第11話 頼もしい先輩。


 僕達4人は冒険者ギルド一階の酒場に来ていた。

 

 「ミレーヌとユキナの二人は同じ街の出身だと聞いたが」


 そう言ってシグレさんはアクラという果実酒を口につける。

 アクラは甘くて飲みやすいフルーツワインでブドウでは無くアクというウリみたいな形の果物から作られる。

 アルコール度も強くなく酔いにくい。

 対してセシルさんはティニという度が強い蒸留酒を飲んでいる。


 この世界は木のコップではなくガラスカップが主なので色合いも綺麗に見える。

 冒険者ギルド兼酒場の雰囲気もいいし、女性受けしそうな店だ。

 と言っても夜になると喧騒が凄いけど。

 

 朝から夕方までは食事。

 夜はお酒を出すといった営業らしい。

 簡単な雑談から意気投合して一緒に冒険に出るパーティーもよくいるらしい。

 戦士だけでなく魔術師や神官も来るので都合がよいのだ。

 

 「はい。僕とミレーヌは同じ街の出身です。セシルさんとシグレさんも同じ街出身ですか?」

 

 「私は違うぞ。私が生まれたのは遠い東の国だ。こいつはこの街で生まれたらしいけどな」

 

 「そうそうあたいはここの出身さ。だからこの街の事なら裏から表まで何でもしってるぜ」


 そう言ってセシルさんが笑う。

 本当にこの街の事なら裏路地や裏社会についてもよく知ってそうだ。

 冒険者はこの間みたいに臨時で6人編成になる場合もあるが、大体は4人くらいで組む事が多い。

 一人旅だと夜も眠れないし寂しくて辛い。

 

 かといって余程仲が良くないと4人以上組むのは揉めやすい。

 特に報酬の分配でよくケンカになる。

 だから人数は少ないが4人くらいがちょうどいい。

 

 「ミレーヌとユキナは2人で組むんだろ?あたいとシグレも2人だしさ」


 「良かったら私たちと組まないか?」


 どういう事だろう。

 セシルさんとシグレさんは僕より高い鉄級の冒険者だ。

 とてもありがたい話だけど僕みたいな駆け出しと組む理由が浮かばない。

 

 「理由を教えてもらってもいいですか?」

 

 「実は戦争で大量に出現したゴブリンやオークが敗残兵になって各地で暴れまわっていてな。それに没頭していて他の依頼がないのだ」

  

 「どこかのドラゴンが暴れてるとかいうのは金級冒険者が担当するとして、あたいとシグレみたいに鉄級に都合の良い依頼は後回しになってるんだよ。依頼がない筈もないけど冒険者ギルドも敗残兵狩りの依頼が多すぎて手が回らない。要するに敗残兵を狩りつくさないと次の依頼が入らないんだってさ」

 

 敗残兵狩りはしないといけない。

 それなら鉄級のセシルさんとシグレさんに手頃な依頼が出るまで僕とミレーヌの後見人になってくれるという事なのかな?

 それはありがたいけどいいのかな。

 

 「ご厚意に甘えさせていただいてもいいのでしょうか?」


 「後進を育てるのも先輩の務めだからな。私たちもこうやって育てられたものだ」


 そう言ってシグレさんが微笑みながら僕の頭を撫でてくれた。

 凛としていて難しい人という印象だったけど意外と優しい人なのかも。

 

 「どうしても気が引けるなら身体で払って貰ってもいいけどさ~♡」


 セシルさんの軽口にシグレさんがジト目で睨む。

 

 「この淫乱。純粋な少年の貞操まで狙うな」


 「あたいはシグレみたいにむっつりじゃないんだよ。楽しめる時に楽しむのさ」


 ……ああ、うん。

 

 年上のお姉さまにそういう対象として見られるのは喜ぶべきなのだろうか。

 ちらりとミレーヌを見ると顔を紅くして俯いている。

 ミレーヌも年頃だし男女の事とか興味あるのかもしれない。

 

 僕といえば性欲は当然あるけど、前世はそんな行為を行おうものなら即死レベルで身体が弱かった。

 精神的にそんな余裕も無かったし。

 この世界に転生して健康な身体を手に入れたから人並みに性欲はある。

 ヤオとシンジの猥談に混じって話が出来る程度の知識はあるし。

 

 でもミレーヌに嫌われたらと思うと怖くて踏み出せないし、そもそも経験もない。

 僕は臆病者なんだ。

 そう思うとなんだか情けなくなってきた。

 僕は自分の頬を両手で叩くと気合を入れた。


 「すみません。僕そういうのはちょっと」


 「なんだ好きな子でもいるのかい?それなら仕方ないよな。でも寂しくなったらいつでもお姉さんが相手してやるからさ」


 いやそう言われて「お願いします」と言える訳ないでしょう。

 それにミレーヌの前でそういう会話は控えてほしい。

 

 「ユキナは女の子みたいに可愛い顔してるからな。男の中にはそういうの好きな奴もいるから気を付けたほうがいいぜ」

 

 「ひゃうっ!?」


 そう言って素早い身のこなしで僕のお尻を揉むセシルさん。

 いや僕お尻の穴はもっと興味ないから全力で拒否したいけど。

 

 「と、兎に角ボクとユキナのサポートをしてくれるって事ですよね!!」


 ミレーヌが顔を真っ赤にして僕とセシルさんを引きはがした。

 僕の腕がシャツ越しにミレーヌのおっぱいに当たる。

 今は鎧を着ていないのでぽよんとした感覚が直に感じられないが恥ずかしくなる。

 僕の好きな女の子はいつの間にか成長していた。

 

 「いい加減にしないか。話が進まないだろう」


 そういってセシルさんの頭をひっぱたくシグレさん。

 セシルさんは頭を叩かれて恨めしそうにシグレさんを見つめる。

 

 「手頃なクエストを見つけてきた。この中から選んでくれ」


 シグレさんが持ってきた書類を机に広げる。

 A4用紙くらいの大きさの紙にインクで書かれた様々な魔物のクエストが記されている。

 ゴブリンやコボルトなど雑魚敵ばかりだ。

 鋼鉄級以上の冒険者ならソロで問題なくこなせるレベル。

 鉄級の冒険者なら2人組でも可能だが、ミレーヌは青銅級。

 僕に至っては銅級だ。

 今回鉄級と青銅級のサポートがある。

 これなら僕でもなんとかついて行ける。

 

 「これとかいいと思います」

 

 そう言って僕が示したのは少し数が多いけどゴブリン主体のクエスト。

 山を越えた先にある村に繋がる街道を荒らすゴブリンの敗残兵を狩るクエスト。

 

 「ふむ。妥当だな」

 

 シグレさんが頷いた。

 

 「ボクも賛成だよ♪」


 「ちょっと物足りないけどいいんじゃない?」

 

 ミレーヌとセシルさんも賛成してくれたのでこのクエストに決まった。

 

 「それでは早速準備をしようか」

 

 「準備ですか?」


 「ユキナとミレーヌは初めてのクエストだろう?冒険者たるもの前準備はしっかりしておかないと死ぬぞ」

 

 シグレさんが買い物に付き合ってくれるようだ。

 先輩冒険者が見繕ってくれるのだからありがたい。

 

 「それならあたいは今夜の男でも見繕っておくよ。また明日な」


 「まったく。ちゃんと準備はしておけよ」

 

 「へいへい。あたいも簡単に死にたくないしね」


 呆れた様子でシグレさんが言うとセシルさんが手を振りながら立ち去る。

 ほんと自由というか奔放というか、自分の欲望に正直な人だなあと僕とミレーヌは困った顔をしてセシルさんを見送った。

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