第10話 愛しい人との再会
戦争は膠着状態になり動員体制が解かれると僕は真っ先にフレーベル国にある冒険者ギルドの受付に向かった。
「ユキナ君よく無事に帰ってきたわね!!」
そう言って喜んでくれるのは受付嬢のマリアさん。
本名マリア・ラ・ロシェール。
黒髪ショートカットで今年24歳になる女性で僕の世話役でもある。
世話役とは冒険者ギルドで登録した時にフォローしてくれる人でパーティ編成をしたり手頃なクエストを紹介してくれたりする。
彼女は僕の年の離れた姉のような関係で、ギルドではベテランと呼ばれる銀級冒険者で面倒見が良い性格から新人の世話役に抜擢されている。
ちなみに結婚していて旦那さんは元銀級冒険者で今は引退して商人をやっているとか。
「なんとか生きて帰りました」
僕は戦場から無事に帰れた事にほっとしながら笑顔を作った。
そんな僕の演技なんてお見通しだったんだろう。
マリアさんは僕を優しく抱きしめてくれた。
柔らかい胸の感触に頬が赤くなるが素直に甘えてしまおう。
「今日は新しいクエストの話よね?」
マリアさんの問いに僕は頷く。
参戦してゴブリン11匹も倒した僕には国からギルド経由で賞金が貰えるが、それで楽に生きていけるほど冒険者は甘くない。
すぐに稼がないと路頭に迷う。
それに今回の戦争で銅級冒険者が沢山戦死したのだから、青銅級や鉄級が引き受けそうもないゴブリン退治や隊商の護衛などのクエストが溜まっているはずだ。
僕が冒険者になったのは誰かの為に戦うため。
そういうお金が儲からないクエストは貧しい村からが多く、効率が悪いから毛嫌いされるけど誰かがやらなくちゃいけない。
「ギルドとしては大助かりだけど本当にいいの?戦争で疲れたんじゃない?」
「ええ。でもやっと本業に戻れましたからすぐにクエストに行きたくて」
僕がそういうとマリアさんが心配そうな顔をするけど、僕の意志が動かない事を察したのか受付嬢の顔に戻る。
「わかったわ。まず常時募集しているのがゴブリン退治。オーク退治もあるけどこっちはまだユキナ君には早いわね。あとは街道沿いの盗賊退治。薬草採取の護衛兼手伝い。あとはそうねえ」
ぺらぺらとマリアさんがクエスト依頼書を見ていく。
枚数は結構あってやはり冒険者不足は深刻なようだ。
僕もクエストで取得できる報奨金一覧を見ていく。
「このオーク退治って僕には無理ですか?」
「ん~ユキナ君一人だと無理かな。せめて青銅級冒険者が一緒ならいいんだけど」
そうマリアさんが言った時だった。
「それならボクとパーティを組もうよ。いいよねユキナ♪」
聞き覚えのある声。
戦場で死にかけた時何度も聞いた声。
忘れるはずのない声。
何度死にかけても彼女を思い出すだけで勇気が湧いてきた。
僕の幼馴染で初恋の女の子。
僕は慌てて振り向いた。
そこにミレーヌがいた。
緑色のロングストレートの美少女。
服装は身体にフィットした学校の制服のような衣服と短いスカートをはいた姿でお腹に護身用の細身の短剣をさしている。
お腹に短剣とは珍しいと思われるだろうけど、この位置ならすぐに抜くことが出来て便利なんだ。
ミレーヌは微笑みながら話しかけてきた。
「ミレーヌ!!」
僕は慌ててミレーヌに駆け寄る。
「ユキナ生きていてくれてありがとう。ボクずっと心配してたよ」
ミレーヌはそう言って微笑むと僕に抱きついてきた。
ミレーヌの身体の感触を感じると共に僕は涙が溢れてきた。
もう二度と会えないと思っていた想い人と再会できたからだ。
僕は泣きながらミレーヌを抱きしめ返す。
その様子を見ていた周囲の人間は戦場帰りのよく見る光景だと思ったのか見ぬふりをしてくれた。
