記憶の中で
ミナミ
第1話
いつも、互いに顔を合わせれば喧嘩をしてしまう友人がいた。彼女は私と違った価値観を持っていて、私とよく似ていた。私は常に正しくいなければならないと思っていたけれど、彼女は自分の正しくない部分も認め受け入れて生きると言った。私は彼女が許せない反面、羨んでもおり、そしてとても好きだった。
私達は二人とも、気が強く好戦的な性格で、衝突は避けられなかった。それでも、対話や議論を面倒に思わず関わり続けてくれる存在というのは貴重なもので、私たちは互いに認め合っている部分が大きかったと思う。私は病的な程、人生において善悪について考える時間が多く、それ故か自分の価値観に絶対的な自信を持っていた。彼女はその感覚が理解出来なかったのだろう。私は彼女と違って弱い人間だったが、彼女が正しかったとは今でも思えない。彼女と口論をする度、彼女の事が憎くて仕方が無かった。しかしそれと同時に、彼女に更に強く惹かれていた。彼女が大切で、分かり合いたくてたまらなかった。
私は絶対に同性愛者ではなかった、と断言出来る。しかし、私は彼女に対し家族より恋人より強い感情を抱いていた。一生を添い遂げたいと思っていたし、出来る事ならば同じ感情を抱いて欲しいとすら思っていた。互いに罵り合った後の彼女を見ると、いつも訳の分からない感情が湧き上がった。髪を掴んで引っ叩いてやりたくて、抱き合って接吻をしたくて、服を切り裂いて外に放り出してやりたかった。死んでしまえば良いのにと思い、いつか一緒に死んで欲しいと思った。嫌われたくないと思いながら、彼女に醜い言葉を吐いた。私達は本当に、救いようのない人間だった。
今、私と彼女は只の元同級生に過ぎない。SNSで近況を知る事はあっても、連絡を取り合うわけでもなければ帰省した際に会う事もない。それだけの関係になってしまった。これから先はただ、思い出が色褪せていく事だけが恐ろしい。だから、記憶の中で君を殺させてください。
記憶の中で ミナミ @monoqlo
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