第7話
「その……ごめんなさい」
しばらく無言で歩いた後。
ようやく口を開いた澄村の一言目は謝罪だった。
彼女は組んでいた俺の腕を離す。
ちょっと残念に思ってしまったことは内緒だ。
「何の謝罪?」
「さっきのことよ。真島君のこと」
「真島のことなら謝る必要はねえよ。悪いのはあいつらだしな」
さっきの真島たちの言動はお世辞にもいいとはいえない。
さすがに配慮がなさすぎた。
「でも望月君に迷惑をかけてしまった」
「別に迷惑でもなんでもねえよ」
「そう? クラスでの立場が悪くなったりしないかしら?」
「もともと悪いから気にすんな」
クラスの輪の中に入っていないから、今更ハブられることもない。
多少立場が悪くなったとしてもそれは誤差のようなものだろう。
休日に遊びに行くような友達もいないしなぁ。
あ、今は澄村がいるか。
「というか俺にはその後の行動の方が問題な気がするんだが」
クラスメイトの前で腕組むとか。
休日に一緒に出掛けているのを見つかった時点でデートだと誤解される可能性もあるのに。
「あの年頃の人間はなんでも色恋に結びつけるからな。もしあの光景を見て俺たちが付き合っているとか噂でもされたら困るだろ」
「……望月君は、私たちが付き合っていると噂されたら困るのかしら?」
「いや、俺というよりは澄村の方の話なんだが」
澄村は日本でも屈指の人気女優。
世間の注目を浴び、マスコミに追われる存在だ。
恋人関係は例え噂でも注意しなければならない話だろう。
それが学校のいちクラスにおける噂話だとしても。
「私は別に困らないわ」
「え、そうなの」
「望月君は困るの? 女優と付き合っているって噂されるのはいや?」
「そうじゃないけど」
「私と付き合っていると噂されるのはいや?」
「嫌じゃないってば」
なんだこの確認作業……。
「そう。私と付き合っていると認識されるのは嫌じゃないのね」
「ああ」
「私と付き合っていると他者から認識されるのは嫌じゃないのね」
「そうだよ」
「私と付き合うことは嫌じゃないのね」
「そうだよ」
ん?
なんかいまちょっと内容が飛ばなかったか?
ノリで頷いてしまったけど。
「……そう。ふーん。そうなんだ。ふーーん」
澄村の方を見ると顔を真っ赤にしているし。
「なんなんだよ一体」
「別に。何でもない。ちょっと勇気わいただけだから」
行きましょう、と俺を急かしながら前を進んでいった。
●
澄村に連れてこられた場所はアンティークショップだった。
ショッピングモール内の一角にあるおしゃれな雰囲気の店だ。
ただしアンティークショップとは言ってもそこまで高級なものではない。
学生でも十分手が出るレベルの値段だ。
「買いたかったのはこれ」
澄村はアンティークのコーヒーカップを購入した。
「むかし見た時にとても綺麗だと思って。プレゼントならこれだって考えていたの」
「確かに綺麗だな」
「でしょう? それでその、話したいことがあるからちょっと別のところに行きましょう」
彼女に連れられて、またもや移動する。
向かった先はショッピングモールの屋上にあるベンチだった。
「おお、すげえ」
日は暮れて、すでに夕方になっている。
屋上から見る景色はオレンジ色の空と夕陽に照らされてとても綺麗だった。
「望月君。あらためてお礼を言わせていただきます。あの人たちのいじめから助けてくれて、本当にありがとうございました」
「どういたしまして」
なんだろう、この感じ。
なんか照れるな。
「まあ、俺なんかが澄村の役に立てたのなら光栄だよ」
恥ずかしさから頬をかきながら目をそらしてしまう。
「俺なんか、なんて言わないで。望月君は私にとっての恩人――いえ、ヒーローよ」
「ヒーローって。そんな大げさな」
「大袈裟なんかじゃないわ。あの時、私がどれだけ苦しんでいたのか。そして貴方のおかげでどれだけ心が救われたのか。言葉にすることもできないくらい」
澄村が俺のことをじっと見つめてくる。
「望月君は私を救ってくれた。とっても感謝してる。でもね、本当はそれだけじゃないの。他人を救う行動して、誰かのために嘘をつくことができる望月君が。優しい望月君のことを」
「見ていたいし、私のことも見てほしいし、ずっと一緒にいたい
し、話したり、ご飯を食べたり、今日みたいにデートだってしたい」
「望月君と一緒にいると、とっても幸せだし。幸せだと思ってほしい」
「だから、その、えっと……好き」
「付き合ってください」
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