第5話
「ゲームセンターにはよく来るの?」
「ああ。そりゃもうたくさん行ってるよ。ここのゲーセンにも何度か来たことはある」
これまで休みの日にゲームセンターに来ることは何度もあった。
大抵――というかいつも一人で来ていたが今日は違う。
今日は女子と一緒だからな!
女子と二人でゲーセンだからな!
いつもゲーセンでカップルを見るたびに女連れてゲーセン来てんじゃねえぶっ殺すぞと思っていたけど、今日からは君たちを許すよ。
今まで格ゲーでカップルの男の方をボコボコにしてごめんね。
勝ち確になったとたんに煽ってごめんね。
今度からは煽らずにボコボコにすることにするよ。
「いつもは何をしてるの?」
「大抵のものはやってるけど、音ゲーと格ゲーをよくやってるな」
「格ゲー……。望月君もこう、他の人と戦ったりするんだ」
澄村がシャドーボクシングのようにパンチの仕草をする。
かわいい。
いや普段クールな美人がそういうかわいい仕草すんのは反則だろ。禁止カードだろ。
「ああ。よく対戦してるよ」
そこでカップルをボコったり強い奴にボコられたりしてる。
「面白いの?」
「それなりにね。やってみるか?」
「ちょっとやってみようかな」
というわけで俺たちは筐体の席に座り、百円玉を入れる。
さすがに初心者をいきなり対戦させるのはやめた方がいい。
何もできずにボコられるだけだ。
動かし方を教えた後は、まずは一人用モードでNPCと戦う。
「結構上手だな」
「そう? ふふ、嬉しい」
NPCとはいえ初心者なのに順調に勝利している。
こういうゲームは敗北したらお金を追加してコンティニューしないかぎりは終わりだが、勝利している時はお金を追加しなくても最後の相手まで戦えるのだ。
俺が最初にやった時は二戦目くらいでギリギリで敗北してコンティニューしたものだ。
澄村はセンスがあるのか、二人目どころか三人目四人目と勝利している。
ついに最後の相手にまでたどり着き、そこで一回敗北したがコンティニューして勝利した。
その次は音ゲーをしてみた。
「格闘ゲームよりこういう方がいいわね」
彼女のセンスは音ゲーの方でも発揮され、何回かやってみてコツを掴んだら割と難しい曲でもクリアしていった。
他にもいくつかプレイする。
メダルゲームはさすがにやらなかったが、一通りのゲームをやったあと。
「次はアレやってみたい」
澄村が指さす先にあったのはクレーンゲームだ。
「クレーンゲームかあ」
実はあれ、あんまりやったことないんだよな。
ゲーセンに通いまくりほぼすべてのゲームを一度はプレイしていると豪語する俺ではあるが、やっていないゲームが二つある。
それがプリクラとクレーンゲームだった。
プリクラは一人でやるにはハードルが高いからやってこなかった。
あれカップルとか友達同士とかでやるもんだろ。
男一人でプリクラなんて、とてもできないしやろうとも思わない。
クレーンゲームをやらない理由は……これは単純に偏見だ。
基本的に取れない。
仮に取れてもかけた金の割にあわないくらいしょぼいものしか入っていない。
そういう偏見がある。
実際この考えはそこまで外れていないと思う。
ほら、なんか時々ユーチューバーとかがクレーンゲームの闇とか動画上げてることあるし。
だからこれまであえてやりたいとは思っていなかったが。
まあ澄村がやりたいというのを断るほど嫌悪しているわけではない。
「ダメかな?」
「いいよ。やろうか。ただ、俺もクレーンゲームはやったことないから期待しないでくれよ」
「うん。じゃあ一緒にがんばろっか」
とあるアニメのぬいぐるみが置かれてある筐体の前に行き、コインを投入。
いざ、初クレーン!
と、意気込んではみたものの。
「なかなか取れねえ」
クレーンゲームを始めて十分。
かなり苦戦していた。
ボタンを押し、クレーンを移動させる。
ちょうどとれるかなと思うところにクレーンを移動させたら下へ動かすのだが。
取れない。
ぬいぐるみを掴めてはいる。
しかしぬいぐるみを掴んだクレーンがある程度の位置まで上昇したところでなぜかぬいぐるみが落ちてしまうのだ。
「掴んでいるわよね。なんで落ちるのかしら?」
「アームの強さか……」
これはユーチューブの動画のコメントとかで知ったにわか知識なので詳細は知らんのだが、確かゲームセンターのクレーンにはアームの強さが設定されているらしい。
そのため掴んだとしても途中で外れてしまうのだとか。
いや、よく知らないけどね。
「私にやらせてちょうだい」
次は澄村がやってみる。
彼女もぬいぐるみを掴むことはできるのだが、しかし途中で落ちてしまう。
いやこれ詰みじゃん。
どうやっても取れないよ。
しゃあねえ。
ちょっとクレーンゲーム攻略法を調べてみるか。
「どうやら掴んで一気に移動させるんじゃなくて、アームで当ててちょっとずつ動かす方がいいらしいな」
「え? どういうこと?」
「ちょっと代わってくれ」
筐体の前に行ってアームを動かし、掴んで運ぶのではなくアームを当ててぬいぐるみを動かす。
一回ではちょっとしか動かないが、何回かやればそれなりに動く。
そうしてぬいぐるみを動かしていき、取り出し穴へと落とす。
「うっしゃ! やり!」
取り出し口からぬいぐるみを取り、澄村へと渡す。
「プレゼントだ」
「え、いいの……?」
「もちろんだ。というか最初からそのつもりだったし」
「でも、今日は私が……」
「まあ、それはそれとして、だよ。ほら」
澄村へぬいぐるみを差し出し、彼女に受け取らせる。
「こういうのは受け取ってもらった方が嬉しいから」
「……そう。なら、受け取っておく」
そうしてギューッと澄村はぬいぐるみを抱きしめる。
「ふふ。ありがと」
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