第6話



 散々ゲームセンターで遊んだあと。

 モール内の店でランチを食べたり、本屋やアパレル店に行った後に本命の店に向かうことになった。


「で、結局行きたい場所はどこなの?」


 あえて尋ねる必要もないと思って今日はずっときかなかったけど。


「ええ。ここのショッピングモールにある――」




「あれ? 澄村さん?」




 なにやら聞き覚えのある声がした。

 なんかこう、毎日聞いているような。


 そう多くないはずだがな……オレが声を毎日聞いている奴は。

 あんまりクラスメイトと話さないし。


「やっぱ澄村さんじゃん?」


 声のした方向を見てみると、そこにいたのはクラスのイケメン君だった。

 ほらあの、よく澄村に話しかけてる奴。

 ちなみに彼の名前は真島。


 声が大きいから寝たふりをしていてもよく耳に入ってくるんだ。

 だから声を毎日聞いていたのか。


「こんにちは、真島君」


 真島は何人かクラスメイトと一緒にいた。

 休日にショッピングモールに遊びに来たのだろう。

 まあ俺たちと似たようなもんか。

 

「澄村さんも遊びに来たの? てか一緒に遊ばね?」


「いえ、私は。一緒に来ている人がいるから」


 そう言って澄村はちらりと俺を見る。


「あ、お前……。えっと、誰だっけ」


「望月だ」


 案の定名前を覚えられていなかった件について。


 まあいつものことだからね!

 慣れているもんね!

 悲しくないもんね!

 か、悲しくなんて……!


「あー、望月君? だっけ? もしかしてだけど、お前澄村さんと一緒にここ来たの?」


「もしかしてもなにもそうだよ」


「何しに?」


「遊びに」


 正確には澄村が俺になにか買ってくれるからだけど。

 まあでもさっきまで遊んでたことだし、遊びに来たっていってもいいだろ。


「ふーん」


 真島は値踏みするような目でこちらを見てきた後、


「いや、こいつはちげえわ」


 と、ぼそりと小さく呟いた。

 


「ねえ澄村さん。こいつ放って俺たちと遊びに行こうぜ」


「は?」


「絶対そうした方がいいって。こんな奴より俺たちと一緒にいた方が絶対楽しいし」


 そして俺を一瞥する。


「望月だっけ? あいつといてもつまんなかったっしょ? ほら、一緒に行こうぜ」


 澄村の手を取って自分の方へと引っ張る。



 俺はその光景を見て、深く息を吐く。


 ……まあ、いいか。

 澄村とはまた別の機会に来ればいいことだし。

 それに澄村もクラスメイトと仲良くしたいと言っていた。

 その思いを組んでここは俺が身を引くことにしようか。


「行って来いよ、澄村」


「ははっ。ほら、あいつもそう言っているしさ」


「……」


 真島の言葉に対して、澄村は黙っている。

 そのことをどうとらえたのか知らないが、真島はさらに言葉をつづける。


「まったく、ほんと身の程知らない奴だよ。あの人気女優の澄村さんと一緒にでかけるなんてさ。陰キャのくせに」


 そういう悪口は本人のいないところで言ってくれないかな?

 言うなとはいわないけどさ、本人には聞こえないところで身内の中で収めておくのがマナーじゃない?


「そういや、しってる? あいつマジ最低なんだよ。相川たちが転校したときに聞いちゃったんだけどさ」


 相川? 

 だれだそいつ。

 と思った読者のために説明しておくと、相川とは澄村をいじめていた三人のひとりである。

 俺が転校させた一人だ。


 もうこの二文字は登場しないとか言っておきながら出してしまった。

 嘘ついてしまってごめんね。

 まあライブ感で書いているからね。

 こういうこともある。


「今週相川たちが転校したじゃん。それ聞いたときあいつなんて言ったと思う? よかったって言ってたんだよ。聞こえたときびっくりしたわ」


「!」

 

 真島の言葉を聞いて、弾かれたのように澄村はこちらを見る。


「それ、本当?」


 澄村は俺に対して尋ねてくる。

 しかし俺が何かを言う前に真島が答える。


「本当なんだって。あいつ最低だよな」


「真島君。ちょっとだま――」


「やなやつだよな。あんなクズ、澄村さんが相手するような奴じゃないんだよ。今日もどうせあいつが無理やり誘ってきたんだろ? 澄村さんは優しいから断れなかったんだよな。でもああいうのは優しくすると勘違いしてつけあがっちゃうから、気をつけなきゃダメだよ?」