☆☆☆
そのあと僕達は一緒に喫茶店で改めて再会を喜び合う。
ミレーヌも僕に会えて嬉しいと喜んでくれている。
僕は人目がなければ飛び上がりたいほど嬉しくて逸る身体を押さえつけた。
喫茶店で空いている席に座るとウェイトレスさんがやってくる。
「いらっしゃいませ♪」
そう言って挨拶をしてくる女の子はメイド服を身につけていた。
名前はマリーという喫茶店の従業員さんだ。
ちなみに彼女の耳は普通の人間と違い先が尖っていて長いのが特徴的だった。
どうやらエルフと呼ばれる種族のようだ。
この世界には人間以外にも様々な人種が存在していて人間以外の種族もたくさんいる。
ただ人間と比べると数が少ない為、差別の対象になっている事もある。
エルフは人間と友好的な関係なのでこうして街中で見かけ働いている人もいる。
僕が紅茶を、ミレーヌは香草茶を飲んで冒険者になった後の事などの歓談をする。
僕もミレーヌも戦争の話はしない。
悲惨な話は戦場に置いてくるのが冒険者のルールのようなものだからだ。
「じゃあミレーヌはすぐ冒険に出る訳じゃないんだ」
紅茶に口づけながら僕が聞く。
てっきり青銅級冒険者は引く手あまただと思っていたから意外だ。
「ない事はないけど女の人と組む事が多いんだよ。ほら女って男パーティだと色々とあるからね。だからパーティ編成に手間取って待ちぼうけって訳」
「折角青銅級冒険者になったのに勿体ないなあ」
「そうでも無いよ。女には女の世界があるんだよ」
「女の世界って?」
僕が紅茶に口づけた時だった。
「男の子の扱い方とか♪」
「ぶっ!!」
僕は紅茶を吹いた。
咽る僕に笑いながらミレーヌが僕の背中を叩いてくれる。
「今えっちな事考えたでしょ?ユキナも男の子だもんね♪」
「もう男の子っていう歳じゃないよ」
僕も15歳。立派な成年だ。
結婚だって出来るんだぞと好きな人を目の前にして言う勇気は僕には無かった。
「ユキナはすぐ冒険に出るの?」
「うん。治安の悪化で仕事も多いだろうしね」
戦争で兵士が大勢死んだので治安が悪化している。
敗残兵が野盗化したり、侵入してきたゴブリンや森に潜んでいる野獣なども活発化しているだろう。
なにより今すぐ旅立たないと決意が砕けそうだ。
今回の報酬で街に一か月は滞在できるだろう金額を貰ったので当分冒険に出なくてもいいだろうけど、それをすると二度と冒険者に戻れない気がする。
僕は傭兵じゃないけどもう戦いの世界にしか居場所が無いのかもしれない。
「ユキナがいくならボクも行くよ♪」
「いいの?」
「勿論♪ボクと一緒に冒険しようよ♪」
そう言ってミレーヌが微笑んでくれる。
ミレーヌと僕が見つめあって……。
「お二人さん仲がいいね」
「邪魔をする」
戦争に赴く前にミレーヌと一緒だった女の人が2人僕とミレーヌの会話に入ってきた。
一人は赤髪ショートの快活そうな笑顔の女性でショートソードを背負い腰にショートソードを差している。
印象から見てスカウト。
迷宮探索のプロだと思う。
もう一人はだれだろう。
腰に刀を差していて前世で具足と呼ばれた日本の甲冑を着ていて一見女武者のように見える。
黒髪をポニーテールにしている凛とした印象の美女。
「紹介するね。赤毛の人がセシルさんでかっこいい美人がシグレさんだよ♪」
「よろしくな。つかあたいは髪の色でシグレがカッコいい美人って紹介酷くないか?」
「日頃の行いだ。私はシグレよろしく頼む」
セシルさんはフレンドリーに手を軽く上げ、シグレさんは礼儀正しく会釈をしてくれた。
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