花結び
花野井あす
第1話 魂結《たまゆい》
しゃらん――……
鈴の音がひとつ鳴る。
しゃらん――……
鈴の音がふたつ鳴る。
しゃらん――……
鈴の音が鳴り止むと、
しゃらん――……
「いってきます」
彼女は口の形のみでそう伝えると、光の中に溶け、そしてふつりと姿を消した。
「いってらっしゃい」
「
サクの頭上から、男の聲が鳴った。サクは面を上げ、聲のしたほうへ振り返ると、白髪を短く刈り上げた男の姿が有った。サクはにっと口の端を持ち上げた。
「久方ぶり、
「ああ。
「そ。シノノメは戻ってきたばかりかな」
「まあな。……御前もか」
「ううん。僕はまだ
気不味い沈黙。シノノメは暫くの間細い目を極限まで見開き、穴が空くのではあるまいかと思われるほどにサクを見詰めた。
「は?」
漸く絞り出したシノノメの聲は少し裏返っている。それもその筈である。サクやシノノメのような
「あはは。シノノメ、愉快な
「いやいや、嗤い事じゃあないだろう。なんで此処に居るんだよ。いや、
「寧ろそっちのが助かったんだけどね。残念ながら縁は結ばれてるのに、こっちに来ちゃってるというわけ」
「……もしかして、
はっとした様子のシノノメに、サクはにやりと嗤い返した。縁を結ぶ相手は己では選べないゆえ、何れの器と結ばれるかは運次第。そしてサクは兎に角くじ運が無い。縁が結ばれると必ず、その器は病死や事故死、自死という末路を辿るのだ。――そして今回結ばれた器は「異性」の器。
「まあ要するに、本当に「結婚」になっちゃったてわけさ。ここまで運が無いと面白いよね」
「こっちに戻って、どれくらいなんだ。器とどれくらい離れているんだ」
「ん――……。今回は長いな。
「は?そんなんで器は無事なのか」
「たぶん?」
「たぶん、て。御前、
シノノメが何を尋ねているのか、サクは
「あはは、まあ消えるときは消えるのだし。僕の運の悪さもここまでくれば、嗤えてくるよね」
「サク、
「わかってるさ。でもどちらにせよ、もう
サクはううん、と白く細い腕を伸ばして伸びをした。見上げれば、天ツ原の昊は変わらず星々が犇めき合っている。灯りがなくとも周囲が見渡せるほどにその瞬きは眩い。きっと己が消えるまでにそう時間はあるまい。
「サク、どうにかならないのか」
「はは、それは僕が知りたいね」
「サ――……」
何の言葉を続けようとしたのか、サクには解らない。シノノメがサクの名を呼び終える寸前、突如サクの
「まったく――……」
サクは直感した。これは器との縁に違いない、と。
「噂をすればなんとやらだ。どうやら、器の元へ戻れそうだ」
「サク。必ず、また逢おう」
シノノメの義務めいた言葉に、サクは微笑みで応じた。そして決して「また逢おう」とは返さず、その代わりの
「いってきます」
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