「……優しくするとつけあがる、ね」


 澄村は間島のほうを向き。


「わかった。そうするわ」


 と告げた。



 あー。

 まあ、そうだよな。

 そりゃまあ陰キャの俺なんかより、イケメンで陽キャの真島の方を選ぶわな。

 妙に納得している自分がいる。


「ははっ、そうそうわかってくれた? あんな奴より俺たちのほうがずっといいよね。それじゃあ遊びにいこっか。まずはカラオケとか――」




「行かないわよ、そんなところ。行くわけないでしょう」




「「え?」」


 澄村の反応に、俺と真島の二人は驚く。


「真島君。手を放してくれないかしら?」


「あ、ああ……」


「真島君。あなたは勘違いしているみたいだけど、今日は私から望月君を誘ったの。それなのに望月君を放置してあなたとどこかにいくわけないでしょう」


「澄村さんから……?」


「それに、例え今日さそったのが私からでなくてもあなたと遊びに行くことなんてないわ。私はあなたになんの興味もないのだから」


「じゃあなんで望月とは――」


「そんなの、私が望月君と仲良くしたいからに決まっているでしょう」


「は、はあ!? なんでこの陰キャと!?」


「なぜって、それは私のことを助けてくれたからよ。少し前まであることに悩んでいたのだけど、それを彼が解決してくれたの。それが望月君と仲良くなりたいと思ったきっかけ。これで質問は終わりかしら?」


「な、悩みを解決って、何をしたのか知らないけどさ。いうてそんなんたまたまでしょ。てかこんな陰キャに相談しなくても、俺なら言ってくれればいつでも助けてあげたのに」


「あなたが? 助けた?」


 澄村の声色が一段低くなる。

 ああ、これ結構怒ってるわ。

 後ろ姿からでもわかる。かなりの怒気が発せられていた。


「へえ。言えば助けてくれたんだ」


 静かに、しかし確かに怒りをにじませている。


「まあ、あなたがそう思うならそうかもしれないわね。でも、いい?」


「私は悩んでいたし、苦しんでいたわ。けれど、そのことに気づいてくれたのは望月君だけ。そして実際に助けてくれたのも望月君なの。もちろん誰にも相談してこなかった私にもある程度責任はあるけれど、それでも助けてくれたのは彼だけ」


「だから私は望月君のこと信頼しているし、仲良くしたいと思っている。私が苦しんでいたことに気づきもしなかったあなたに、彼を悪くいってほしくないわ。あなたのほうがずっと迷惑なの。もう学校でも話しかけてこないでくれる?」


「え、ええと、その……」


「どう? あなたのリクエスト通りに優しくするのは止めたわよ。これで満足なんでしょう? さよなら」


「ま、まってくれ、その、俺は」


「行きましょう望月君。ここにいるのは不愉快だわ」


「あ、ああ」


 真島も俺も、澄村の剣幕に気圧されている。

 後ろで聞いていた俺ですら驚きを隠せないのだから、面と向かって怒りをぶつけられた真島の衝撃はかなりのものだろう。


 事実、真島はポカーンと突っ立って身動きしていない。

 後ろにいた取り巻きたちも、驚きのあまり固まっていた。


 はあ、まったく。

 澄村も怒るだけ怒って行きやがって。

 この場をどうするんだよ。

 この場を……。


「いや、どうもしなくていいのか。怒らせたのはこいつらの自業自得だしな」


「何してるの、望月君。早くいきましょう」


 ガシッと澄村は俺の手をつかむ。

 いやそれだけにとどまらず、俺の腕をとってきた。


「え、ちょ、おい?」


「ごめんなさい。せっかく楽しい時間だったのに邪魔されてイライラしているの。少しの間だけでいいからこうしていたい。ダメかしら?」


「ダメ。じゃないけど」


「よかった」


 俺たちは固まって動かない真島たちをしり目に、腕を組んでその場を去っていった。


 これ、明日あたり学校で噂になっているかもしれないなあ。


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