第3話





「よぉ茜斗せんと、相変わらず遅刻ギリギリだな!」


「うっせうっせ」


教室に入るなり絡んできた茶髪の友人──矢衣圭やごろもけいをあしらい、席にどっかりと座る。

現在、8:26。SHRは35分からなので、まぁセーフ。


……さて。俺は普段からこんな感じで遅刻ギリギリの登校をしているのだが、それにはちゃんと訳がある。


「いやしかし……ほら見ろよ、白老さん。今日も可愛いなぁおい。優勝だわ。」


「ん……あぁ、うん。」


俺の席は1番後ろのドア側。そして件の白老さんは1つ前の列の窓側。


そこで、彼女は姿勢を正して友人と談笑していた。


光沢のあるクラウンブレイドハーフアップの黒髪に、100人に聞いたら300人が可愛いと答えるであろう顔面。スタイルの良さも相まって、高嶺の花を体現しているかのような彼女。


───白老日香里しらおいひかり

戦後、GHQによる財閥解体を経た"白老グループ"代表の一人娘。本物のお嬢様。


俺は、その凛とした姿を微妙な目で見ていた。


まぁ、うん。せやな……。

ひとまず色々俺について整理しようか。


まずひとつ、俺は白老グループ住み込みの使用人──メイドであり、日香里のお世話係である。


もうひとつ、お嬢様は使用人"茜"が在籍する学校は違うところだと思っているが、全然そんな事はない。同じ学校で同じクラス。


そして、いつも遅刻ギリギリな理由。これは勘の鈍いラノベ主人公気取りのマヌケでも分かるだろう。

お嬢様を見送った後に自室へ戻り、ウィッグとネットを取って髪型を整えメイクを落とし服を着替え、万が一を考慮し裏口から出て登校している為だ。


うーん……使用人として同じ立場になる訳にはいかないと言いつつ本当は同級生。このダブスタっぷりには我ながら感服である。

更には仕える相手に何重にも嘘を吐いているという、時代が時代なら打首モンな状況。


しょうがないじゃないか、引っ込みつかなくなってんだから。おっさんもそこんとこは把握してるし。

お嬢様だって今更言われても困るでしょ、今までずっと一緒に過ごしてきたメイドは実は同級生の男子でしたーって。俺だったら家出する。

メイドとしての俺とお嬢様は幼馴染も同然の付き合いだ、嫌だろ普通に。


あと、おっさんから「可愛い娘に変な虫がつかないか見ていてくれ」と言われている。とは言えども、干渉できる訳じゃないけどさ……。


「いや……可愛いってより美しい……?クールだよね、いつも……」


「──でも、面白そうな奴だよ」


と、圭に某焼け野原ひろしレスポンスをしながら、もう1人が参入してきた。

緩いパーマをかけた、これまた茶髪の女子生徒だ。


「お、こくたーん。ギリギリだな。」


「珍しいな、なんかあったか?」


烏木琴音くろきことね──圭と琴音は中学からの友人だ。

ちなみに琴音の渾名はこくたん。コクタンという木が漢字で書くと烏木となるから、というのがルーツ。

圭が言い出し、今まで5年間流行ったことは無い。おお、哀れあはれ。


「いやぁね?めっちゃ荷物持ってるおばあちゃんがいてさ」


「ほーん?またベタな……」


「可哀想だなーって眺めてたら遅れた」


「眺めてたの!?助けろよ!?」


「いやぁん、私お箸より重いもの持てなーい」


「そのぬいがしこたま付いたバックを下ろしてから言え?」


つくづく思うが、そんな鞄が見えないくらいぬいぐるみ付けて邪魔じゃないのか?一体何がそこまでさせるのか。


「てかせんとー!今日私全然メイクがキマんないんだけど!やって!」


「いいだろう、金を払え」


「後で送金する」


「それ絶対やらんやつ」


琴音から差し出されたポーチを受け取り、中から化粧道具を取り出す。


「もう下地からやってよ」


「今のメイク落とせって言ってる?」


「ダメ?」


「だるい」


「どれくらい?」


「圭が電話かけてくる時くらい」


「うわダル」


「え?」


突然刺されたことに驚愕する圭を他所に、琴音にメイクを施していく。

ベースは…まぁ、結構ノリ悪いな……。まぁ何とかなるか。


「琴音、夜更かししただろ」


「う、ばれてら」


「スキンケアも忘れたな」


「ぐぅ…その通りでございます…」


「おいおいこくたん、今どき男でもスキンケアするのにそりゃないぜ」


「黙れ」


「ひどない?」


