恋する街角～アリスcafeへようこそ～ 【リアル恋愛短編集】

第2話 恋する街角【サクラサク】

いらっしゃいませ

『アリスｃａｆｅ』へようこそ

本日のお茶菓子はスモークアーモンド　ブラジルコーヒーをブラックで合わせてはいかがでしょうか

かなり甘めの恋バナを用意しておりますのでブラックがよろしいかと

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さくら先輩の蕩ける笑顔を見てから一ヶ月

明日　英国より帰国予定です。

「お花の手配は完了です。プロポーズ用の花束ですって言ったから店員さん張り切ってました」

お花屋さんも乙女ですよね。気合入りますよ。今頃恋バナで盛り上がっていますよね。

「でもプロポーズには早いのではないですか　今回は告白の予定ですよね」

「勢いでプロポーズまで行って欲しいですよぉ　煽っちゃいましょう」

アリスさん　明日は周りの方々に迷惑をかけないようにお願いしますよ。

アリスさんはのっぽ先輩より花束を用意する極秘ミッションを依頼されたようです。

花束を持ってさくら先輩をお出迎えなんてやるときはやる殿方ですね。

でもお花屋さんにどうやってお願いするのか迷ってアリスさんに任せたのでしょう。

のっぽ先輩　アリスさんに『極秘』ミッションなんて依頼するとどうなるかわかっていませんね。

すでに全チームの恋バナ大好きな乙女全員に情報共有完了いたしております。

『極秘』ですから殿方にはお話ししていませんよ。数少ないですけど

――――

さくら先輩の帰国当日のアリスｃａｆｅ

アリスさんはお約束の花束をこっそりのっぽ先輩に手渡します。

のっぽ先輩はきっちりしたスーツ姿

もうプロポーズの佇まい

「花束ありがとう　それじゃあ　行ってくるから」

「いってらっしゃぁい　がんばってね　報告してくださいよ」

明るいアリスさんのお見送りと女性からの生暖かな眼差し

「「「「いってらっしゃい」」」」

なぜかお見送りの声が多いですね。珍しくほぼ満席のアリスｃａｆｅです。

しかもみなさん妙な笑顔でいらっしゃいます。

――――

「車　待たせてあるから　機材用意　良いよね」

もちろん用意してあります。予備機もありますよ。

それでは私たちも行ってまいります。

「「「「いってらっしゃい」」」」

のっぽ先輩を見送った後、私たちも出発です。

姫子さんが見つけた限定スイーツをアリスｃａｆｅ用に購入するためでございます。

用意していただいた車に乗り込んだのは私と姫子さん　そしてアリスさん・・・

アリスさん　お留守番の予定でしたよね。

「プロポーズを見守るところまでが花束の依頼だと思うんですよぉ」

なんですか　その遠足は家に帰るまで理論は

仕方ありません。それでは撮影班お願いしますよ。

話題のスイーツはなんと空港限定の商品のようです。

みなさんのご希望ですからスイーツを買いに空港へ向かいましょう。

――――

久しぶりに空港に参りました。

この雰囲気良いですね。なんだか心躍るものがございます。

さっそく目的のスイーツを購入

目的達成でございます。

あとは、せっかく来ましたので少しゆっくりと施設をめぐりましょうか

「テストでぇす　ｃａｆｅのみなさん聞こえますかぁ」

偶然持っていた機材のカメラテストです。

無事にアリスｃａｆｅに中継が出来ているようですね。安心いたしました。

手元のスーツケースにはハイビジョン中継器

技術の無駄遣い　ふっ　恋する乙女にとっては優先事項でございます。

しかしアリスさんにカメラを持たせたのは失敗でしたでしょうか

いつものふりふりアイドルファッションにインカムを付けたカメラ片手の女の子

ものすごく目立ってます。逆に目立ちすぎて『まだ無名の地元密着型アイドルが頑張って取材してます』に見えてきました。本人もノリノリです。

・・・本当に取材始めちゃいましたよ。

なんだか初々しいカップルに突撃しております。新婚旅行に出かけるところのようです。それはそれはおめでとうございます。心よりお祝い申し上げます。

アリスｃａｆｅで視聴しているお姉さま方

インカムを通して歓声が聞こえて参ります。みなさんお好きですね。

「それではスタジオさん　お返ししまぁす・・・　ご協力ありがとうございましたぁ」

照れながら去って行く新婚さん

ご迷惑をおかけしました。うちのアリスが申し訳ありません。せめてじゅうななさいの聖女が幸せをお祈りいたします。

「カメラテスト　良好です。本番いつでもいけます」

あなたのノリについて行けませんよ。

近くでは警備員さんにこの状況を説明する姫子さん　

お騒がせしております。素人の撮影ですよ。商業撮影ではございませんよ。

――――

見つけました。　

・・・いえ　空港にスイーツを買いに来たら偶然見かけてしまいました。

到着口から少し離れたベンチ

スーツ姿で花束を抱えている殿方　すっごく目立っています。　

大騒ぎしているアリスさんよりも注目を集めています。

みなさん事情を知らなくても、あの姿を見たら何となく察しますよね。

がちがちに緊張している様子が伝わってまいります。おかげでアリスさんにも気が付いておりません。

