第2話 新月の少年
サクが
重い。視界を
「う……」
漸く聲が鳴った。
「痛ってえ。て、まだ
サクの目前には闇が開けていた。今の縁を結んでから幾度となく此の空間を訪れているサクだが、矢張り慣れないものは慣れない。サクはよろつきながらも身を起こし、前方へ視線を投げかけた。
「……よう。久しいな、ツキタチ」
サクの聲の先――其処には、膝を抱えて坐り込んでいるひとりの少年の姿が在った。少年は
「てっきり新しい
「……知らない」
ツキタチがか細く、掠れた聲を漏らした。変声期を迎えていない、少女とも付かぬ
「兎に角、器を起こそうぜ」
「……うん」
「僕にはできないんだ。今日もよろしく頼む」
「……うん」
こくりとツキタチは頷き、青白い額でサクの白い額にそっと触れる。すると、目映い白い光が彼らを包みこんだ。
「起きな!」
突如、ざらざらとした年老いた女の怒鳴る聲と激しく皮膚を打つが空間に響いた。それと同時に鈍い痛みがサクの右頬あたりに走る。サクとツキタチの目前には
「なんだ、生きとるじゃあないか。三日三晩起きないなんて女どもが騒ぐから、おっ
「……ご、ごめんなさ……い」
ツキタチが
理由はわからない。サクがいなければ器は目覚めぬが、ツキタチでなければ器を操れないのだ。本来、
器の視界の中で、器が老婆に罵倒されていた。器はじっと耐えて老婆の気が済むのを待っている。この器の行動はツキタチが選ぶ。即ちツキタチが堪えることを決めているのだ。
「お前さんが何日も寝込んでくれるから、働き手が足りてないんだよ!」
「ごめんなさい」
「治ったんならさっさと持ち場に戻りな!」
「……はい」
老婆のヒステリックな聲に耳を塞ぎながら、サクはツキタチを見遣った。ツキタチは感情を浮かべず、どんよりと只前を見据えている。見慣れた光景ではあるものの、サクは何となしに訊ねてみた。
「いつも思うんだが。少しは反撃してやればいいのに。なんで何時も我慢するんだ?」
「さらに怒らせたら、もっと痛い。それに……」
「それに?」
「どうせ何をしたって変わらない」
視界から視線を外さぬツキタチの眼は変わらず虚ろだ。生きる事に諦めているようにも見受けられる。その眼差しには身に覚えがある。サクははん、と鼻で嗤った。
「まあ、その
サクは自身の脚を支えに頬杖をついた。サクも長く不運な器ばかりに恵まれ、いつ消えても可怪しくはない状況に立たされ続けている。
「まあ、御前の好きにすればいいさ。僕には動かせないのだし」
そして
「でも痛いのは僕も同じだから、ほどほどにしてくれよ」
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