琴音はイエベ春。即ち暖色系メイン……しかしやり過ぎてはフランス人にイエローと馬鹿にされる。黙れホワイト。

ここがメイドの腕の見せ所やね……


ちなみに、我らが白老グループ跡取りの日香里お嬢様はブルベ冬。

クールビューティで通ってるお嬢様にはピッタリだ。

……違うんです。の前では崩れるだけです。外ヅラは良いんです。


「てかよ、電話だるいって何さ。俺って実は嫌われてる?え、泣くよ?」


「圭が電話してくる時って大抵めんどい事頼んでくる時だからな。課題終わらんとか」


「バイトのシフト代わってくれとか」


「あ茜斗、お前いい加減バイトに入ってくれ」


「嫌だっつってんでしょ」


「なんでや、友達紹介で俺もお前も5000円が手に入るんだぞ!」


「やらんって」


圭はバ畜なのだが、度々こうやって勧誘してくるのが非常にウザイ。バイトなんざ出来る訳無いだろって。んな時間ねぇって。


と、アイシャドウからのビューラーをすませ、アイラインを引きながら思う。ちなみにアイライナーはリキッド。

なんかライン引いてからビューラーする人とかいるけど、その順番だと書いた線が歪むからやめた方がいいと思う。知らんけど。


「たーのーむって!人手が足りんねや!」


「何のバイトだよそもそも」


「葬儀」


「???????」


危ねぇ、意味不明過ぎてアイラインが心電図みたいになるところだった。

キャップを閉めて、格納。

マスカラは──まぁ適当でいいんだ、こんなもん。


「あい、終わり。」


「マ?はっや、見せて見せて」


「ほらよ」


ポーチの中に入っていた折り畳みの鏡を見せる。


「お、めっちゃいい感じ!ありがと、せんとマジ好き愛してる」


「はいはい俺も愛してる」


バチコーン!とウインクをし合う。

と、いつものノリに笑いあっていると───



───ガタン!



何かがぶつかるような音が聞こえた。


「お、なんやなんや」


「誰か死んだか」


「あれ、白老さんじゃね?」


「マ?」


結構凄い音したぞ、大丈夫かお嬢様。

と、目を向けると───


「ッ…!?」


「どうしたどうした」


───なんだろう。凄い見られてる。鬼のような形相でこちらを見ている。怖い。

これ、あれか?ワンチャンバレたか?

だよな、こんな5分くらいの間に女子高生が満足するレベルのメイクしてくる奴とかあんまいないもんな。


いや、でも待て。俺はこのメイド業において、今の今までお嬢様の前で少しも肌の露出というものをしたことが無い。

私服でも常に体格を誤魔化せる服を着ていたハズだし、ボロは一切出していない筈だ。

なんだ、小学生とかの時になんかやらかしたか?知らん内にやらかしたか?


「いや……凄い見られてる気がして…」


「自意識過剰乙」


「メイクして欲しいんじゃね?案外、白老さんのメイク担当とかそんな上手くなかったりして──」


「「は?」」


「え、怖」


「そんな嫌なん…?こくたん以外にメイクするの……」


下手とはなんだ下手とは。俺の株を上げながら俺の株を下げるな(?)

……というか、つい反射で威嚇してしまったが…なんか、誰かと声が被ったような…?

気のせいか?この教室うるせぇもんな。


「ほれ散れ散れ。もうすぐHRぞ」


「うわマジやんけ。んじゃまた後で」


「ばいばーい」


机の周りから2人が離れるのと同時に、担任が教室に入りHRが始まる。


……さっきのお嬢様の形相は何だったんだろうか。勇気が暴走したんだろうか。

あ、話しかける隙が無かったからとか?ようわからんね。


程なくしてHRは終わり、一限の準備時間に入る。


「……あ、あの。」


ロッカーから教科書を取ろうと席を立つと同時に、誰かに話しかけられる。

ふむ。


声の主は圭でも琴音でもなく───


「白老さん。何か用?」


日香里お嬢様であった。



─────────────────────続かないかも。


こちらは以前より書いているヤツです。ダンジョンでRTAしたり配信したりわーぎゃーする奴です。1章終わったところなので、興味ある方は是非……!


https://kakuyomu.jp/works/16817330657195574090

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