無垢なるがゆえの恐怖

ヒューバート・ヴェナブルズ著の「フランケンシュタインの日記」という小説がある。本家メアリー版の二次創作だが、ここに登場する怪物には村からさらってきた子供の脳が移植されている。それゆえメアリー版に登場する知的な怪物とは違い、この作品からは無垢ゆえの狂気というか、理屈の通じない純粋な暴力性が感じられる。私は初めてこれを読んだときの、ある意味絶望的ともいえる得体の知れない恐怖を今でもはっきり覚えている。
さて、本作『天使の森』であるが、仕事を終えた特殊詐欺グループがその日の寝ぐらへ向かうところから物語は始まる。この特殊詐欺グループが象徴しているのは、悪意と打算に充ちた「大人による恐怖」。それに対して「天使?」たちが垣間見せるのは、無垢で理屈の通じない「子供ゆえの恐怖」だと私は感じた。小さな子供が虫を捕らえて遊び半分で殺すように、憎悪からでもなく金儲けのためでもなく、ただ殺したいから殺す。この「大人による恐怖」と「子供ゆえの恐怖」の対比が、じつに効果的に使われている作品だなと私は感じた。
もうひとつ。不条理感あふれるストーリーにもかかわらず、なぜか不思議と後味は悪くない。心温まるとまでは言わないが、読み終えてなぜかホッと救われたような気分になる。これはやはり作者の創作センスの良さからくるものだろうが、あまり褒めると警戒されそうなのでこの辺にしておく。
ストーリーの解釈には、読者の想像に委ねる部分が多々あり、一度読んだだけでは理解しきれない部分もある。それが少し不親切に思われるかもしれないが、元々ホラーというのはあたまで考えるものではなく、心で感じ取るものなのだ。ブルース・リーも言っていたではないか。「Don’t think. Feel!」と。

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天使の森