こちらは購入したスイーツと予備機材や中継器の入ったスーツケースをゴロゴロ

姫子さんと腕を組んでイチャイチャしている新婚百合カップルのふりをしております。（謎設定）

この程度ではまったく視線を感じませんね。すべてアリスさんとのっぽ先輩に持っていかれたようでございます。

アリスｃａｆｅのお姉さま方からは、緊張したのっぽ先輩の姿に黄色い声援が飛んでおります。

お姉さま　声を大きくしても本人には聞こえておりませんよ。

私たちは偶然見つけてしまっただけですからね。偶然

さきほどさくら先輩の乗った飛行機が定刻通り到着したことは確認しております。

そろそろゲートから出てくるはずです。

――――

ゲートから出てくる人が増え始めました。

そろそろ先輩が出てきてもおかしくないですね。

家族や友人と待ち合わせた人が待ち人を見つけ、駆け寄ったり手を振ったりしている姿が見られます。

なんだか幸せな光景ですね。

おばあちゃんに駆け寄って行く小さな女の子

楽しみにしていたのですね。後ろには軽く会釈するご夫婦　良い光景でございます。

ここで見ているだけでいろいろな人生を想像してしまいます。

そしてゲート右隅に花束を抱えて待機している殿方が一人

先ほどからギャラリーが増えております。確実に増えております。

特に女性の数が増えております。

花束を持ったスーツ姿の殿方

その後ろには大きめのインカムをつけてカメラを持ったアイドル風の女の子

ぜったいに何か番組の企画でプロポーズする場面ですよね。

恋する乙女たちが見逃すはずはありませんよ。

でも周りが全く見えていないのっぽ先輩　　ずっとゲートを見つめています。

来ました。

さくら先輩　ゲートから出てきました。

周りの空気が変わりました。みなさんヒロイン登場に気が付いたようです。

「さくらっ」

「のっぽ・・・どうして・・・」

「迎えに来たよ」

アリスｃａｆｅからの音声が聞こえてきません。

周りも急に静かになりました。時間が止まったかのようです。

さあのっぽ先輩　最高のステージですよ。

思い切って告白してください。

のっぽ先輩が半歩踏み出したところへ　さくら先輩駆け寄って胸に飛び込んでしまいました。

心に描いていたシナリオが・・・

落としてしまった花束　転がるスーツケース

「大好きっ」

さくら先輩が我慢できなかったのですね。溢れてしまったのですね。

無言で抱きしめ返す　のっぽ先輩

ハッピーエンドが成立したようでございます。

静かだった空間　私の隣から拍手が聞こえます。　姫子さんです。

そうですね。祝福しましょう。　私も拍手

そして周りのギャラリーからも大きな拍手が贈られます。

これ番組の企画だったら大成功ですよね。

アリスｃａｆｅからも拍手と黄色い・・・乙女とは思えない叫びが・・・

周りの拍手に気が付いて照れながら頭を下げるふたり

でも離れないのですね。お互い腰に手をまわしたままです。

「先輩　おかえりなさい　おめでとうございます」

いつの間にか近寄って冷静に声をかけるアリスさん

まったく違和感がありませんでした。恐ろしい子・・・

びっくりして固まるふたり

そして

「さくら先輩　生中継してますよ」

周りにも聞こえるように姫子さんが声を上げます。

――――　空白の三秒間　――――

「いやぁぁぁ　はずかしぃぃぃ」

真っ赤になった顔を隠すためにのっぽ先輩の胸に顔をうずめるさくら先輩

イチャイチャしているようにしか見えませんよ。

私たちが近寄って行くとギャラリーからお祝いの声

「おめでとう」「おめでとうございます」「おめでとう」「爆発しろ」

いや　もう爆発してますよ　このふたり

「プロポーズ成功　おめでとう　お幸せに」

熟年ご夫婦さんからもお祝いされております。

花束を持ってスーツ姿で待っていた殿方

その姿にすべてを察した女性が胸に飛び込んで返事をした。

プロポーズですね。　プロポーズにしか見えません。

「ありがとうございます」

ちょっと落ち着いたのっぽ先輩が深々とギャラリーにお辞儀します。

花束とスーツケースを回収して、手を取り合って歩き出すふたり

幸せな後ろ姿です。

「すごかったね」「あんなプロポーズされたい」

「やっぱり今の時代　待ってるだけじゃだめね」

「ドラマの撮影だよね」「放送いつかな」「女優さんの名前わかる？」

「中継でしょ　私たちも写ったよね」

「美男美女の組み合わせってズルいよね」

「あのカメラの子可愛いよね　推せる」

多大なる誤解をあとに残して一大イベントが無事終了しました。

乙女ミッションコンプリート

◇

「さくら　こんな形になったけど・・・好きだよ」

「言うの　遅いよ」

花束を抱えて腕組んで　空港をゆっくりと歩くふたり

ドラマのエンディングには最高の場面です。

この後スタッフロールが流れるんですね。

先輩　良い雰囲気のところ申し訳ございませんが、後ろにカメラを持ったアリスさんが付いていることご存じでしょうか

まだ生中継は終わっていないことをご存じでしょうか

アリスｃａｆｅ大変なことになっているようですよ。