第149話
※はじめに。
今回イチャついているシーンしかありませんので、苦手な方、読むのにふさわしくないとご自分で思われる方はご遠慮ください。きっと次回もイチャついてます。
――――――――――――――――――――
マクス様、と自然に言葉がこぼれる。
「好きです」
「うん」
「愛してます」
「私もだよ」
ビー、と私を呼びながら彼の顔が近付く。私は目を閉じる。唇に柔らかなものが触れる。ちゅ、と小さな音がして、それは何度も啄むような口付けに変わる。
「ん……」
「ビー、口を開けて?」
「は、い」
言われるがままに唇を薄く開くと、彼の舌がぬるりと入り込んでくる。その感触は初めてなわけではない。けれど、これからのことを思うといつもとは違うように感じられてしまって、身体が強張る。そんな私の反応に気付いたようで、マクス様は安心させるように頭を撫でたあと、私の舌を優しく舌先でつついた。
「怖かったら、正直に言うんだよ。我慢はしてはいけない」
「っ、はい」
「でも」
彼は、ゾクリとするような艶めいた笑みを浮かべる。喉の奥に心臓が移動してきてしまったようだ。どくどくと鳴る鼓動のせいで、呼吸もままならない。
「良かったら、それも我慢しないでいい」
「っ?!」
「ははッ、真っ赤だな」
可愛い、と彼は言って、また唇を合わせてきた。
「ん……っ、ぁ、ふ……っ、はふ」
「は……」
聞こえてくる小さな水音に、恥ずかしさから口を閉ざしてしまいそうになる。のだけれど、マクス様はそれを許してくれない。顎を指で抑えられて開かされると、もう逃げ場はない。
「ビー、ん、っ……」
「マクス、様」
唇が離れると、彼はゆっくりと体を起こした。
「苦しくはない?」
こくりと頷けば、ちゅ、と目元にキスされて。
私は目を瞑る。顔が熱い。じんわりと汗が浮かんできている。
――恥ずかしい。けれど、嫌ではないの。
羞恥心に追い立てられて今すぐにでも逃げ出したい。でも、そんなことをしたところで、彼から逃げることなどできないのだ。
彼にこういう関係を求めたのは私。
言葉にして、彼のものになりたいのだと言ったのは、望んだのは私だ。
身体の繋がりだけがすべてではないけれど、お互いに求め合っての夫婦となっている今、なにもないのは不安――いや、不満だった。
けれど、経験のないものに対しては、正直に言って恐怖心がないわけではなかった。
「やっぱり怖いか」
「……ぅん、少しだけ」
「正直なのはいいことだ」
笑った彼の唇が再び重なると、今度はすぐに舌が入り込んできた。嫌ではないのだ、と伝えたくて、私も必死に応えようとする。
「ん、ふふっ」
マクス様はキスをしながら笑うと、私の夜着のリボンをしゅるりとほどいた。その下に肌を覆っているものはない。直に空気に触れて鳥肌が立つ。彼の手が触れそうになった瞬間、私は思わず唇を離した。
「あ、あの……っ!」
彼の胸を押す。
「うん? どうした? 嫌なら止めるが――」
彼は気遣うように私を見つめる。そうじゃない、と首を横に振って、私は自分の身体を腕で隠しながらおずおずと彼を見上げる。
こくっとその喉が鳴るのを見ながら「灯りを……」とねだれば、ハッとしたように彼は指を鳴らした。
「すまない。私も、冷静ではないな」
マクス様は笑って、こつりと額を合わせてきた。部屋は、眠る時と同じくらいに薄暗くなっている。これならば、少しは恥ずかしさも薄れるというものだ。
「まだ明るいか?」
「いえ、大丈夫です。ありがとうございます」
「なら、良かった」
マクス様は私を抱き寄せる。ベッドに並んで寝転がれば、またすぐに顔が近付いてくる。
唇を啄まれ、頬や鼻先にもキスされる。くすぐったいけれど、それがどこか心地良い。思わず笑みをこぼせば、彼も嬉しそうに微笑んだ。
「ビー、愛してるよ」
「マクス様」
今度は、私から口付ける。彼は一瞬驚いたように唇を強張らせたあと、すぐにそれを笑みの形に変えて応えてくれた。
舌先が触れあうだけで、甘い痺れのようななにかが背筋を走り抜ける。その感覚に背中を震わせると、マクス様がふっと小さく笑ったような気配がした。
吸い上げられるように唇が離れると、銀糸が伝う。彼の大きな手が、あらわになっている肌に触れた。
私は思わず息を呑む。
「大丈夫、優しくするから。今までだって、無理強いはしていないつもりなんだがな。信用がないか?」
「マクス様は、いつでもお優しいです」
「そうか?」
「ですから、そう言いながらも無理矢理するのではないか、などという心配をしてはいなくて」
じゃあ、なにが不安なんだ? 彼はそう言いながら、首筋に唇で触れる。
「あっ」
思わず声が漏れた。慌てて口をつぐむ。
「全部聞かせて、ビー。不安なものを抱えたまま、身を任せたくはないだろう?」
優しい声に、ここで正直な思いを押し殺してしまうのは彼に対して決して誠実な態度とは言えない、と、勇気を振り絞る。
「あ、の……もし、もし私が」
マクス様は顔を上げて私の目を見る。澄んだ空色の瞳が、今は部屋の光を反射してほんのりとオレンジがかって見える。
「……その、途中で、私がとても、淑女らしからぬ様子であっても、あの……嫌わないで、くださいますか……?」
「ッ!!」
マクス様は息を呑んで、片手で目元を覆う。辛そうにも見える様子に
――やっぱり、そういうは子はお好みではないのだわ。
なにがあっても乱れてはいけない、と、もう今更かもしれないことを決心する。
今まで、途中までといわれる範囲で触れられたことは何度かあった。そのたびに知らない感覚を教えられて、声が枯れてしまうのではないかと思ったくらいだ。あとになってから、あの態度は淑女とは言えなかったと反省するばかりだった。
――我慢しないで、なんて言われたら。
それこそ、どうなってしまうことか。
あまりにもはしたない私を見られて、呆れられないでいられる自信がないのだ。
不安に揺れる視線を彼に向けると、大きな溜息を吐いたマクス様は
「ビー、お願いだからそれ以上煽らないでくれ。私ももう限界なんだ」
そう言って、ぐっと身体を押し付けてきた。
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