最終話



 澄村から告白された。


 好き。

 付き合ってください。

 そう告げられた。


 彼女の言葉を聞いた俺はたいそう驚いた。

 なんなら固まって動けなくなった。


 現実味がなかったというのが本音だ。


 陰キャで目立たず、女友達どころか仲のいい男友達すらいない。

 そんな俺には恋人や告白なんて青春っぽいものは縁のないものだと思っていた。


 だけど告白されたのである。


 女子から。

 可愛い女子から。

 女優として絶賛活躍中の澄村から。


 現実味がないという感想もおかしなものではないだろう。

 いまこの瞬間が俺の夢や妄想であったと言われても疑いはしない。


 だがしかしそんなことはなく、今は現実であった。



 俺は……。

 俺は澄村のことをどう思っているのだろうか。

 

 澄村のことを好きか。嫌いか。

 嫌いではないな。

 それはない。


 じゃあ好きなのだろうか。

 ……うん、好きだ。


 それは友達として? 

 それとも恋人として?


 俺は澄村と恋人になりたいのか、ということが問題だ。


 なりたいかどうかで言えば……恋人になりたい。

 澄村とイチャイチャしたい。

 今日みたいなデートをまた今度もやりたい。


 なんだ。

 つまり、俺は澄村のことが好きなのだ。

 

 そういうことなら何の問題もない。

 



「よろしくお願いします」




 そうして、俺と澄村は付き合うことになった。






 週が明けて月曜日。

 

 俺と澄村がショッピングモールへ行き、そこで買い物をし、そして澄村から告白されて付き合い始めた日の翌日である。


 てかよく考えると俺まだ澄村と会話してから二週間くらいしか経っていないんだよな。

 その間に彼女のいじめを止め、友達になり、そして恋人になった。

 

 あらためて考えると短い間に色々と起こってるな。

 起こりまくりだよ。

 人生で最も濃厚な二週間だったかもしれない。


 

 そんで記念すべき恋人になってからの初登校。

 当然のごとく我が家に来ていた澄村と一緒に登校した。


 ちなみに今日も澄村は我が家で一緒に朝ごはんを食べていた。

 あの子我が家になじみすぎじゃない……?

 なんなら俺よりなじんでない?

 まあ別に悪いことじゃないからいいけど。


 

 クラスに入ると、ちらほらと俺たちに関する噂が聞こえてくる。



 あの澄村瑠花が望月と付き合っている。

 休日一緒にいるのを見た。

 腕を組んで歩いていた。



 おそらく真島か、もしくはその取り巻きが噂を広めているのだろう。

 昨日の俺たちの光景を見たら付き合っていると思うのもおかしい話ではない。

 そしてあの時点ではただの勘違いだったことも、今となっては事実である。



 望月って誰?

 隣のクラスの男子だっけ?

 小学校の頃にいたなあ、そんな名前の奴。



 などという声も聞こえてくる。

 っておいおい。

 俺の存在が全然広まっていないせいで噂がピンときていないじゃないか。

 そんなことってある?

 どんだけ影薄いんだよ俺は。


 この影の薄さでよく真島は俺の発言を捕えることができたなあ。

 今となっては感心してしまうよ。



「噂になっているわね、私たち」


「ああ。昨日の姿を見られたらそうだよな」


「噂のせいで注目されちゃうかもしれないけど……」


「別に問題ないよ。むしろ今まで注目されてこなかった反動がきたと考えればいい。なんでもバランスとれるように人生はできているのさ」


「ふふ。なにそれ」


「むしろ心配なのは澄村の方だよ。いいのか、俺と付き合っていることが週刊誌にばれたら面倒なことになるんじゃないのか」


「別にかまわないわよ。アイドルじゃないんだから恋愛禁止でもないし。それに付き合っている相手が一般人ならマスコミは根掘り葉掘り聞いてこないものよ」

 

「そうなんか」


「それより、私としては今のあなたの言葉の方が聞捨てならないのだけれど」


「なに? 俺なんか変なこと言った?」


「呼び方」


「……ああ。そういうこと」


 昨日交際を始めた時に一つ決めごとをしていたのだ。

 それは互いを苗字ではなく名前で呼び合うこと。


「悪かったよ。……瑠夏」


「よろしい。愁」


 くっ、気恥ずかしい。

 二人っきりじゃないんだぞ。

 教室のど真ん中なんだぞ。


 周りも俺たちに注目して、噂が本当だったことに驚いているじゃないかよ。

 注目されることは気にしないとは言ったけど、それは人目をはばからずいちゃつきたいというわけではないんだ。

 いやまあいちゃつくこと自体は別に問題はないのだけども。

 そういうのはせめて二人きりの時にですね……。


「お弁当作って来たの」


「お弁当?」


「ええ。この間約束したじゃない。いつか食べましょうって」


「この間って、先週の話じゃないか。確か包丁の握り方を知った段階だったろ。それでもう弁当作ってるってずいぶん早いな。もっとずっと先の話かと思ってたんだが」


「ふふん。成長が早いのよ」


「どうせ冷凍食品ばっかなんだろ?」


「さあどうかしら。食べて確かめてみて」


「楽しみにしてるよ」


 初彼女の手作り弁当をね。





 俺の名前は望月愁。


 高校二年生。

 陰キャだ。


 仲のいい友達すらいないが……しかし彼女はいる。


 しかもその彼女は、日本を代表する人気女優だ。

 俺のような陰キャとは釣り合いがとれないほどの素敵な彼女。



「大好きよ、愁」


「俺も好きだよ、瑠夏」






終わり

 

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人気女優であるクラスメイトをいじめから救ったのは陰キャぼっちの俺だった。陽キャのイケメンでなくて残念だったな。ところで救った日から彼女が毎日くっついてくるのはなんで? 沖田アラノリ @okitaranori

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