第150話

今回もがっつりなイチャイチャのみの回です。ストーリーは一ミリも進みません。

苦手な方、読むのにふさわしくないと思われる方は、閲覧をお避け下さい。



――――――――――――――――――――



 太腿に、なにかが当たっている。

 ――……これって……

 カァッと顔が熱くなる。


「わかってくれ」


 と切なそうな顔をされると、ドキドキしすぎて眩暈がしそうになる。


「マ……え、あの……っ」

「だから、私も男だと――」

「は、はい、あの」

「いや、怖いなら怖いと言ってくれて良いんだが」


 怖いというか、驚いただけです、と告げる声は小さく掠れている。絶対に無理はしないでくれと懇願するように言われ、まるで壊れ物扱いされているような気になってくる。


「そんな簡単に壊れませんよ?」

「壊……っ」

「?」


 私の言葉に動揺するマクス様に首を傾げてみせると「ああ、そういう意味ではないな、うん」自分に言い聞かせるように彼は呟く。

 彼の手が、肌に直接触れる。じんわりと温かさが伝わってくる。マクス様から、祝福を受けた時のような、幸せにも似たものに身体中が満たされていくようだ。

 ゆっくりと形を確かめるように触れられると、恥ずかしくてたまらない。腕を口に押し当てて、羞恥に耐える。そうされているうちに、お腹の奥が切なくなってくる。

 触れられているのが嬉しくて、それなのにとてももどかしい。

 私は彼の首に腕を回して抱き寄せると耳元に囁いた。


「マクス様の、好きなようになさってください」


 これまでと同じように困ったような顔をするかと思ったのに、彼はくすっと小さな笑いをこぼして、私の耳に舌を這わせてきた。そして、ゆっくりと耳の中に舌を挿し入れられる。


「きゃぁっ?!」

「んふふ……こういうのは、初めてだろう?」

「やっ、な……なに、をなさ……って」


 耳の中で響く水音に背筋がぞくぞくする。


「は……っ、ビー、あなたは本当に可愛いな……」


 吐息混じりの低く掠れた声に、身体が跳ねた。

 マクス様はくつくつと笑いながら、私の耳を舐める。時折軽く吸い上げられ、歯を立てられると、甘い痺れに襲われる。その刺激から逃れようと身を捩ろうとしても、のしかかられているせいでどこにも逃げられない。

 そのうちに声が漏れてくるようになってしまって、彼はそんな私の反応を楽しむように、全身に唇で触れ、愛してくれる。

 やがて彼の舌先が首筋へと下りていき、鎖骨や肩口にも唇が触れた。そのまま肩、腕と徐々に下りていって、手首にそっと口付けられる。


「あ……っ」


 ぞくりと背筋が震えた。マクス様は私の腕をぐっとベッドに縫い付けるように押さえ、もう片方の手で夜着の前を開く。恥ずかしさから私は顔を逸らすけれど「こっちを向いて」とねだられてしまう。


「綺麗だよ、ビー」

「そんな……」


 そのような言葉をかけてもらえるような身体でもないと思うのだけれど、それでも、好きな人からそう言ってもらえるのは嬉しい。


「もっとよく見せて」

「は、はい」

「……ははッ」


 彼は心底嬉しそうに笑う。

 マクス様の手が私の内股を優しく撫でる。それまでに与えられたもので、全身が敏感になっているようで身体が跳ねそうになる。


「ん……っ」

 

 身体の隅々まで愛されているうちに、呼吸が乱れ、苦しくなってくる。うっすらと浮かんだ涙は、彼の唇で拭われる。


「マ、マクス様……」


 訴える声が掠れる。


「あの」

「なんだい?」


 彼の顔も恍惚としているように見えて、心臓がバクバク鳴ってしまう。


「あの、エルフ族の、こういう行為は長いって、おっしゃってましたけど……」

「ん? ああ、長い……だろうな。あなたは人間だから、加減するつもりだが」

「も、十分長いですっ」

「うん?」


 長いのは、具体的な行為のことではなかったのか、と訴えると、彼は肩を震わせた。

 ――あ、傷つけてしまったかしら。

 文句を言ったわけではない。焦った私の腹部に額を押し付けた彼は、ふつふつと笑い出した。


「はっ、はははッ、すまない。あまりにあなたの声や仕草が可愛らしくて、止められなくなっていた」

「笑い事じゃないんです、マクス様……」

「あまりに焦らしてはいけないな」


 にんまり微笑んだ彼が、覆いかぶさってくる。

 そして額を合わされて――


「っ! マクス様」

「うん?」

「今、魔法使おうとなさってますね?」

「おや、気付いたか」


 笑う彼の胸を押す。


「もしかして、私を気遣って」


 痛みを忘れさせるようなものを、掛けようとしているのでは?

 そう問えば、彼は少し気まずそうな顔になった。


「必要ありません」

「だが」

「嫌です」


 誤魔化されているようで、嫌だ。全部、覚えていたい。素直に感じるまま、彼を受け入れたい。

 そう訴えれば、彼は眉を下げて唇を重ねてきた。


「すまない、勝手に、そうすべきだと思ってしまっていた。気遣いではなかったな」

「ならば」


 このままで、と言えば、またキスをされて。

 

 彼はやっぱりとても優しくて、私の身体を気遣ってくれて――数時間後、私は気を失うように眠りに落ちた。



 翌朝、またしても小さな声が聞こえて目を覚ました。

 マクス様が、私とはじめて共にベッドで休んだ朝を思い出す。


「だっ! そんな顔をするな、文句を言うな! 彼女は私の妻だ。なんでお前からそんなことを言われなければいけないんだ……! こら、やめろ、おいっ、齧るなッ」


 目を開ければ、マクス様が髪をクイーンに齧られていた。


「おはよう、ございます」


 声がかすれている。上手く出すことが出来ない。散々上げさせられた声は、完全に枯れていた。

 こほ、と小さく咳をすれば、クイーンはマクス様の頭に噛り付いた。

 

「痛ッ! こら、やめろっ!」


 マクス様が片手で私を抱きかかえたまま、もう片方の手で振り払おうとしている。

 ――そういえば、クイーンには魔法で抵抗しようとしないのね。

 効かないということはないだろうから、なにか事情はあるのだろうけど。

 クイーンの大きな顔が真横にある。その目は、じとーっと不満を示していた。


「これにも慣れろ! これからはほぼ毎朝だぞ。いちいち怒っていたら寿命が縮む。私の髪も痛む」

「……え。毎日なんですか?」

「……ん?」

「ちょっとそれは無理です。せめて週1で……出来れば月1くらいで。」


 正直に告げると、マクス様は目に見えてショックを受けた顔になった。

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