第4話



 時間は経ち、週末の日曜日になった。

 今日は澄村と買い物に出かける日だ。


 彼女とは駅で待ち合わせをすることしている。


 そこから向かう場所はショッピングモール。

 地元から数駅ほど離れた場所にあるところであり、ここら辺の人は誰でも一度は行ったことがある施設だ。


 当然、俺も行ったことがある。

 大体は一人で。

 時々家族と一緒に。

 友達と行ったことはない。


 だからこれが初めてなのだ。

 友達とショッピングモールに行くのは。



「よう、澄村」


 待ち合わせ場所にはもう澄村が来ていた。

 本人とわからないように眼鏡と帽子をして立っている。


 芸能人だからな。

 それもいま日本で一番といっていいほどの有名人だ。

 素顔で外を歩いたら澄村瑠夏本人だとばれて騒ぎになってしまう。

 そういったことを防ぐために変装をしているのだろう。


「おはよう望月君」


「えーと、待った?」


「今来たところだから気にしないで」


 そこまで言ったところで澄村が「ふふ」と笑う。


「こういうの、ちょっとやってみたかった」


 普通は男女逆かもしれないけど。

 澄村がご満悦ならこれでいいのだろう。


 ああ、あとこれは言っておかなきゃな。


「その服、似合ってるぞ」


 俺はとりあえず澄村の服装を褒めておいた。


 ほら、男は女の服装を褒めるっていうルールあるじゃん?

 実際に似合っているかはともかく、そう言わなきゃいけないっていうルールあるじゃん?

 アニメで得た知識だから正しいのかはわからんけど。

 女の子と一緒に出掛けるの初めてだから正しいのかはわからんけど。


 まあそんなルールが正しいのかはともかく、俺はそんなルールがなくても澄村のことを褒めていただろう。

 実際、彼女の服装はとても似合っていた。

 澄村ならどんな服装でも着こなしてみせそうな気もする。

 さすが、人気女優になるだけのことはある。 


「あら、ありがとう。望月君もそういうお世辞が言えるのね」


「もちろんだ」


 笑顔を浮かべている彼女に対して続ける。


「今のお前はとっても可愛いぞ」


「え、ええ。ありがとう」


「なんていうかその、学校の制服とは違う私服はいつもとは違って新鮮に感じる。ずっと見ていたい」


「……」


「眼鏡をかけた姿もとても綺麗で――」


 ところでこういうのって、いったいどこでやめればいいんだろうな?

 人を褒めるのとかほぼ経験ないからわかんね。

 特に女を褒めるのとか、まったく経験ないからわかんねえ。


 まあ、彼女ならこのくらいの言葉は何度もいわれて慣れているだろうけどな。


 と思ったけれど。


「あ、ありがとう……。もう、もういいから……」


 澄村は顔を真っ赤にして照れていた。

 初心な反応も可愛いなと思った。




 電車を何駅か乗ってショッピングモールへ。

 今日はここで一緒に買いものに行く。


 いじめを解決したお礼として、何かプレゼントしてくれるという話だ。


 何を買うのかは聞いてない。

 ま、そういうのを根掘り葉掘りきくのは野暮というものだろう。

 澄村に任せるさ。


「で、どこで何を買うんだ?」


 このショッピングモールはそこそこ大きい。

 正確な数は知らないが、店舗数は200近くあると聞いたことがある。


 飲食店、装飾品店、雑貨屋、服屋などなど。 

 様々な店がある。

 ここに行けば大抵のものは買えるだろう。


「それなんだけど、少し後でもいいかしら?」


 後っていうのは、俺へのプレゼントを買うのを後にするっていうことだよな。


「いいぜ」


 いつ買うのか、なんて順番にこだわりはない。

 それに、メインイベントは後にとっておくものだしな。

 俺はただ楽しみにしていればいいだけだ。


「何かほかに買いたいものでもあるのか?」


「ええ。せっかく来たのだから、色々遊びたいと思ったの」


 まずはあそこ、と澄村は指をさす。

 指さす先にあるのはゲームセンターだった。


「ふ。ゲームセンターか。いいぜ、相手になってやろう」


 俺も健全な男子高校生だ。

 ゲームセンターは日常的に通っている。


 大抵のゲームはこなしているぜ。

 ゾンビ、カーレース、音ゲー、格ゲー、メダルゲーム。なんでもこい。

 

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