第4話 恋する街角【仮面舞踏会】

いらっしゃいませ


『アリスcafe』へようこそ



本日は頂き物ではありますが、ノンアルコールシャンパンの良いものをご用意いたしました。


明るいうちに飲む背徳の味 いかがでしょうか




――――



爆乳姫子さんから思いも寄らぬご招待


「仮面舞踏会に参加して」


えっと 何をおっしゃっているのでしょうか



――――



まだ企画の段階ではありますが、恩義有る先輩の一世一代の舞台を彩りたいとのこと


姫子さんがそこまで言うのです。


出来るだけの協力をさせて頂きましょう。



でも私 ベネチアンマスク持っていませんよ。

しかも社交ダンス苦手でございます。きっと脚踏みますよ。



「大丈夫 お雪のマスクはこっちで用意するから

 それに今回は舞踏会と言っても名前だけだからね ダンスはないよ」


踊らない舞踏会・・・ もしかして『武闘会』・・・



「そんな少年漫画の展開はないから」


いえ 冗談でございます。



「衣装はカクテルドレスではなくて『聖女さま』の衣装ね」


えっ 不安しかないのですが・・・



「ちなみに私の衣装は『宮廷魔導士さん』だよ」


ふたりで聖女さまテーマですか何か意図があるのですね。


周りがカクテルドレスで私たちだけ聖女さまファッションだったら泣きますよ。



「念のため明日衣装合わせと打ち合わせしておこうか」


ぜひそうしてくださいませ。



――――



打ち合わせに訪れた爆乳家・・・

のはずでしたが、そのまま連行されましてレイヤー先輩のお宅です。



レイヤーさん ご存じの方も多いと思いますがあえてご説明


アニメやゲームキャラクタ 小説の登場人物などのコスチュームをまねて

着用することでその世界観を楽しむことを趣味とされている方々です。

コスチュームプレイヤーさんですね。



姫子さんの先輩は、衣装を創り上げる被服能力をお持ちのレイヤーさん

好みのキャラクターのコスチュームを再現して自分で着用して楽しむのです。

以前訳ありまして、聖女さま『小鳥遊聖さん』の衣装を作っていただきました。


 ~ 小鳥遊聖さん ~ 


私の聖女伝説の元となったライトノベルの主人公さん

聖女「セイ・タカナシ」として異世界にて活躍中でございます。


 ~    ~    ~ 



衣装を作っていただいたときもそうではありましたがレイヤーの先輩さん ノリノリなんですもの


今回はウイッグや髪留めなども用意して頂きました。


「想像以上に聖女っぽいね ウィッグいらなかったかな」


地毛で十分ですからね。聖女「セイ・タカナシ」さんと髪型や体型は一緒ですよ。


それに『世界樹の聖女』として活躍してますからねっ(ヤケ)



「姫子さんから聞いてますよ。だから聖女さまして欲しかったんです。

 コスプレって衣装を着るだけじゃダメなんです。

 気持ちも成り切らなくてはいけないんです。

 いままで何度も聖女さまとして対応してきたのですよね。

 それが自然に出来る人こそ聖女さまの衣装をまとうべきなんです」


語りの圧力がすごいです。



「当日『聖女の術』やってくださいっ 期待してます」


いやですよぉ



――――



私を誘った姫子さん もちろん参加です。


姫子さんは一緒に作っていただいた宮廷魔導士『御園アイラさん』の衣装です。


 ~ 御園アイラさん ~ 


小鳥遊聖さんと同じ物語に登場する可愛い女の子

宮廷魔導士『アイラ・ミソノ』として聖女さまと一緒に異世界にて活躍中でございます。


 ~    ~    ~ 



「私の魔法で癒やしてあげるからね♪」


姫子さんノリノリではありますが 原作ではそんなセリフはありませんよ。


レイヤー先輩からもご指導を受けております。やるからにはなり切らねばなりませんよ。


姫子さんの場合は髪色も長さも違います。


ブラウンのウィッグをつけて調整します。

おぉ ウィッグって髪を短く見せることもできるのですね。髪が変わるだけでも別人のようです。


あと違いと言えばその「爆」なものです。アイラさんはそれほど・・・ そのままでよろしいのですか


一部分が大人びたアイラさんの完成です。





『仮面舞踏会』~マスカレイド~


どうしてこんなことになったのでしょう。



姫子さんとレイヤー先輩さん 共通の友人 マスク先輩(仮名)


そのマスク先輩の恋の大舞台を作るためでした。



マスク先輩 先日 羨ましいことに年下の彼より愛の告白を頂いたそうです。


大変喜ばしいことなのですが、先輩は趣味を理由に振られてしまった過去をお持ちです。




――――



マスク先輩もレイヤー先輩と同じくコスプレを楽しまれる女性のひとりです。


普段は特に目立たない大人しい女性なのですが、コスチュームを整えるとキャラクターが憑依するようです。

まったく別人格となって張り切ってしまう姿は目を疑うほど


そんな姿を見てお付き合いしていた殿方は引いてしまったようです。

趣味として受け入れてもらえなかったのでしょう。


「君のことを知らなさ過ぎたようだ」と離れてしまいました。



それは個人の価値観です。どちらが悪いわけでもありません。

でも失敗例として心に深い傷を残してしまいました。



――――



今回告白をして頂いた年下の殿方 


マスク先輩としましては、お付き合いをしたい気持ちは大きいのです。


でも同じことを繰り返してしまいそうで怖い


そんなマスク先輩は勇気を奮いコスプレの趣味を打ち明けました。

それだけ本気で好きなのですね。



年下の殿方は笑顔で受け止めてくれたそうです。

恥ずべき趣味ではないと肯定していただけました。



でもマスク先輩の不安は残ります。

頭でわかっていても、実際に目にしたら嫌悪されるのではないだろうか


はじけてしまっている別人格となった私 それでも好きでいてもらえますか



§



恋するマスク先輩 大きな賭けに出ました。


「仲間にお願いしてコスプレの会を開きます。

 その会に招待します。


 そこで私の姿を見て受け入れられないと思ったらそのまま帰ってください。

 何も言わなくてもかまいません。

 翌日からもいつもと変わらず先輩でいられるように努力します。


 もし受け入れてもらえるのでしたらもう一度告白してください。

 その場でお返事をします」



§



恋する乙女の一大決心

その勇気に敬意を表します。


レイヤー先輩も友人の決意に賛同したひとり


多くのレイヤーさんに参加してもらって『決して特殊な趣味なのではない』ことを表現したいとのこと

だから私にも声がかかったのですね。




喜んでお受けいたしましょう。

恋に恋する乙女です。その晴れ舞台に参加させていただきます。


聖女『ユキ・オトナシ』


本気で聖女になって見せましょう。

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