」
そう言われて見るとシグレさんがおススメしてくれたのは丸い形をした鉄製のラウンドシールド。
これもお高いが折角だからこれにしよう。
その後ヘルメットも買う事になり初心者としてはかなり贅沢な装備になってしまった。
同じようにミレーヌもシグレさんに勧められた防具を買う事になる。
僕とミレーヌは早速借金をしてしまった。
「武器は剣でもロングソードとショートソードの二本買っておいた方がいい。切れ味より頑丈なのを勧める。魔法付与の品なら魔法以外で傷つかないモンスターにも有効だ。何より軽い。体力が付いていないユキナとミレーヌにはぴったりだと思うが」
「僕はロングソードだけでいいと思うのですけど」
「洞窟内で振るうには小さいほうがいいぞ。剣が壁につかえて振るえないのでは論外だからな。最悪先ほど買った手斧で代用する事になるがそれは嫌だろう?」
確かにあくまで生活の実用品として買った手斧で戦うのは嫌だ。
こちらも魔法付与の品を購入。
……当分借金生活が続きそう。
「ミレーヌはエストック以外も扱えるだろう?ショートソードとナイフを買っておくといい」
確かにエストックは強い武器だけど折れたら大変だ。
ミレーヌはスピードタイプなので盾は購入せず代わりに武器に予算を回した。
うん。
僕達は当分シグレさんに頭が上がらないな。
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